青年期ローマの岐路と苦悩
2007/06/19 12:33
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コーチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
前巻とはうってかわって暗く陰惨なトーンの『ローマ人の物語』第3巻「勝者の混迷」。前巻「ハンニバル戦記」が、自国を侵略するカルタゴから、祖国を守るために一致団結して戦ったローマ人の雄姿を描いたのに対し、この巻で描かれるのは、ローマ人同士がいがみ合い、騙し合い、殺し合う姿である。後に「内乱の一世紀」と呼ばれるこの時代は、帝国へと発展をとげようとするローマが、その過渡期において悩み苦しむ時期であった。
カルタゴに代わって地中海の覇者となったローマ国内では、大きな変化が進行する。相次ぐ戦争により、土地を失い、没落した自営農民。彼らは都市に流れ、「パンと見世物」を要求する無産市民へとなってゆく。その一方で、彼らの土地を買い取って大土地所有をおこなうことで、裕福となってゆく富裕層たち。ローマ社会を蝕んでいたのは、貧富の拡大、失業などの社会問題だった。自由で平等な市民により成りたっていた彼らの社会の変化を、ローマ人は放任することはできなかった。その結果、公正な社会を求めるさまざまな運動が展開されることとなったが、それらは多くの犠牲を強いるものであった。
ローマ社会の基盤である自作農の救済・育成をめざし、最初の改革を試みたグラックス兄弟。彼らは、元老院や市民の反対に遭い、ともに非業の死をとげる。またマリウスは、募兵を中心とする兵制の改革により、失業者の救済をおこなった。その後権力を握ったスッラは、強い指導力で共和政体制の強化を図る。政治闘争のたびに多くの血が流された。また、同盟市との戦争を通じ、イタリア半島内のすべての部族にローマ市民権があたえられた。スパルタクスの乱、海賊の横行など、政治的混乱に乗じた反乱や騒乱も起こる・・・
混乱の一世紀とは、自国をめぐるこのような情勢の変化にローマ人自らが敏感に反応し、試行錯誤を繰り返した時代であった。このような試行錯誤の中で、ローマは徐々に変革されてゆく。やがてそれは、共和政というローマの伝統的政体をめぐって戦われ、最終的には紀元前1世紀後半のカエサル、アウグストゥスによる帝政への移行というかたちで完成する。
このドロドロの内乱記においても、第1巻から描かれているローマ人らしさは伺われる。残忍な仕方で反対派を粛清したスッラさえも、ローマ人的な明るい気質と憎めない人間的魅力を感じさせるのは、この時代の誰もが国家ローマの理想を自分なりに追い求めているからだろうか?この民族的苦難の時代から、とびきりの明るさととびきりの人間らしさをもって現われるローマ史上最大のヒーロー、カエサルについては次の二巻でたっぷり語られるのだが、本巻における最も魅力あふれる人物は、やはり正義感に燃え美しい理想を抱きながら散っていったティベリウス、ガイウスのグラックス兄弟であろう。塩野は、この巻の表紙に使われている無名の青年の像をティベリウスに見立て、こう述べている。
―意志は強固でもそれは育ちの良い品性に裏打ちされ、口許に漂う官能的な感じは、この若者が冷血漢ではまったくなかったことを示している。そして、憂愁が漂う。私が第3巻の内容を端的に示さねばならないカバーにこの顔を使うのは、グラックス兄弟からはじまるローマの混迷の原因が、研究者の多くが一刀両断して済ませる、勝者ローマ人の奢りでもなく頽廃でもなく、彼らの苦悩であったことを訴えたいからでもある。まったく、「混迷」とは、敵は外にはなく、自らの内にあることなのであった。―
血なまぐさい内乱の一世紀に、青年期の苦悩のような積極的意味をあたえる塩野の見解に、大きな共感をおぼえた、そんな一冊であった。
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投稿者:マー君 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ローマは早くから元老院を中心とする共和制を敷いていた。ハンニバルとのポエニ戦争や、その版土が広がるにつれより多くの民衆の声を聞かざるを得なくなった。貴族政治から民主政治への移行。
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ポエニ戦役でカルタゴを破り「外患」を克服したローマが国内に蔓延する「内憂」を一掃すべく一大改革に乗り出す時代にグラックス兄弟からポンペイウスまで世界史の教科書でもお馴染みの改革者の生き様をより精緻に描いた一冊。
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ローマ人のことを語りながら出版された頃の現代日本人と対話している作品。歴史書の体裁をとった社会論になっている。
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(2007.01.01読了)(2006.05.13購入)
(「BOOK」データベースより)
ハンニバルを倒し、帝国カルタゴを滅亡させ、一気に地中海の覇者となったローマ人。しかし大国への道のりの速さゆえに、ローマは内部から病み始める。権力が集中しすぎた元老院に対して改革を迫る若き護民官グラックスは同国人に殺され、続く改革者たちも、内なる敵に向き合わねばならない―ローマ人はいかにしてこの“混迷の世紀”を脱脚するか。
☆塩野七生さんの本(既読)
「男たちへ」塩野七生著、文春文庫、1993.02.10
「ローマ人の物語Ⅰ ローマは一日にして成らず」塩野七生著、新潮社、1992.07.07
「ローマ人の物語Ⅱ ハンニバル戦記」塩野七生著、新潮社、1993.08.07
「緋色のヴェネツィア」塩野七生著、朝日文芸文庫、1993.07.01
「銀色のフィレンツェ」塩野七生著、朝日文芸文庫、1993.11.01
「黄金のローマ」塩野七生著、朝日文芸文庫、1995.01.01
「ローマ人への20の質問」塩野七生著、文春新書、2000.01.20
「ローマの街角から」塩野七生著、新潮社、2000.10.30
