紙の本
内容はいいんですが。
2009/05/21 21:46
14人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オタク。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
同じ版元から出ているピュリツァー賞受賞作の駄本と違って、読み応えがある本だ。「朝日ジャーナル」に連載されて著者の追悼文集によると左翼仲間に右傾化したと叩かれたという戦後以外は他人の書いた本を丸写しした「ノンフィクション・皇太子明仁」を結構利用しているが、昭和・今上の二代の天皇を人間としてとらえて、いい本だ。
ただ、不満があるのは書名だ。天皇の諱を故意に使うのは未だにドイツ軍の手を借りて権力を奪取したボリシェヴィキの「革命」や同志レーニンをはじめとする裏切り者でスターリンの見せ物裁判でみっともない姿をさらした連中を崇拝している面々やカルヴァンのジュネーヴや「百姓の持ちたる」一向一揆の越中といった政教一致の宗教国家を夢見る反天皇制論者だ。
「今上天皇と昭和天皇」では、いけないのかしら?
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●:引用
●「父」と「子」の相克 このような構図を見ていくと、そこに父と子という対立が生まれているということがわかる。この対立は、天皇という制度が不可避的に抱えているものであり、歴代の天皇は必ず父と子との関係で相克を起こすともいえるのではないか。誤解を恐れずにいえば、それは天皇と皇太子の個人的な感情という次元ではなく、それぞれの天皇は常に時代とともにあるがゆえに、皇太子には、父の時代にあってやがて来るべき自らの代にどのような軌道修正を行うかといった発想が、ごく自然に生まれるということでもあろう。むしろこのことは天皇制のバランスを保つための知恵ということにもなるはずだ。(中略)明仁天皇もまた昭和天皇に不満を持ったとしても不思議ではない。天皇家の父と子は、感情を抜きにして、天皇としてのその時代に対するそれぞれの責任、皇太子としてのそれぞれの目からの批判というものが必ずあるということであろう。この「父と子」という宿命の相克に対して、皇太子は父・昭和天皇の軌跡を理解しようと努めた。(中略)皇太子は前述のように父親・昭和天皇への不満を克服するために、改めて昭和史の基礎文献を昭和三十年代のある時期から徹底して読んだ、との証言がある。そして少しずつ、昭和天皇が置かれていた状況を理解していったように思われる。
●最大の平和勢力となる天皇家 昭和天皇が体感したあろう教訓のひとつが、皇統を守るためには二度と戦争という手段を選んではならないという決意ではなかったか。逆説的にいえば、天皇制は平和を堅持するための最大の勢力になる宿命をもったということになるのかもしれない。私は、現在の日本にあってもっとも純粋で、そして崇高さを兼ね備えた平和勢力は明仁天皇である、との理解をもっている。それが国民的諒解になることが望ましいとも考えている。すでに外国ではそのような理解があるとも聞いているが、このような視点をもって私たちは、明仁天皇の軌跡を見つめていくべきではないかとも思うのである。
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著者紹介の欄では、著者はノンフィクション作家・評論家となっているがむしろ「昭和の歴史家」として高く評価できると思っていたが、本書は突込みが甘い内容に感じ物足りない思いがした。
本書は「明仁天皇と裕仁天皇」の時代状況の紹介と新しい天皇像に移行する過程についての考察なのだが、著者の知識と取材ならば、もっと厳しい内容が描けたのではないかとの感想を持った。
昭和天皇も平成天皇も、戦前戦後の激動の時代を切り開いてきただけに、様々な摩擦を乗り越えて時代をつくってきたことは誰も否定できない事実だろうとおもう。その詳細な内実は、かつてはいわゆる「菊のカーテン」のベールに隠されてきていたが、昭和天皇没後20年以上を経過する中で昭和天皇側近の日記等が明らかにされる中で、多くの新事実が明らかにされてきている。A級戦犯の靖国合祀を取り上げた元宮内庁長官の富田メモなどもそのひとつだが、それらの中にはマスコミが取り上げる重要事実以外にも、著者ならばこそわかる隠された事実なども多いのではないかと思っていた。本書ではそのような最新の知見もあまり見当たらず、どうもありきたりな内容に思えて物足りない。
さすが著者といえども、天皇家の内情に対しては筆が鈍るのだろうかとちょっと落胆した。本書は数少ない著者の残念な本ではないだろうか。