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とても読み応えのある作品でした。
大きなジャンルとしてはミステリーですが、多くの登場人物の心情や人生が丁寧に描かれていてとても重厚な人間ドラマでもあったように思います。
一つのアクシデントをきっかけに登場人物の人生が悪い方悪い方へと転がっていく物語。
中盤までは辛い展開が多く読むペースもスローになりましたが、後半は色々な謎が解けて、靄が晴れていくような気分で一気に読み終えました。
原題の “We begin at the end” にふさわしい物語、終わり方だったと思います。
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完全な善人もいなければ完全な悪人もいない。
与えられた環境と状況と巡り合わせと、絡み合ったものから生み出された行動の結果があるだけ。
けれど、そこを踏み越えてしまったら二度と、元の自分(人生)には戻れない瞬間というものが人にはあって、それを経験しているかしていないかで、その人のあり方は大きく変わってしまう。
そこを踏み越えた人は、たぶん、踏み越えずに済んだ自分の(あるいは大切な人の)、あるべきだったもうひとつの人生みたいなものを背負って生きていくのではないかと思った。
今の自分と、こうならなかった自分、二つの人生を背負っていく。
だからこそ、半分生きて、半分死んだまま生きる。
愛とはなにか、贖罪とはなにか。
何かへの期待や信頼と、それに裏切られる絶望や虚無感と、全てを包んで、人生は続く。
雲間が切れた部分から射してくる光の美しさは、晴天で照りつづける光よりもずっと美しい。
その美しさを知っていれば、人生は何とか乗り越えていけることを教えてくれるような良書。
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小さな町で輝く屈託のない日々を
送っていた少年、少女達はある事件
をきっかけに暗闇の世界に投げ込まれた。
皆大人になりそれぞれが秘密や孤独を
人生に抱えている。
誰かを守り、助けたいと思う気持ちが
強ければ強いほどある一線を超えて
しまう事がある。
ダッチェスとロビンは大人の事情に
巻き込まれ追い込まれて行くが
ダッチェスの弟への深い愛情は最後に
里親の元で幸せな姿を静かに見守り
去って行くダッチェスの姿がこの物語
の誰かを守りたい、その為に自分の
何かを失っても良いと。
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年末に読み始めたので、忙しい中、読書の合間に用事をするのか、用事の合間に読書をするのか、よくわからない日を過ごした。
翻訳の勝利でしょ、と思う。もちろん、プロットや登場人物の魅力もあるが、翻訳物は、翻訳者の力量とセンス、作家性に負うところが大きいと思う。
文学性の高い小説は、あまり自分独自のこなれた訳出はできないだろうし、バランスが難しそう。
その点、この小説は、スピード感もそのままに、うまく読者を連れ去ってくれたと思う。没入しました。
「人は終わりから始める」…過ちを犯した地点から始まるんだというハルの言葉は、この小説をただのミステリーとしない、奥深さを与えている。
ドリーの物語やダークの物語はスピンオフで読んでみたいな。特にドリー。
それから、ロビンのその後…。
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いい作品。ややご都合主義な点は気になったものの、じわりと感動する名品。主人公はひどい目にあうけれども、ひどい奴ばかりじゃない。そういう、さりげなく手をさしのべる人たちに涙が出た。
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こうあって欲しいという読者の期待はことごとく裏切られます。事故から始まった不幸の連鎖の中で懸命に生きようとするダッチェス、彼女を取り巻く家族や友人たちの想いがアメリカの美しい自然とともに描写されます。このミス海外版第1位に相応しい名作。
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広いアメリカでも小さな町では閉塞した人間関係に絡まっている・・
アメリカ・カリフォルニア州の海沿いの町。30年前に少女が命を落としたその犯人とされた男ヴィンセントが刑期を終え町に戻った。15才で刑務所に入り、命を落とした少女は付き合っていた同級生スターの妹。スターをめぐり何人かの男が好意を持ち、今は警官になっているウォーカーはヴィンセントの親友。それらが30年後の今もその小さな町に住んでいる。広いアメリカなのに小さな町にある閉塞したコミュニティ。30年前の高校生の恋物語がいまだに尾をひきちょっと辟易感。こういうのはちょっと苦手。でも書いているのはロンドン生まれの男性作家。
あとがきではアメリカは犯罪小説を描く作家にとっては理想的な舞台だということだ。犯罪そのものよりもその余波に強い関心を抱いており、銃問題、小さな町の保安官、FBIの存在など法律や警察機構が舞台設定にいいようだ。今回の本では、刑期を終えたヴィンセントの恋人だったスターという女性とその子供も主役になっており、子供はまさに「余波」でカフリフォルニアからモンタナへと移る、そしてまた移動とアメリカ西部と行き来する。その描写にはイギリスより広いアメリカがよかった、とある。
・・ダッチェスとロビンの顔に父親の面影はなかったのだろうか。気づく人いなかったのかなー
2022.8.25初版
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おぉ〜、なるほど〜、凄い一冊でした! また素晴らしく感銘的な本に出会え、僥倖です。
過酷な運命に翻弄される人々と、狭い町の密接な人間関係がリアルに描かれ、単純なミステリーを超越している気がしました。
