紙の本
対象期間が1000年と長い為、骨組みだけ、他の著作も読むで補足要
2009/08/30 10:34
7人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:萬寿生 - この投稿者のレビュー一覧を見る
西ローマ帝国滅亡後の地中海をめぐるイスラム教社会とキリスト教社会の攻防の歴史である。六世紀後半から十六世紀までのイスラムの攻勢とキリスト教社会の部分的一時的な反撃の模様が描かれる。シチリア島をめぐるイスラム教側の侵攻と占領支配、キリスト教側の奪回と再支配、等もあるが、上巻のほとんどは、イタリア沿岸への北アフリカのイスラム教徒による海賊活動の話である。なぜ海賊活動が繰り返されるのか、一神教の教理よりもむしろ北アフリカの社会事情によるものであることが分析されている。
権力を握る人びとが海賊に拉致され奴隷として虐待されている人びとを救出することよりも、権力闘争に終始している一方で、身代金をあつめてイスラム教側と地道に交渉し、拉致された一般人の救出活動に命を投げ出した人もいる。イスラム教側はキリスト教徒を奴隷としてガレー船の漕ぎ手にしたり、身代金稼ぎをしているが、キリスト教側はイスラム教徒を奴隷にすることはほとんどなかったらしい。十六世紀以降のヨーロッパ人によるアフリカ人の奴隷売買を知る現代人には不思議に思えるが。イスラム側では、前は何教徒でもイスラム教に改宗すれば、同等な権利を得られたようである。トルコ帝国内で相当な地位まで栄達した人も何人かいる。黒人奴隷はキリスト教に入信しても、奴隷のままであった。
下巻もほとんどが北アフリカのイスラム教徒による海賊活動の話になる。この海賊たちがトルコ帝国の地中海進出の際のトルコ帝国海軍となり、海賊の親分が海軍司令官になるのだが。戦争においては、失敗の少ない方が勝つという原則が、この長い歴史の中に、いくつも見出される。キリスト教側の君主達の近視眼的欲望が、イスラム側の進出を招いている。
この本もキリスト教側から見た歴史になっている。イスラム教側から見た歴史ではどうなっているのであろうか。取り扱う時間が長いため、著者の著作としては、骨組みだけで肉付けが足りないが、その点はこれまでの著作を読んで欲しいとのこと。
紙の本
日本人には理解出来ない、信仰という原動力について。
2014/04/05 19:34
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投稿者:やびー - この投稿者のレビュー一覧を見る
カエサルが基礎を築いたローマ世界。
『ローマの国体とも言える「寛容」を、一神教であるキリスト教が共同体(コミュニティ)を硬直化し、破壊。異民族の侵略と共に国家は崩壊した。』と、塩野氏は前著「ローマ人物語」で述べた。
(大作である氏の著書を私的に要約したのであり、必ずしも氏の見解では無い事は補足させて下さい。)
ローマ亡き後の地中海世界と、銘打つ本書。台頭するイスラム教とは何か?キリスト教、ユダヤ教も包括した一神教を中心に、中世を彩る「信仰」と、イスラムを語る上で必要な「海賊」言う補助線を引いた地中海世界の歴史を供述する。
無くす事によって、「その」の有り難みが解るように、パクスロマーナ崩壊後の、現状を知る事によって「国家」とは何かと言う疑問に本書は答えてくれる。
平和な日本で生活を営み、毎年首相が代わる政治不安でも道を歩くのに武装せず、買い物も出来て安全に旅行が出来る。
当たり前、に感じる「国家」の恩恵を受けているが、日々日常生活を生きる我々に、その有り難みを感じる機会は少ないだろう。
ローマ亡き後の地中海世界とは、イスラム教徒の侵略に怯え、海賊の拉致に遭い、奴隷へと落とされる庶民の苦しみが描かれている。
多信教の日本人からみれば、人の命より神の意思が重要なのか?と、率直な疑問を抱くだろう。
十字軍におけるプロパガンダ。「神はそれを望んでおられる!」を、大義名分に聖地奪還を何百年も疑いもせずに行使出来たものだと関心してしまう。
道義的に考えれば、拉致され異郷で被害に遭う同朋を救うのが最優先では無いのか?と、為政者にツッコミたい所だ。
現代日本でも、北朝鮮に拉致された被害者の救済が遅れている現状に不信感を感じる読者諸兄も多いだろう。
中世における、地中海世界。その現状を、多様化した視点から歴史を解りやすく説き明かしてくれる。
