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日本人の特性が表されてるなぁと、「レミングの群れ」が一番印象的だった。死刑制度は本当に難しい。深く考えるきっかけにもなる小説だと思う。
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現在の日本では、1人を殺しても死刑にはならない。だが、本書で描かれるのは、「いかなる理由があっても人を殺したら死刑」という世界だ。4篇の短篇と、ちょっと長めの表題作で構成されている。
死刑がテーマだからあまり楽しい作品ではないが、それぞれに趣向を凝らした実験的な作品が多かった。だが、お薦めはやはり表題作だ。
殺された恋人が名前を偽り過去を隠して生きていた事実に、彼はどう向き合うのか。逮捕された犯人の弁護士に「死刑回避」の証言を求められた彼は……。
与えられたルールの中でいかに立ち回るかを描いた前4作に対し、正面から死刑の意味を問いかける重厚な作品だった。
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Amazonの紹介より
ここは、人を一人殺したら死刑になる世界――。
私たちは厳しい社会(harsh society)に生きているのではないか?そんな思いに駆られたことはないだろうか。一度道を踏み外したら、二度と普通の生活を送ることができないのではないかという緊張感。過剰なまでの「正しさ」を要求される社会。人間の無意識を抑圧し、心の自由を奪う社会のいびつさを拡大し、白日の下にさらすのがこの小説である。
恐ろしくて歪んだ世界に五つの物語が私たちを導く。
被害者のデザイナーは目と指と舌を失っていた。彼はなぜこんな酷い目に遭ったのか?――「見ざる、書かざる、言わざる」
孤絶した山間の別荘で起こった殺人。しかし、論理的に考えると犯人はこの中にいないことになる――「籠の中の鳥たち」
頻発するいじめ。だが、ある日いじめの首謀者の中学生が殺害される。驚くべき犯人の動機は?――「レミングの群れ」
俺はあいつを許さない。姉を殺した犯人は死をもって裁かれるべきだからだ――「猫は忘れない」
ある日恋人が殺害されたことを知る。しかし、その恋人は存在しない人間だった――「紙の梟」
一人でも殺したら、死刑という架空の設定ではありましたが、リアルすぎだなと思いました。近い将来、もしかしたらあってもおかしくないと思うくらい、昨今の実情を交えつつ、人間の心理を深く抉っていて、他人事ではないとも思ってしまいました。
人を殺したら死刑ということで、死ななければ良いという意味合いから瀕死の状態でも死刑にならないのか?
いじめによる自殺は、加害者は罰せられるのか?
など死刑をめぐる拡大解釈がえげつないなと思いました。よくそんな解釈ができるなと恐怖すら感じてしまいました。
物語の構成は二部に分かれています。第一部では、全4編の短編集、第二部では中編が1編書かれています。
第一部では、死刑を肯定する側としての心理描写が描かれています。
怨恨やいじめ、復讐など相手を殺したい人達の心情が、ミステリー仕立てで楽しめるのですが、どの作品もあっと驚かせるような展開になっています。
特にいじめをテーマにした「レミングの群れ」が衝撃過ぎました。合間に殺人者の視点が登場するのですが、メインとどう融合していくのか。後半はどんでん返しが待ち受けていて、ラストの展開に戦慄が走りました。
どの話も色んな方向から死刑に対する問題提起がされていて、考えさせられました。特にここでもそうですが、「レミングの群れ」が印象的でした。いじめによる自殺から始まる殺意の連鎖反応に究極のいじめ撲滅にはなる一方で、人間の倫理観が問われるなと思いました。
果たして、死刑で全てが終わるのか?十人十色、様々な人達の心情を知ることができました。
第二部では、第一部とは違い、死刑を否定する人側を中心に描かれています。殺された恋人は一体誰なのか?
調査をしていくうちに驚きの展開だけでなく、感動要素もあって、第一部で味わったギスギスした雰囲気とは違った空気感を味わいました。表題作の「紙の梟」が、どう作品に関わっていくのか。わかった瞬間は、切なさや感動が込み上げてきてグッとくるものがありました。
また、罪を償うためにも、生きて償っていく姿勢で立ち向かう姿が印象的でした。その裏側では、数えきれないネットからの誹謗中傷など今でも通ずる要素が多くあり、一瞬架空ではなく、現代だと思ってしまいました。
単なるミステリー小説ではなく、読み終えてもずっと考えさせられる作品になっていて、ある意味答えに困る作品でもありました。
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厳罰化が進み、人を一人殺せば理由の如何にかかわらず死刑、というルールになってしまった日本を舞台にした連作ミステリ。その世の中は果たして、治安のいい国と言えるのでしょうか……?
