紙の本
戦争を記録し、静かに読者との出会いを待っている。そんな一冊。
2006/04/12 18:35
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:和田浦海岸 - この投稿者のレビュー一覧を見る
先頃、テレビを見ていたら、お砂糖が値上がりしているのだそうです。
何でも、ガソリンの代用としてブタノールを作る。その原材料として使用にまわされるためのようです。これからの石油危機への代替エネルギーとしてコスト高でも世界的に作られているのだそうです。
さて、この本は昭和18年から始まっております。
最初に台湾の「台東製糖株式会社の酒精工場で蔗汁(さとうきびの汁)からブタノールを製造する工業的試験に成功。酒精工場をブタノール工場に切り換え改造ちゅうのある日、台湾軍兵器部から出頭するよう電話があった・・」という記述からこの日記は書きおこされておりました。
そして家族を台湾から内地へと引き揚げさせ。
その後、朝鮮の工場・樺太の王子製紙の醗酵工場を見て回り、昭和19年1月に陸軍専任嘱託としてマニラへと向かいます。
「サイパンは陥落し、まさに日本の危機であり、比島こそこの敗勢挽回の決戦場と何人も考えているのに、当時(19年4月、5月)のマニラには防空壕一つ、陣地一つあるでなく、軍人は飲んだり食ったり淫売を冷やかす事に専念していたようだ。ただ口では大きな事をいい、『七月攻勢だ』『八月攻勢だ』とか空念仏をとなえている。平家没落の頃を思わせるものがある。」
この「平家没落の頃」が目の前に展開してゆくのでした。
「19年7月頃には工場は八分通りできていたが、
工場はできても石炭が運べんので運転見通しがたたず、やむなく工場を打ち切り工場資材を他に転用することになった。比島のブタノールは当分だめということに決まった。こんな具合なので試験工場のほうも自然消滅ということになった。・・・早々人事係のところに行き、内地や台湾では醗酵技術者が不足して困っている時ゆえ、ご用済みの我々をただちに帰国させるように交渉した。すると、『軍属は用があっても無くても一年は南方におらねばならない。第一、一年もたたないうちに民間から採用した者を帰しては軍の威信にも関わる。あなた方の勲章にも関係がありますからしばらく我慢してくれ。皆そうなのだから』という。戦争に勝つために是非必要だというから、会社を辞めて来てみれば何のことはない。憤慨してもどうにもならない。・・」
そして、ネグロス島からセブへ、セブからレイテ、そしてネグロス。昭和20年1月元旦の日記は
「ネグロスに来てからは、寸暇もない位夜も昼も区別なく働き続け、慈父の如き部隊長のもとで自分の本職の酒精製造の技術を思う存分発揮し、決戦の毎日をご奉公できるのがじつに楽しかった。これならいつ死んでも良いとさえ思えた。マニラ時代のようでは死んでも死に切れなかったが。」
これから昭和20年3月ネグロス島の平地を捨て密林の山をさまよい。
投降するまでの記録。そして収容所日記がつづきます。その山の彷徨と収容所生活とがこの本のおもな内容になります。それは直接読まれることを薦めます。ここからが、読者との出会いを待っている貴重な箇所なので、私の紹介は、この前までといたします。
最後には山本七平の「『虜人日記』のもつ意味とは」があり、かっこうの水先案内をかってでております。
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人を殺すとか人に殺されるとか想像できるわけがない現代人に向けて、山本七平とかこの虜人日記とかは良いアプローチで反戦の啓蒙ができてるんじゃないかなーって思ってます。
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部下の傷病兵に自決を強いて、自分達だけ逃げ廻るような部隊の兵は、命令に従って負傷でもしたら大変と、敵が来れば一発も撃たずに逃げてしまう。ところが、傷病兵をよくいたわり、最後まで世話を見るような部隊は、敵とよく戦い、強い部隊と称賛された。177
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今度の戦争は、日本は物量で負けた、物量さえあれば米兵等に絶対に負けなかったと大部分の人はいっている。確かにそうであったかもしれんが、物量、物量と簡単に言うが、物量は人間の精神と力によって作られるもので、物量の中には科学者の精神も、農民、職工をはじめ、その国民の全精神が含まれている事を見落している。こんな重大な事を見落しているのでは、物を作る事も勝つ事もとても出来ないだろう。346
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一路故国へ向かう。十二月三日、人員が一名不足なので調べてみると、投身自殺者が一名あったのが解り、船は半日程引き返し死体を探したが、見つからなかった。戦争中はこのバアーシー海で何万という人が死んでも全く顧みる事がなかったのに、平和となれば一人の為にも一万トンの船を一日無駄に動かす。変な気がする。365