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ローマ帝国滅亡後の地中海についての話ですが、内容はサラセン人(北アフリカのイスラーム教徒)海賊による地中海沿岸各地に居住するキリスト教徒への略奪と、それに対するキリスト教徒側の対応がメインです。作者が歴史家ではなく小説家であるため、普段歴史家が見落としがちなが書かれてあり、読んでいて非常に参考になる一方、所々に歴史的な間違いもありました(カール大帝の父をカール・マルテルとしたり)。しかしそれでも“歴史学”という、科学として何かを明らかにしなければならないという制約がないため自由闊達に書かれてある印象をもちました。例えば46ページ「「暗黒の中世」と後世の歴史家たちは言う。その一方では、中世は暗黒ではなかった、と主張する学者たちもいる。だが、少なくともイタリア半島とシチリアに住む人々にとっては暗黒以外何ものでもなかったのが、彼らが生きた「中世」なのであった。」という言葉は、より活発な面ばかりにスポットをあてがちな歴史家の性では、なかなか出てこない言葉ではないでしょうか。また、歴史教科書には触れられない「救出修道会」や「救出騎士団」の活動も知ることができました。海賊に拉致され、イスラーム世界で奴隷として酷使されていたキリスト教徒を救出するために設立された2団体の活動についてですが、この本は新聞で麻生総理も買ったと書いてあり、総理にはぜひこのくだりを読んでもらいたいものです。しかしキリスト教徒たちが自身の“兄弟”たちの救出に熱狂していた一方で、海の向こうではインディオや黒人たちを奴隷として使役していたという現実は、信仰の限界と皮肉を感じます。
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おもしろかった!特に、西ローマ帝国の成立のエピソードが印象的。あそこらへんの、法王と皇帝の関係、西ローマと東ローマ、西欧とイスラムの理解があってこそのイタリア史。イタリアの歴史としては、ふーん。という感じだけれど、イタリア実情にいたるまでの周辺世界への解説がためになった。暗黒といわれる中世史こそが、本国やヨーロッパで熱いと某作家先生がおっしゃっていた。
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ローマ人の物語の続き・・・よく頑張って書きましたが・・・私もよく頑張って読みました〜西ローマ帝国滅亡後,ビサンチンがユスティニアヌス帝の時代にイタリア半島を支配したが,新たな人々・サラセン人が北アフリカに現れた。シラクサを最後にシチリア島を完全占領するのに,200年近くの時が流れ,ノルマン人の精鋭が来るまでキリスト教徒との良好な関係が築かれたが,イスラム教徒はイタリア・南フランスの地を襲撃しては略奪し,人を掠め取って奴隷とした。キリスト教徒救出の修道会や騎士団は各地で寄付を募り,アミールと呼ばれたイスラムの指導者と掛け合って,奴隷を買い戻していたのだ。イタリアの沿岸では海洋都市国家としての覚悟を決め,やられる前にやるという意志を強くした。イスラムがもたらしたものは,レモンにオレンジ,砂糖・茄子・サフランの他にサハラの金があり,北アフリカではイタリアの工芸品を求めていた。人を攫っては身代金をとって貿易の不均衡は是正された。地中海を挟んだ北のキリスト教徒と南のイスラム教徒の関係は,押しつつ押され,奇妙なバランスが測られていた。イスラム教徒との直接の関係を持たない北欧のキリスト教徒のロマンスが十字軍としてバランスを一時崩すか,均衡は再来した〜 ティレニア海に面した海岸にはサラセンの塔と呼ばれる建造物が残されているが,サラセン人の侵攻拠点としての要塞かと直感で考えた。それは間違い。サラセンの海賊を早期発見して,人々に避難を呼び掛けるためにキリスト教徒が作ったものだった。サン・ピエトロ寺院は壁の外にあってイスラム教徒に破壊され,捕らえられたイスラム教徒によって,より強固な建造物として再建された。ほお・・・って感じかな。ノルマン人の再征服の取り掛かりは10名の騎士。それが150名となり,20年で完結した。それがおかしな塩梅になるのは十字軍のせいであり,フランス・スペインの支配であったとな・・・・・・いやいや簡潔には書けないな。よく頑張って読みました。次は1月30日
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安全と平和について考えさせてくれる一冊
海賊対処問題で揺れる我が国に最良の答えを与えてくれる内容ではないのだろうか
かつて「パックス」が保障した安全は無い
暗黒の地中海を舞台にキリスト教徒、ヨーロッパ人たちの苦闘の歴史から、今我々が何を選択すべきか学べるのではないだろうか
海外派遣の是非と国際貢献の美名の大波に揺さぶられ、本当のすべきことを我が国が忘れていることをこの本は教えてくれた
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ブログにレビューを書きました。
http://yo-shi.cocolog-nifty.com/honyomi/2009/03/post-4d50.html
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ローマ帝国が滅び、イスラム教徒(サラセン人)が進出した地中海世界の話。
イスラム教徒の海賊が跋扈する地中海。ローマ帝国が滅んだ後、キリスト教徒はいかにしてイスラム海賊に耐えたのか?
