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紙の本
季節のない街
2004/02/01 21:36
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本初のコンビニエンスストアといえば、一九七四年に東京豊洲に開店したセブンイレブンというのが定説のようだが、ちょうどそのあたりから大晦日のNHKの「紅白歌合戦」がつまらなくなり、その番組のあとの「ゆく年くる年」の中継地である地方の寺の初詣の風景から雪が消えたように思う。その後大型スーパーの元旦営業が定着化し、正月といっても普通の休日と変わらない生活スタイルができあがる。かつて正月といえば空に悠々として泳ぐ凧のようなゆったりとした特別な時間と空間をもっていた。そこには日本の季節があり、文化があった。でも、今はちがう。おせちを作らなくても、スーパーも開いているし、コンビニだってある。昨日に続く今日でしかない。
通巻第十七冊となる「新折々のうた7」の帯につけられた宣伝文句が<詩歌の歳時記>。正月の街の風景をみると、季節があるのは詩歌の世界だけかもしれないと思ってしまう。せめて正月ぐらい季節を感じたい。そんな思いから毎年読書始(この言葉もちゃんと歳時記の新年の部にある。昔の読初めは漢籍などを音読したものらしい)は「折々のうた」シリーズから一冊読むようにしている。今年は去年から読み続けていた本があったから、読書始にはならなかったが、やはりこうして新しい「折々のうた」にふれると日本の四季の素晴らしさ、短詩型文学の広がりを感じる。
最新刊となるこの本では新しい詠み手が百人を超え、さすがにこのシリーズも作品的には枯渇ぎみ(もちろん新しい詠み手の作品にもはっとさせられるものもあるが)かと思うと、ふいに松尾芭蕉の「物いへば唇寒し秋の風」のような有名な句が紹介されていたりする。一体この詩歌の世界はどれくらい広いのだろうか。この巻で私がもっとも心を打たれた作品は、朝日新聞掲載時の一年最後の引用作品(二〇〇三年四月三十日)となった多田智満子さんの「若葉みな心臓のかたち眼のかたち」(41頁)だった。人それぞれに季節の好みがあるだろうし、詩歌の好き嫌いもあるだろう。自分だけの心に響く詩歌を見つけるのも、このシリーズを読む楽しみのひとつだ。
著者の大岡信氏はあとがきにこう書いている。「一年たてばまた同じ季節の作品が、いわば円を描いて同じ位置に呼び出されてくるわけで、この本自体がそのような円環状につらなる一年間という季節にぴったり寄り添いながら、確実に一年間という時間を刻んでいる」(187頁)。季節感がすっかりなくなったこの国にあって、もし季節という豊かな時間を感じたいのであれば、こうしてこの「折々のうた」の一ページを開けばいい。そこにはまちがいなく、私たちが失った季節がある。
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