個人的には、死刑には反対です。ただしそれは、生きて苦しむ方があっさり死ぬよりも重い刑罰になるからだと思っているからなのですが。実際死刑になりたいから人を殺すとか、そういう犯罪を見ると「死刑の犯罪抑止力」って皆無だと思いますもの。だからもちろん、この作品で書かれたような「殺人即死刑」なんてのは賛同できません。こんな世の中にならないことを祈ります。
どの作品も凄いなあ。すべてこの「殺人即死刑」のルールありきで起こったともいえる事件なんですよね。「籠の中の鳥たち」にはもう唖然とするばかりでした。とてつもない狂気の論理としか思えないのですが。これがこのルールの生み出した歪みだと思えば、戦慄するしかありません。
「レミングの群れ」も悪辣だけれど。しかし殺してしまうまでいかなくても、ネット上での正義の名をかざした私刑ってのは現実に多いんだよなあ、と思えば、まるきりの絵空事とも思えないのが怖いところでした。そして田中一朗のひそかな愉しみがまた恐ろしい……。
だけど表題作「紙の梟」ではほんの少し救われた感がありました。ある日殺されてしまった恋人の秘密を追うことから始まる物語は、悲愴感がありながらもスリリングで読み応えたっぷりでした。人間の本性なんてそう簡単に分かるものじゃないのに、世間一般の情報だけを鵜呑みにして自分勝手に糾弾する人たちの醜さがまた現実感ありあり。その中で主人公は恋人の真実にたどり着くことができるのか。そして彼が考える死刑制度の是非にも考えさせられます。
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『レミングの群れ』『紙の梟』はなかなか読み応えがあり、5篇それぞれを別のものとして読めばいいのだろうけど、一冊に集まってしまうと、何やらやたら説教じみたものに感じられてしまった。
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「ハーシュソサエティ」という副題がついた5つの短中編は全て、人ひとりを殺したら事情の如何を問わず死刑判決が下されるという不寛容を極めた近未来の日本を舞台に描かれている。
筆者が死刑制度に対して反対なのか、手を変え品を変え死刑制度の悪弊を解く。私自身は死刑制度そのものには賛成だけど、作中で言う社会正義のためとか、犯罪抑止とい理由で賛成しているわけではないので、登場人物が語る死刑批判はどれも的外れで、論点のすり替えでしかないものもあって心には響かなかった。
1人殺せば必ず死刑などというややもすれば荒唐無稽な設定や、短編であること、死刑反対論が繰り返されることなどが原因で物語としてのまとまりや面白みに欠ける。
むしろネットでの行きすぎた個人攻撃や、歪んだ正義感が招く不寛容社会の方に焦点を当てて、最後の「紙の梟」を長編小説にしてくれた方が面白かっただろうに。
読みやすい文章でありながら毒のある貫井作品のファンとしては物足りない作品で残念。
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世界的にみて死刑を執行している国はとても少ないのが現状だ。
日本では世論調査の結果が数年おきに出されているが、多くの国民が死刑制度を認めている。
アジアや中近東などの地域で、イスラム教徒が多い国では、宗教上の理由で死刑を執行している。
日本で死刑制度を支持する理由として、死んでお詫びをするという武士道の精神が影響しているのではと、私は歴史社会学などは無視して勝手に想像しているのだ。
そうは言っても、戦国時代の特殊な精神構造が蔓延っていた時代ならばいざ知らず、江戸時代以降は切腹などはまれな事件だったらしい。
殺人犯が犯罪の罪を悔い改めようが、被害者側の遺族が情状酌量を加味した判決を希望しても、死刑が執行される世の中が描かれている。
表題の『紙の梟』が与えられている一編は、人の愛と優しさが綴られた秀作だったことが、この一冊を読み終わった後に満足感を得た印象だった。
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人を一人殺したら死刑になる世界。
その世界に身をおいたとき、人々はどういう感情を持つのだろうか…。
それを軸にした内容の5編の中・短編集である。
表題となっている「紙の梟」は、まだ人間味のある愛情の残った内容であったが、「見ざる、書かざる、言わざる」は、最初からインパクト強めで驚愕しかなかった。
「籠の中の鳥たち」は、暴漢に襲われた友人を助けようとした為に殺人を犯してしまう。
彼らが別荘で過ごすあいだに次々と殺される理由を辿ると…
「レミングの群れ」は頻繁するいじめに自殺するといじめの首謀者が殺害される。
犯人の動機は、一人殺して死刑になる為。
複雑で意味のない連鎖に思えたが、ラストに正体がわかる。