イスラムの海賊が、19世紀前半まで拉致したキリスト教徒を奴隷にしていたというのは知らなかったです。
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塩野七生さんの「ローマ亡き後の地中海世界」を読み終わった。
彼女の著作を読む上でのバックボーンを構築し、ガイドラインにもなるという、塩野七生ファンには重要な本となりそうだ。
細切れの時間を使って読んでいたので、えらく時間がかかってしまったが、それでもやっぱり、感慨は深い。
8世紀から18世紀までの地中海世界でのオスマントルコとキリスト教諸国との千年にわたる葛藤を大きく描いている。
一神教を奉ずるこの2大勢力は、その原理主義に従って、互いに略奪、拉致、暴虐を永きにわたって繰り返してきた。海は地中海全体、陸はウィーン近郊に迫るイスラムの伸張に歯止めをかけたのが、有名なレパントの海戦だ。世界史の教科書には、キリスト教側の主役として、法王庁とスペイン国王の事は描かれているが、実際に勝利の立役者になったのは、原理主義から離れ、ルネッサンスの花開いた、ベネチアの船と将兵だった。
ここがまさに、塩野七生さんのテーマであるといえる。
その締めくくりに書かれてある内容に胸を打たれた。
「現代のイスラム諸国とキリスト教諸国を分けるのはルネサンス時代を経たか、そうでないかという違いである」と彼女は述べている。
そのとおりかもしれない。
翻って日本を考えると、他のアジア諸国と違って、日本は、ヨーロッパ同様に封建時代を経験し、江戸時代という、人間を見つめる芸術が花開いた時代を経験した。
なんと幸せで豊かな過去をもつことができたのかと思う。
自由と人間の大切さを忘れた国民は危機に弱い。
それは世界の歴史が証明してきた。
日本は今、どちらなのだろう。
忘れかけているけれど、しっかりDNAに刻み込まれてると、ボクは思っている。
だから、今度の危機も日本は強く立ち向かえるし、最後には勝つと信じていられる。
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ローマ帝国滅亡後が気になって読んでみた。
中世はなんとも暗い時代だね。
ノルマン人は250人ぐらいでシチリアを25年かけて征服したらしい。
ノルマン人、すごすぎる。
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『ローマ人の物語』の塩野七生が1-16世紀の地中海世界(ヨーロッパ)を、木を見て樹を見ずにならないように、全体像をうまくまとめた大作。
◆1-5世紀 ローマ帝国の時代
ローマ帝国による平和、パクス・ロマーナが実現した時代。ヘロドトスの「歴史」にはこうある。
人間ならば誰でも神々に願いたちと思うことすべて、そして神々も人間に恵んでやりたいと思うであろうことのすべては、アウグストゥスが整備し、その継続までも保証してくれたのであった。それは、正直に働けば報酬は必ず手にできるということへの確信であり、その人間の努力を支援してくれる神々への信念であり、持っている資産を誰にも奪われないですむということへの安心感であり、一人一人の身の安全であった。 ― 『歴史』
395 ローマ帝国、東西に分裂
476 西ローマ帝国滅亡
◆7-10世紀 イスラム教の拡大 (キリスト教 VS イスラム教)
ビザンチン帝国の汚職と重税により人々の間に不満が広まり、イスラム教が瞬く間に浸透する。イスラム教は死後の安心ではなく、税を払わないでよいという現世的な利点を与えた。キリスト教のように300年の歳月は必要としなかった。イスラムの海賊がキリスト教圏で破壊、略奪の限りを尽くし、安全の保証はなくなった。
613 マホメッド、布教を開始
635 イスラム勢、ダマスカスを征服し、首都を移転
642 イスラム勢、アレクサンドリアを征服
651 ササン朝ペルシア滅亡。メソポタミア地方がイスラム化される
652 海賊のキリスト教世界への侵入が始まる
762 イスラム勢、新都バクダットを建設、遷都
◆11-16世紀 キリスト教の反撃 (キリスト教 VS イスラム教)
十字軍遠征などキリスト教の反撃が始まる。この時代における東西のプレイヤーは以下の通り。
西の強国(キリスト教)はスペイン、フランス、ヴェネツィア共和国。
東の強国(イスラム教)はトルコ帝国。そして背後には元。
アマルフィの商人は、支那人が発明してアラブの商人が中近東にもたらた羅針盤を小型にして売り出した。ヴェネツィアは紙もガラスも印刷技術も発明していないが、ヴェネツィアで企業化された。海洋都市の発展も見逃せない。