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太平洋戦争で、日本はなぜ敗れたのか。本書で説く「克己心の欠如、反省力なき事、一人よがりで同情心がない事、思想的に徹底したものがなかった事」など「敗因21カ条」は、今もなお、われわれの内部と社会に巣くう。そして、同じ過ちをくりかえしている。これらを克服しないかぎり、日本はまた必ず敗れる。
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渦中にいながら、ここまで冷静に記録を残すことができるのは、すごいと思った。
そのおかげで、我々は何が起こったのかを知ることができる。
集団としての日本人が、独善的で自らを省みないのは、今でもまったく変わっていないと思う。
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先の戦争の記録については、数多くの著作が世に出ている。
本書は、技師である著者が、客観的に記述し、そこに的確な
主観(実感)を交えて記述されており、
現在の日本の状況を見ても、教えられることは多い。
山本七平が絶賛するのもわかる気がする。
戦争体験記の名著。
一度は、読んでおきたい本の一冊だと思う。
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とても面白い作品でした。これからも、繰り返し読みたい。
人間の弱さや統率力、敗因など、その明晰な分析に頭が下がる。
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「新しい市場」(三宅)に引用。台湾精糖会社の一流の技術者が日本の敗因を冷静に分析。 日本人は不必要に神経質で、化学的に純粋でないと何だか気が済まない。自動車用にも不必要なまでに手をかけて品質の良い精製をする。米人はどうせ自動車用だと品質が悪くても平気でいる。だから彼らが設計した精製工場は素人だけでも運転できるようになっている。
日本人は計算、暗算、手先の器用さは優れる。資源が無いから、製品の歩留まりを上げるとか物を精製する技術に優れている。しかし、資源が豊富な米国にとって、製品の歩留まりなど悪くても大勢に影響はない。米国の技術者はその面に精力を使わず、新しい研究に力を入れる。一部分だけをみて、日本の技術は世界一だと思い上がっていただけだ。総体的に見れば彼らのほうが優れている。小利口者は大局を見誤る例そのままだ。
日本人は教育はあるが、教養がないと、米人が批評する。日本人の生活には趣味性とか情操とかいうものが少なすぎるから、一歩家を出るとの荒んだ生活になる。一億玉砕と内地ではいうが、マニラでは「打つ・買う・飲む」のデタラメをしている。 日本人には公徳心がなさすぎる。 米人は計算や暗算はできないが、教養がある。
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2014/3/18 読み始め 3/30 読了
凄い本を読んでしまった。読み継いでいかなければならない本。
現在、日本と中国・韓国で戦中・戦後に関して激論が交わされているが、虜人日記のように、冷静に書かれていたものがあったらなと切実に思う。
人間は弱い。何でも正/悪どちらか一方と断定してはいけない。そんなことを思った。餓死寸前までの境地にたったら、国民性はぶっ飛ぶんだろうな。アメリカ人がどちらかというと良く書かれているが、それは戦勝国のゆとりともとれる。性善説/性悪説、それは両方あるだろう。だけど圧倒的に性悪説がマジョリティだと感じた。上の人間によって組織は大きく変わる。自分は餓死寸前に食べ物をあげられる人になれる自信はない。それでも人を思いやる気持ち、道徳心、道義、そんなものを大切にしたいと思う。
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『日本はなぜ敗れるのか』の元ネタ。終戦時の手記の内容がいまだに通じるということは、これからも通じるということ。広く読まれるべきということで、あえて文庫本フォーマットで出版されている。内容的にR18+指定であるが、やはり手元に置いておくべきか。
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戦後のフィリピンで戦後捕虜になった方の手記。
これを読むと、日露戦争以後、いかに日本社会が虚飾、見栄、特権意識にあふれていて、それに気づいていても口に出してはいけないことになっていたかよく分かる。
今の自分達からは別物と思いたくなるが、脈々と戦前から持っていた驕りを心の奥底に残している気がしてならない。
もしかして、こういう話ってタブー?