何と言っても強烈な印象を残すのが、13歳の少女ダッチェスです。自らを〝無法者〟と称してプライドをもち、余りにも厳しい境遇や世間から身を守るための鎧をまとっているようです。
どこからこの強さが出てくるのかと考えると、幼い弟の存在があるからなのでしょう。人は「誰かのために…」と強く思うほど、自己有用感から勇気へと新たな一歩を踏み出す力が生じてくるのかもしれません。
もう一人の中心人物・ウォークの、執念の塊のような生き方も同様だと思います。
ダッチェスの(側から見て可哀想という言葉も寄せ付けない)意地らしさと運命との闘いが、脳裏から離れません。
人はどこかで必ず間違えたり失敗したりしますが、それを受け入れて次に進まなければならないのですね。
原題 「We Begin at the End 人は終わりから始める」の通り、人生の始まりは選べませんが、〝終わり〟は選べる、ということを示す、壮大な物語でした。万人におすすめしたい「心揺さぶられる一冊」が、また増えました。
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読み終えた後カバーのイラストをしばらく見ながら、こんな未来が訪れていたらどれほど良かったかと思わずにはいられなかった。
舞台は米カリフォルニア州ケープ・ヘイブン。スター、マーサ、ウォーク、ヴィンセントは結束の固いグループだった。30年前スターの妹シシーが亡くなった事件でヴィンセントが逮捕され、刑期を終えて街に戻ってきてから様々な事件が起こる。
物語の序盤は警察署長のウォークやスターの娘ダッチェスの日常や境遇を知ることがてきる。ウォークはスターと子供たちを守ろうとする愛を、ダッチェスは弟ロビンを守ろうとする愛を感じる。
中盤以降、少しずつ様々な事件の真相が明かされていくが、誰もが決して間違った選択をしたというほどでもない過ちが絡み合った結末がなんとも物悲しい。いや、間違ってないわけではないのだろうが、ダッチェスやロビンがこれほど辛い境遇に見舞われない未来を読んでいる間ずっと望んでいた。
ヴィンセントの覚悟、スターの失意、ダッチェスの決意。心に深く刻まれました。
しかし、自らの意思が関与しないロビンの喪失感はどれほどのものか想像できない。せめて健やかに育ってほしいと思ってしまう。
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大人達は皆、過去の幸せだった頃に引きづられ、悔恨や贖罪や無力感のなか屍のように生きているが、ダッチェスは、それらが生み出した理不尽さから弟を守るため、虚勢をはり不安を凄まじい怒りに変えて、弟の平穏を唯一の生きる糧とした。
必死に抗うなか、雄大な自然と深い愛に少しずつ心を開いていく描写は、丁寧でグッとくるものがあり、読み応えもあった。
内への慈愛と外への破壊行為は表裏一体。嘘や暴力、隠蔽に逢瀬、放火、ストーキングに殺人…みな愛する誰かや何かの為におこしたこと、と人間の二面性で伏線回収するのは、少々強引な気がする。
ラストは辛すぎる。闇より天を見ながら、這い上がれた者はいるのか。
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力作。
もっと苦しみの少ない展開のための分岐点はいくつもあるのだけれど、それぞれ選択が託されている人間が違うのでどうしようもないという…。
正しく裁くことの大切さを説いている話でもあると思った。
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どうしても抜け出せない負の連鎖。勘違いがさらなる誤解を招き不幸へと突き進む。人生は運でしかないことをつくづく感じさせられる。
もしダッチェスがダークの店を放火しなかったらストーリーはどういう結末を迎えていたのか?そのパラレルワールドが気になった。
この本で語られる絶望の世界観は、なぜかツインピークスのシーズン3に出てきた、「911」と叫ぶジャンキーママとその子供の家族をイメージしてしまった。
帯の「最高のラスト1行」に期待していたのだけど、「えっ」て感じで期待は裏切られてしまった(汗
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読み終えて、その充実感に、はぁーっとため息をつく。
壮絶な物語だった。
13歳の少女と、その6歳の弟には重すぎる、つらすぎる経験の数々。
それでも愛らしさを失わないロビンと、
弟の存在だけが生きる意味を持っているかのように振る舞うダッチェスに胸が苦しくなった。
また、憎しみながらもその絆に抗うことができないまま、
心無い言葉を祖父にぶつけてしまう彼女にも共感した。
だから、あと少しでしあわせをつかめそうなのに
運命が彼女にそうさせなくさせる場面が来るたび
「なんでだ〜〜⁈」と叫びたくなった。
幼い子どもたちに必要なのは愛情だ。
彼らを見守り、時に手を差し伸べ、
いつもそばにいるよと感じさせてくれる誰かの存在だ。
不幸な境遇ではあったものの、
2人にはその存在が周りにあった。
だから結末には納得し、ほっとしてる。
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長かったけどその分心情や描写がスッと頭の中に浮かび上がった。
ミステリーと一括りにはできない作品で、とてもおもしろかった。
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ミステリーではあるが骨太の大河ドラマを見ているよう。そしてちょっとした手違い、運命の歯車の掛け違いからラドリー一家は悪い方悪い方へと転がっていく。
主人公の少女のたくましさは分かるにしても、彼女が行動しなかったら違う幸せがあったかもしれないとも思い悲しくなる。無法者ダッチェスの弟への献身的な愛が切ない。ただこの1連の出来事で成長した彼女に幸あれと祈る。