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家族仲がしっくりいかず、生き方に迷う主婦。
16歳になる直前まで自分が在日韓国人だと知らなかった姉妹。
ゲイであることに葛藤する男子高生。
血の繋がった子どもを持てなかった母親。
卒業式の日にプロムを開催すべく奮闘するモーレツ女子高生たち――
ままならない日常に悩み惑う人たちの踏み出す一歩が、
あなたの背中をそっと押してくれる。
女子高生のモーレツな勢いがすごかった。高校生ってこういう若さあるよね…って思ったし、大人しく文芸に勤しんでいた生徒たちをある意味洗脳し、文芸部を乗っ取るなんてすごい。私も昔よく言われたが、それを勉強に向ければいいのでは…と思ってしまう。
「普通」ってなったんだろうと思った作品でもあった。母親業を頑張って、家事にパートにと頑張って自分の身なりを整える余裕のない母親。16歳で自分が日本人ではなく在日韓国人と知った姉妹。自分が同性愛者だということをひた隠しにする男子高校生。血の繋がらない親子。みんな「普通」で「普通じゃない」。
特に、在日韓国人だった姉妹については、姉妹で全然違う考え方を持っていた。姉は幼い頃の親戚の家で体験した行事や食べ物を「今思えばあれって」と妹と答え合わせをしたいし、自分のルーツについて考え、韓国語を学んだり、映画を見たり観光に行ったりする。だけど、妹の方は全て韓国の話題から自分を遠ざけ、耳を塞ぎ、視界から排除する。昨今の韓国ブームは、妹にとっては複雑なんだろうな。
男子高校生の話も良かったし、血の繋がらない親子の話も良かった。ママ友たちが笑いながら「子ども産んだんだから分かるでしょ」って言い合う言葉を彼女は、どんな気持ちで聞いていたのか。ママ友たちには子どもいる=出産していると思ってるし、それが普通なんだよね。
モーレツ女子高生たちの最後は、少しかわいそうだったが、LINEの2019年12月という表示に、うっすら不安を覚えたがまさに的中。あの頃は、こんな未来が来るとは思わなかったし、非日常が日常になるとは思わなかった。
いやぁ、確かに「普通」ってなんだ。私が思ってる普通は、普通ではないんだな。本当に考えさせられるお話だった。
2022.11.19 読了
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アメリカの学園ドラマで、クラスの片隅に追いやられている目立たない女の子。そんな過去の自分を取り戻すためドラゴンズのママチアに応募!
パート仲間と正真正銘の学園ドラマ女王蜂(クイーンビー)だったママ友と8人のチーム名は「HIPS!」。ってなんだこのワクワク感は!!
おばさんと呼ばれて久しい自分だけど、彼女たちのわちゃわちゃ感が懐かしくもありうらやましくもあり。
例えば写真を撮るときにいつも中心にいるような、そんな学生時代を過ごした子であっても、屈託なく生きてきたわけじゃない。だれもが取り戻したい青春があるんだ!!
在日三世の韓国人姉妹。それぞれに16歳の時に初めて自分の出自を聞いた二人、それぞれの反応の違い。
頭脳明晰容姿端麗な同級生と過ごした夏の、かけがえのない瞬間と、決意。
そして、ラストを彩る「Prom To Our School!」高校生たちの卒業式の後にプロムを!という熱のうねり。
彼女たちの戦略、というにはあまりにもまっすぐな計画に、心から「うまく行って!!」と願わずにはいられない。
吉川トリコは私たちが普通に「普通」と形容する囲いから少し外れた人たちを描くのがうまい。すぐ隣にいて、自分の中にもその要素はあって、でも「普通とはちょっと違う」と思ってしまう人たちの、そのちょっと違うところにやさしくフォーカスする。今回は人種やジェンダーや年齢や性差や、そういうあれこれを、ぐっと身近に引き寄せて、難しく考えなくてもとりあえずやってみようぜ!と、これは「私」の、「あなた」の、物語なんですよ、と笑顔で差し出してくれる。
おばちゃん世代には懐かしさと元気を、悩み多き十代には痛みと勇気を運んでくれる。
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女性を取り巻く、あれこれに、とても敏感な作家さん。
初めて読んだ「ベルサイユのゆり」は、ふざけているのかと思ったけれど、
ちゃんと「ゆり」の意味を込めていたんだよね、あれ以来、
気になる作家さん。
私から見たら、若手だけれど、世の中では中堅か。
本作は、連作短編集。
彼女の世代爆発、映画や海外ドラマが次々登場し、
その上の世代の私にはよくわからないところも多々あり。
それでも、40代主婦がチアダンスチームを作り・・・
そこから仲間が広がり、今の世で、マイノリティゆえの何かを
抱えている人物が次々にスポットを浴びる。
こういった世の中の切り取りが、本当に、この人は上手。
ちゃんと物語の中で読ませてくれる。
そして、必ず、人と人とのつながりの暖かさを感じさせてくれる。
そこが好き。
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6編からなる連作短編集。
なつみは、若々しい美鈴ママにちょっとだけ嫉妬していた。
女王蜂(クイーンビー)の美鈴ママ。
でも、美しさは見た目だけではなかったのだ。
歳を重ね「おばさん」になるのは罪なのか?
