投稿元:
レビューを見る
・20世紀末の世界は社会民主主義の行き詰まりを呈している。極端な形の社会主義国も、程度の差はあれ社会主義的手法をとってきた欧米、日本も同様である。
・民主主義は独裁を生みかねない危険なものである。社会民主主義は秩序の過剰・自由民主主義は自由の過剰によって。(なお、「社会主義」の対極は「自由主義」であって、「民主主義」ではない。「リベラル」とか「民主的」という言葉は誤用されている。または政治概念の混同である)。
・これからは自由民主主義の時代。これには自由過ぎないよう秩序が必要で、それには歴史と伝統に基づいた感覚をよりどころにすべし。これで多数の賛同を得られ、急激な社会の変化と不安定化を避けられる。これが著者を含む近代保守主義の主張するところである。
(社会主義がやるように、科学が社会を設計できるとか、現代の知恵だけで合理的に何事も決定できるというのは誤りである。また、自由すぎて秩序がないと、どう生きればよいかわからないという不自由に陥る)
ーー以上がポイント。社会主義vs自由主義。民主主義は両方を含む。社会主義国の国名に民主の語が入ってる謎がやっと解けた。(朝鮮民主主義人民共和国とかね。)
・ハイエクの「自生的秩序」「ノモス」(歴史的に醸成された一般的規則の体系)がキーワード。本書をささえる理論として、ハイエクは読んだほうが良さそう。
「保守の真髄」と銘打ってあるが、読了後、よるべき伝統とは何か? どんなものか? との疑問が残ってしまった。著者は慣習のことではなく、生き方や考え方、働き方のことだというのだが、それらは正しく継承されているだろうか? また、時代に適うにはどのあたりを取ればよいのだろうか?
本書から20年以上経た今、歴史と伝統、日本の良さを見直そうという動きが見られ、方向性は本書と合っているようにも思える。しかし、伝統を保守するつもりが、間違ったものを復活させたり、過去に幻想を抱いて盛ってしまったりといったことがありそう。
たとえば「江戸しぐさ」という嘘伝統とか。オモテナシを「ゲイシャフジヤマ」と同じトーンで連呼してみたりとか。「八紘一宇の精神」とか言い出すのはもちろん勘弁です。
いささか危惧しつつも、これからそのへんのことをなるたけポジティブに考えてみたいと思います。
世界中の国がそれぞれにアイデンティティを守り精神の安定を図るため、この問題にぶつかっている。今、切実な課題です。
ところで、古代ギリシャ人は、ルネサンスを見たらびっくりしたろうね。おまえら俺らの子孫じゃないだろ? って。勘違いとウソを含んで「うちらの歴史と伝統」てのも、あれくらい派手に花開いてしまえばオッケーなんだろうか……?(アカンと思います、私は)