「猫は忘れない」は、上手くいったかに思えた復讐が捕まったあとに復讐ではなくなったと知った真実に愕然とする。
読み応えのある一冊だったが、短編はあまり好きではないなぁ。
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感想とかレビューが書きにくい。複雑な感情をもたらされるから。
いいね!とかそうだね!って安直に同意できない内容。
「死刑」という罰をどう思いますか。
アリですか、ナシですか。
一概には、言えないでしょ。
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理由の如何を問わず人をひとり殺したら死刑となる社会を前提とした思考訓練。
一人殺すも複数人殺すも死刑は同じなので、犯罪抑止にならないとか、自殺願望を持つ人が殺人に走るという連想はわからないでもない。
こういう社会に限った事件もあればそうでもないものもあり、雑多な印象。
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人ひとりを殺したら死刑になる世界の物語。
短編4つと中編1つ。
死刑というものを考えさせられる。
今のネット社会の歪みなどもリアルで面白い。
短編はなかなか読みごたえがあったけど、中編(表題作)は綺麗にまとまりすぎかなぁ。
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帯の説明にそそられて購入。
短編はオチが急に感じられて深みが無いように思えた。
最後の中編の後半はネット社会が舞台となるので、とても現代的な話だと思うのですが、最後に出た答えが「許されるためには、許さなければならない」という普遍的な内容なのが良かったです。
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時に出来不出来落差が大きい筆者・・が、好きな作家である。実際起きた事件からテーマを引き出し、読み手に考えさせる力を持っている方だと思う。
今回のテーマ「死刑廃止論」~個人的には廃止反対だがディベイトできるほどの立証力はない。
このボリュームで2部構成:一部は短編4作、二部は中編1作。
一部は現実非現実そっちのけでぐいぐい畳みかける展開、読み進めるのが時にしんどかった。
「一人でも殺したら死刑になる」が、殺し方の残虐度は問われないのか?
「見ざる・・」は犯行が傷害罪のレベルであること、日常生活の用具を使っての犯行など死刑要因にはなりえないけど手口的に「実行可能性」を考えられず・・・
「籠の中の・・」事後重版という存在の立ち位置、友情に勝る社会的正義など他の小説で最近考えさせられたテーマ
「レミング・・」昔からあったであろう苛め虐待~長年かけて作り上げて来た倫理観が破壊されて行く現代を一考させられる(頁を捲ることが恐くなった)
「猫は・・」主人公 俺の性格的なものが薄気味悪く 考えが薄っぺらい割に 変に自尊感情が濃い・・後味、極めて悪かった。
「紙の梟」一転して これは死刑賛成の立場で展開する。心なしか登場する人物像も柔らかなニュアンス、読んでいて共感を感じさせる箇所もあった。
死刑制度酸性反対は被害者の立場からすると論を待たないほどにかっちりしている・・当然だろうが。
「客観的、良識論者」は口を拭っている感蝕無きにしも非ずだが ヒューマニズムで貫く綺麗事と言ってしまえばそれまで。。まさに人それぞれとしかいえない。
余談ながら SNS ツィッターがメインに登場する展開を見せている事で現代だなぁと。怖い、一瞬、炎上も冷却も・・それが功罪かと。
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殺すより残忍な事件、いじめに対し殺人による報復が常態化した社会、殺された恋人の過去を調べることを通して人を許すことに目覚める作曲家…。人を一人殺したら死刑になる世界で起きた事件を題材にした連作中編集を通して死刑の是非について考えさせる。この作者さんらしい力作。
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2022年。
人を殺したら死刑になる世界。
「見ざる、書かざる、言わざる」短絡的な動機と残忍さでこれが一番こわい。死ななければいいのか、生きていて辛いこともあるのではないか。
「籠の中の鳥たち」クローズドサークルもの。一人でも複数でも何人殺しても死刑だしw
「レミングの群れ」いじめを苦にしての自殺。死にたいけど自殺する勇気がない人々が、いじめた中学生を殺す。国が死刑にしてくれるから。
「猫は忘れない」姉の復讐のための殺人。冤罪だったんだけど。
「紙の梟」恋人を殺された作曲家。恋人の過去がだんだん明らかになっていく。最後がびっくり。