初未は二つの名前を持つ。
佐藤初未とキム・スンエ。
15歳の平凡な女の子に知らされた在日韓国人という事実。
ままならない日常。
出自も性別も、自身ではどうしようもない。
映画の印象的なシーンに絡め、それぞれの登場人物が明るく力強く
そして前向きに描かれている。
吉川トリコさんは名古屋在住作家さん。
地名など馴染みのある場所ばかりで、それも楽しかった。
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親世代、子世代それぞれの生が同じ大きな物語の中でつむがれるのが、日本文化の年齢性を超越しようともがく意志を感じさせる。先生と生徒というのもそうかな。
でもよく考えてみると、子供向けの小説の中で、子どもの姿が大人にはどう見えているかを描いていた古田足日なんかもある意味同じなのかな。今思えば、ああした小説(『宿題ひきうけ株式会社』など)を読んで育ったことが社会学者としての僕の現在につながっている気がする。
でもこの小説で描かれる親世代、子世代それぞれの世界は子ども向けの小説とは違って、より対等なものになっていて、それは現実の私たちの世界における若い世代がより大人の世界とつながっている部分を映しているように思える。
そのような中で、プロム開催のために爆走する女子高生たちは、悟りすぎている若い世代への私たちの期待を反映しているようだし、子育てをはじめてから、若いころの夢を実現させようとしている主婦たちの姿は、年齢の壁を乗り越えたいという私たち自身の野望を映しだしているように思える。
コロナの流行はシンデレラの12時の鐘のようだったけど、それならその現実を乗り越える新たな魔法を私たちは欲しいと切実に思った。
また全体的に女性視点が強く反映されたストーリーで、男性がそこにどう関わっていいんだろうという課題を課されているようにも感じられた。
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装丁が印象的だった。ナチュラルでマイルドなイラスト。青の色調が爽やかでぱっと見、青春系にみえた。
楽しく華やかな連作短編集。日本でプロムをやりたい女子高生にぐいぐいひっぱられた人々+映画の物語なので、爽やかでさっぱりした味わい。
私は、ファンタジーやSFの世界が大好きで、あまりこういった現代社会の人間関係を書いたものに食指が動くことはなかった。だけど新しい扉を開きたいなと思ったので、こういった現代社会ものを読んでみようとした。
そう、吉川トリコをね...!!
女性の自意識や世代、常識、世の渡り方を書くのがめちゃうま作家...!!
そーゆーのって、怖いけど、社会って怖いけど、まぁ知りたいよね。だから本ってシュミレーションができてほんと便利。まじ助かる。
閑古休題。さてさて『エモい』と帯にもあるように、風がさぁっと吹くタイプの読了感。誰もとりこぼすまいと光をあてる書き方をしてるので、老若男女問わず心細さを感じてる人に読んでもらいたい。
少年アヤちゃんが『エモい』と煽り文していたように、ストーリーがめちゃくちゃエモかった。ヤダ...コレがエモいっていうのね...!!!ってなる。エモいエモい、巷で言われてるけど、なるほど!これがエモさかっ!と染みる。
展開がアニメみたいなんだよね。例えば、冴えないナードみたいな主婦が、正反対の美魔女と一緒にママチアをやる場面とか、描かれ方がこっからが面白いんだよって演出がある。てか、あちこちに市井の人々の細かい描写&心の機微が練り込まれてるからヒヤッとする。吉川トリコさんの目線から逃げられない、女性作家に顕著にみられる心の裡を見透かされてる感覚がこえー。
ざっくり要約すると、尊厳も心もないとされてきた『いない存在』の話。大げさな言い方にきこえるけど、例えば『家庭に使われる主婦』、『在日コリアン』、『ジェンダーに揺れる男子高校生』、『出産経験のない主婦』、『プロムを目論む女子高生たち』...軽くて自由で、孤独で淋しいそこかしこで頑張って生きてる人々が、どこかで繋がっていて、ポップなお喋りをしている文体だったから、物語として楽しく読めた。
在日コリアンの話を読んだときに、あぁこんな気持ちなんだと知った。在日コリアン姉妹の目線で、身近な感覚で差別を話されていて新鮮だった。通俗的だとここまで届くのだと思った。なんか、身近にサラッと語られてるから、あ、本当に私たちのすぐ側に生きているんだと実感。
特になんだけど、この話、すごく読めてよかった。
私はTwitterで社会問題に触れるのが一番多いのだけど、Twitterで情報を得てる人が共感できるぐらいだから、最近読んだ中で一番社会の空気を肌で感じた作品だった。インクレーシブ。最先端。令和の本だなぁと。でもさ、2022年になってまだここなんだな。やっと可視化される段階まではきたんだな〜と。社会に対して、チクッとした想いも感じたりしました。