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太平洋戦争終盤のフィリピンが舞台。マッカーサーを追い出した後の日本占領時代から、今度はマッカーサーにジャングルへ追いやられ終戦を迎え捕虜生活を経て帰国するまでの陸軍軍属の日記。著者のぶれない人間性に強さと人柄の良さを感じる。いろんな角度から戦争が見えて面白い。
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8月恒例の戦争関連本。戦争に関する小説やノンフィクションはたくさんあるが、この本がすごいのは、(ほぼ)リアルタイムで書かれていること。帰国した兵士や、従軍記者が、思い出しながら、権力を意識したり解釈を変えたりして書くのではなく、その日その日の出来事が、科学者である筆者の冷静で客観的で淡々とした観察から記録されている。敗因を考察して「細いことに拘りすぎて大局観を持たない」「不都合なことはなかったことに、また不利なことは起こらないと盲信」「リーダーが自己保身に走り、部下を大事にせず犬死させる」などの指摘があるが、70年以上たった今でも当てはまることがあり、やはり昭和から学ぶことは多い。
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軍属としてフィリピンに配属された技術者が、アルコール製造(燃料として軍用に使った)に奮戦し、米軍上陸により山中に逃れ、捕虜になって日本に帰ってくるまでの日記。戦争中の記録が半分、捕虜になってからの記録が半分といった分量。
このあいだずっとメモは取っていたそうだが、この形にまとめたのは捕虜になって相当してからとのことなので、2年間くらいの激動をさかのぼって書いていることになる。なかなか驚くべき記憶力だ。
軍人でないという立ち位置がもたらす観察者的視点のおかげで貴重な記録となっている。個人的には、まず極限的な状況を生き残ったサバイバル記録として読めるのだが、多くの人になにか日本文明論(たしかにそうした記述は多い)として受容されているあたりは日本的ではないか。
かなり悲惨な状況も淡々と描かれるし、そういったことを淡々と受け流せないと生き残れなかったとも思うのだが、最後に名古屋に上陸するとき「何の感激もない」とは言うものの、「レイテ島の○○○○」と大きく書いたのを掲げた婦人を見て、レイテの人で生きている人などいないのに、と泣く。読んでいるほうも、ふっと力が抜ける気がした。
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山本七平氏が絶賛するとおり、この記録が、その当時の状況下で書かれたことに意義があり、そのことが、偽りのない真実をありありとあるいは淡々と伝えることに成功しているのだと思う。私は、左翼の言うことよりも右翼の言うことに賛同してきたが、小松氏の日記を読むと、東南アジア各国あるいは、朝鮮・台湾の反日感情は、かならずしも戦後一部の国によって意図的に作られれただけではないことが理解できる。また、旧軍にも良いところがあったとしきりに言われるが、陸軍の将校たちは、かなり質が悪く、どうしようもなかったことも理解できた。
その他、植民地や戦場におけるあるいは捕虜収容所における様々なことを知ることができ、極めて有用な、極めて歴史的価値の高い著作といえる。
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太平洋戦争で、日本はなぜ敗れたのか。本書で説く「克己心の欠如、反省力なき事、一人よがりで同情心がない事、思想的に徹底したものがなかった事」など「敗因21カ条」は、今もなお、われわれの内部と社会に巣くう。そして、同じ過ちをくりかえしている。これらを克服しないかぎり、日本はまた必ず敗れる。フィリピンのジャングルでの逃亡生活と抑留体験を、常に一貫した視線で、その時、その場所で、見たままのことを記し、戦友の骨壷に隠して持ち帰った一科学者の比類のない貴重な記録。ここに、戦争の真実と人間の本性の深淵を見極める。第29回毎日出版文化賞受賞の不朽の名著。
漂浪する椰子の実
密林の彷徨
虜人日記
『虜人日記』出版にあたって 小松由紀
文庫版へのあとがき 小松ヒロ
『虜人日記』のもつ意味とは 山本七平