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ハンニバルを倒し、帝国カルタゴを滅亡させ、一気に地中海の覇者となったローマ人。しかし大国への道のりの速さゆえに、ローマは内部から病み始める。権力が集中しすぎた元老院に対して改革を迫る若き護民官グラックスは同国人に殺され、続く改革者たちも、内なる敵に向き合わねばならない―ローマ人はいかにしてこの“混迷の世紀”を脱脚するか。
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第3巻は、紀元前146年カルタゴ滅亡から、紀元前60年ポンペイウスによるオリエント制圧完成、地中海をめぐる全地域がローマの覇権下に入るまで。
シリア・エルサレムがこの時期ローマの属州となり、ユダヤ・キリストの世界と結びついていく。
「いかなる超大国といえども、長期にわたって安泰であり続けることはできない。国外には敵をもたなくなっても、国内に敵をもつようになる」
「多くの普通人は、自らの尊厳を、仕事をすることで維持していく。ゆえに、人間が人間らしく生きていくために必要な自分自身に対しての誇りは、福祉では絶対に回復できない」
「無知な大衆とは、政治上の目的でなされることでも、私利私欲に駆られてのことであると思い込むのが好きな人種である」
「人間とは、食べていけなくなるや必ず、食べていけそうに思える地に移動するものである。、これを古代では蛮族の侵入と呼び、現代ならば難民の発生という・・・民族の移動とは、多少なりとも暴力的にならざるをえない」
「すべての物事は、プラスとマイナスの両面を持つ。プラス面しか持たないシステムなど、神の技であっても存在しない。ゆえに改革とは、もともとマイナスであったから改革するのではなく、当初はプラスであっても時が経つにつれてマイナス面が目立ってきたことを改める行為なのだ」
「恵まれた階級以上に頑迷な旧守派と化す プアー・ホワイトは、いつの世にも存在する」
「戦争とは、それが続けられるに比例して、当初はいだいてもいなかった憎悪までが頭をもたげてくるものだ。・・・内戦が悲惨であるのは、目的が見えなくなってしまうからである」
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ハンニバルよりさくさく読めた。何故・・・・?
ローマ内部の足の引っぱりっこ。
外敵を退けたら次は内側に次々問題が・・・・・って小説のお約束を地でいってる気がします。
2000年以上前の話とは思えません(笑)
(09.05.10)
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図書館(09.04.29)
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まさに混迷。地中海の覇者となったのはいいけれど、方々に火種があり、イタリア内部にも火種がある。盛り上がりに欠けると言えば欠けるけれど、この後のユリウス・カエサルの長大物語の背景情報だと思って読む。確かにそうでもなければ、もう勝手にしたら、といいたくなるどうしようもない時代の物語。
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スッラすげー…何がすごいって、こんなに粛清しまくったのに、ちゃっかり寿命全うして畳の上で死んだことだよね。
志半ばにして非業の死を遂げたグラックス兄弟を思うと、因果応報ってなんだろうな…という気持ちになる。最後の奥さんとの馴れ初めエピソードがすごく可愛かった。
理想に燃えるグラックス兄弟の青臭さが大好きだったので、彼らの話はもっと長く読みたかった。母親も素敵だったな。さすがスキピオの娘。
ハンニバル戦記のように血湧き肉踊る部分じゃないけど、面白かったです。次はやっとカエサルだ〜
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表紙に使われている彫刻がすごく男前だった。
歴史から彫像を見るって発想がいままでなくて
これから美術館でも楽しめそうだ。
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共和制ローマの、内乱時代である。前巻での誇り高い、美しいローマはどこへ行ったのか?人の世というのはやっぱりこういうものなのだろうか。諸行無常である。
システムに不都合が生まれた時、それを救おうと奮闘する個人の姿は痛々しい。それはその結果も俯瞰してみることができるからだろう。
人の悲しさ、むなしさを感じさせる3巻は、正直ちょっと暗い気持ちになりながら読んだ。
2007/3/18
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前2巻までのローマは敵の侵略を防ぐこともあれば、領土を手に入れるための侵略をしたりと、アグレッシブな若い国だった。が、ポエニ戦役を経て、当時の最強国となってしまったローマはもはや征服する土地が限られ、外敵よりも内部の調整に四苦八苦する。
そんな時代に登場したグラックス兄弟、マリウス、スッラ、ポンペイウスらローマの指導者たちは内戦の片づけと政治体制の修正と、やや地味な仕事に明け暮れる。
どうにも盛り上がりどころのない、爽快感のない国になってしまったローマ。そんな中、個人で頑張っていたのが小国ポントスのミトリダテス王。大国ローマに何度も敗れては立ち上がる姿に「漢」を感じた。
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ローマ人完読プロジェクト第3段にて挫けそうになる。ハンニバルとカエサルの間の混沌の物語故か、かなり中だるみぎみ。なんとか最後まで辿り着く。
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組織とは不思議なもので、外部の脅威がなくなると、内部から崩壊していく。そして、未来は、外部でもなく、内部でもないカオスの縁にいて、新しいビジョンを持つ者が切り拓く。次巻が楽しみ。