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高校生、その親、その友人、親の友人、先生など、それぞれ関連する人にまつわる映画のような日常から少し離れたエピソードを短編で見ていく感じ。表面上では伺えない秘めた思いがあり、各話主役が違うため視点が変わり、互いに知らない状況で互いを思う。なんかまどろっこしいけど新鮮。
6冊目読了。
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キーワードは名古屋、韓国、映画ですか。軽いタッチで結構深刻な題材を扱った連作短編集。1編目の『ママはダンシングクイーン』が明るく面白くて1番良かったかな。後は好みがわかれそう。この作品のメインテーマとなっている「我が高校にプロムを」がピンとこなかったのがもうひとつハマれなかった理由かも。プロム、ごめんやけど自分だったら絶対にやりたくないわー。
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「ママはダンシング・クイーン」「私の名前はキム・スンエ」「彼が見つめる親指」
「私はそれを待っている」「36年目の修学旅行」「プロムへようこそ」
6話収録の連作短編集。
共通するテーマは『ままならない日常』。
ゲイである事に葛藤する男子高生や、在日韓国人である事を知らされた姉妹など、どれもデリケートな問題だが本作ではドラマや映画を絡めながらカラリと明るい筆致で描かれる。
だからこそ余計に彼ら、彼女達の苦悩が伝わって来て応援し応援される自分がいた。
同じ場所に留まっていても何も変わらない。
一歩踏み出す勇気を貰える作品。
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一見「普通」に見える人たちでも、何らかの葛藤を抱えて生きている。
そんな人たちが、なにか大事なものをみつけて、それを掴もうと一生懸命になる物語り。
「時代のサイクルが日毎に速くなって、どこもかしこもものや情報であふれているのに、なにか大事なものをつかみそこねているような不安がつねにうっすら貼りついている。[...] だから私もせっせと映画館に通っている。浜辺の砂からひとつぶの光る石を拾いあげるみたいに、虫取り網を天高く掲げて流れ星を追いかけるみたいに」。(197~198ページ)
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各話主人公は違えど、同じコミュニティの中で登場人物は繋がっており、まとう空気に統一感があって、読みやすかった。
総じてみんな「前向き」!
元気をもらえる一冊でした♪
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友情というより互助会。納得!
40代でチアダンスを始めたママチームと、その子供たち、学校の先生の連作短編。
前向き元気パワーをもらえる1冊。
映画をたくさん知ってたらもっと楽しめたのかな。
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なぜか、いまいちだった。ごめんなさい。面白い感じなのだけど、あんまり入ってこなかった。私の今の忙しくせわしない環境のせいたろう。
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図書館で面陳列されてた作品で、名古屋の作家さんだったりでした。ねっとり名古屋色濃い連作短編なんですが、中日新聞にドラゴンズ、鶴舞公園に庄内川とドストライクな名古屋弁もでてきて同病相憐れむって感じで軽いコンプレックスに浸れました。名古屋って保守的な土地柄なんですよね。
まわりと比較しながら、うじうじ生きてる主婦や高校生の話にミニシアターで上映されるコアな映画の話題とか、歳なのにチアしてみたいとか、在日韓国人3世の姉妹の話とか、性的マイノリティとか、養子縁組の親子の話とか、どことなく触れてはいけない雰囲気を醸し出す自意識過剰が逆に他人と自分を区別する逆差別だったり。偏見と差別とか扱ってるけどヘイトに重いものにならずに恥じらいにも似たライトなものに昇華しているとこもよかったです。
「ナード」って言葉しらなかったけどそんな感じに社交的スキルが疎くなってる人をいうみたいでした。
そして、プロムの開催を求める女子高生。
ちなみに私はアメリカ映画や韓国映画に詳しくないのでいまいち響いてこなかったのですが、ネガテティブに堕ちることなくそれぞれのカミングアウトが適度に明るさを増してシュピレヒコールの渦となってなだれ込んできました。
アカデミー賞の「ムーンライト」と韓国映画の「子猫をお願い」観てみたくおもいました。
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柚木麻子さんの推薦文に惹かれて、吉川トリコさんの作品に初めて手を伸ばした。
前半は引き込まれてぐいぐい読み進めていたが、最終話のプロムに関する熱い気持ちがピンと来なくて、そこに至るまでの情熱の理由もあまり描かれておらず、結果としてオムニバスとしての面白さがかなり薄れてしまった。