電子書籍
英雄伝
2023/11/11 18:34
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投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
英雄というものは「卑賤の身から立身出世し、成功して栄光に包まれ、そして挫折して舞台から去ってゆくもの」だそうだが、この作品の主人公は、商人の立場でありながらその「英雄」としての要素をしっかりと持ち、成功しそして挫折した。
前半の既存の抵抗勢力と対決しながら新しい仕組みを作り上げてゆくところは、胸がすくような思いである。しかし中盤以降、新たな組合を作り新規参入を排除し、しかも幕府権力と癒着して、その制作を実行してゆくところは、自らが排除したはずの抵抗勢力になってしまっている。政商と化した末路は、権力者の交代による没落という 決まりきったパターンである。経済史的経営史的に言えば功罪半ばしていると言えると思う。
何れにせよこのような作品を作り上げた作者には、大いに敬意を表したい。
紙の本
江戸時代後期の経済を描く
2022/11/08 08:22
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投稿者:nekodanshaku - この投稿者のレビュー一覧を見る
江戸時代後期の江戸の町の経済・物流を知ることが出来る時代将である。江戸の金の流れを握ることにより、お上を動かす力になると信じ、流通の構造改革、旧弊の刷新、大胆な資金集めを行ったのは、すべて江戸の繁栄のためであった。しかし、政の中枢が腐ってしまったのでは、描いた通りにはならなかった。歴史の闇に消えた毛充狼と綽名された男の生涯は、哀しみだけが糸を引く。
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将軍家斉の時代に生きた商人、杉本茂十郎の半生。すぐそばで見ていた堤弥三郎の目線から語られる。
型破りな茂十郎に、おかたい弥三郎はいつしか魅力を感じ、彼の為すことがどのような結果に繋がるのか、見届けずにはおれないようになっていく。ただ、その根底にあるのは妻子の死――もしかしたら避けられたかもしれない――という大きな悲しみと、それを無にしないという想い。全くの私利私欲とは違う原動力で突き進んでいるから、時折いさめつつも弥三郎は彼の肩をもってしまうのだろう。
親子とも友情とも言えそうな2人のやり取りは常に真剣だ。
茂十郎は弥三郎の前で、商人という存在や金の流れについて幾度となく自分の考えを熱く語る。お上というものが大きすぎてどうにもならないと感じながら、なお諦めず策を繰り出そうとする姿に、現代をも思う。
「商人が商いをして金が正しく世の中を回っていれば、暮らし向きは豊かになり、商人は天下に資する役目を担う」
「金をどう使うか。そこを間違えればまた人が死ぬ。――どうして金を無為に使うことしかできないお上を敬うことが出来るんです。」
出る杭は打たれろとばかりに"領分を弁えろ"と諭され続け、ついには江戸を追われた茂十郎。もし、ずっと江戸市中で力をふるっていたら――江戸の経済状況は違っていたかも――老境の弥三郎がそう述懐するところは、お上という絶対権力への諦めもにじみ出ていて、ほろ苦い。
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202210/序盤、自分には読みにくいかなと思いつつ気づいたら一気に読み進めてた!茂十郎をはじめ登場人物達の人となりや言動描写もうまくて入り込んで楽しめた。現代に通じるところも多々あり、見事さと哀しさに圧倒された。
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江戸の商業に革命を起こし途上で消えた男、杉本茂十郎。想像以上に面白く、あっという間に読み終えてしまった。私自身、ものを作らない業界で働いている関係で、商業・金融の果たす「繋ぎ」の価値について考えさせられた。
栄光と没落、後半は陰ってばかりなのにどこか爽やかなのが印象的。茂十郎が残した遺産は多々あれど、その後の商業界は狐狸が跋扈し混沌としていくという点が幕府への皮肉としてそう思わせるのかもしれない。初めて作者だったが、人となりや心情を描くのが非常に上手だと感じた。一方で彼女らしさを感じられなかったので、他の作品で見つけられることを期待したい。
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良書。
作者、映画やドラマの脚本が書けそう。上手い。
江戸時代って、三方よしの人才が数多くいた。今の政治家、実業家に見習ってほしい。
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木挽町のあだ討ち文庫化待ち、図書館にある永井さん全部読みます、4作目。
ロカさんにお勧めいただいた 江戸商人・杉本茂十郎。江戸の経済の大きな流れを作り上げた一商人の活躍です。
残してある山川の日本史の教科書には、取り上げられていません。私も全く知らない人物伝。
農家に生まれた茂十郎は、江戸飛脚問屋の養子となり、十組問屋の紛争解決に助力する。そんな中、永代橋の陥落事故で息子を失う。そこから 江戸の橋の堅実な建設運営を目指していく。
莫大な費用の捻出のため数々の名策を立てて江戸中期にはびこる慣例を崩していく。
菱垣廻船・飛脚・十組問屋と江戸の流通の中心にいて 狼と例えられるほど、強引なところはあったが、大きな経済の流れを見据えていた。
最後は 武士の世界に沈められた。
今まで読んだ作品より時代小説感が充実していたと思う。