◆17世紀以降
ローマの次に覇権国家として軍事による世界の秩序を確立したのはイギリスだった。ゆえにパクス・ロマーナに習い、パクス・ブリタニカと言われる。
しかしイギリスの前に大植民地帝国築いたのはスペインは、パクス・ヒスパニカとは言われない。それはスペイン人が自分以外の民族を活用する才能に欠けていたからである。インカ帝国を滅ぼしたのもスペイン人である。
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「ローマ人も物語」の続編…
地中海はキリスト教国と、イスラム世界の対立が続く
「海賊」の認識がひっくり返る
キリスト教とイスラム教の対立は永遠に続くと思わざるを得ない
イスラム勢力圏の急速な台頭、アラビア半島から始まり、100年でペルシャからスペインまで征服、「新興の宗教が常に持つ突破力と、アラブ民族の持つ征服欲が合体した結果」」「右手に剣、左手にコーラン」
狙われる修道院、「貧しさを徳とし神に生涯を捧げた修道僧たちが、祈りと労働に明け暮れる静けさに満ちた日々を送る宗教施設…中世の修道院ではない」
「神に祈ったことが成就しなくても、それは信仰心が不十分である…」
「プラスには必ずマイナスがついてくる、拉致に対する救出活動が盛んになればなるほど拉致が金になり、続いていく…」
地中海に海賊が消えたのは、1830年フランスがアルジェリアを植民地にしてから。
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本書は、「ローマ人の物語」(全15巻)の続編として、ローマ帝国崩壊以降の地中海世界の興亡を描いた書であるが、とにかくおもしろい。「ローマ人の物語」では、「ユリウス・カエサル」を描いた2巻が最高に面白く、おそらく著者もそこを一番書きたかったのではなかったかと思わせるものであるが、本書も、歴史のダイナミズムを教えてくれるものであると思った。
本書では、西ローマ帝国が滅亡した紀元476年以降を描いているが、「イスラムの急速な拡大」や「十字軍」、「海賊」等々、内容は詳細だが、おもしろく、地中海の風景が目の前に浮かぶような文章だと感じた。
この時代のイスラム教とキリスト教の対立はなんとすさまじいものか。延々と戦い、延々と殺しあう、正義と正義の戦いだ。なんと不毛なことか。その被害の大きさには、ため息さえ出ない。人間とはなんとおろかなことか。現在でもイスラエルとパレスチナの戦いを見ると、過去を笑うことはできないと思った。人間とは進歩がないと言うべきか、代わらないのが人間だと言うべきか。
ヨーロッパの詳細な歴史を知る機会は、あまり多くはなく、学校の歴史教科書でも数ページ程度かと思う。本書は、ヨーロッパの土台を教えてくれる本であると感じた。分厚さの割には、飽きずに読める良書である。
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ローマ人の物語、十字軍物語を読んでからの本書。読む順序が少しおかしいかもしれないけれど、面白く読めた。
中世の宗教対立と経済的な要因、政治的野心が複雑に絡み合った混沌は、現代の社会に通じるものがある。人間は進歩していないと悲観的になると同時に、いびつな形にしろ宗教対立を乗り越え繁栄したシチリアの例などは私たちに希望を感じさせてくれる。
個人的には「救出修道会」と「救出騎士団」が抱えた矛盾が心に残った。無力な奴隷を助ければ助けるほど、海賊へインセンティブを与え、海賊の被害者が生じてしまうという矛盾の中にありながらも、二つの集団は数百年に渡り活動を続けるという選択を選ぶ。
この本と直接関係ないけれど、現在の北アフリカの状況が頭によぎった。先進国が民主化に手を貸そうとした結果、資金武器がテロリストに渡り、治安や経済が乱れ、国民はより貧困に苦しみ、より外国からの支援が必要になるという矛盾が生じている。自分たちも楽ではないのだし、「敵」を利するような寄付や開発援助を継続すべきか...
アルジェリアの事件で北アフリカへの関心が高まっている時期に読めてよかった。
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十字軍物語で、塩野七生さんのファン?になり、その後ローマ人物語で、ローマ帝国にのめり込む。
ローマ帝国のその後に興味を持ち、この本も読み始めました。
ローマ帝国の末期が継続されており、中世とはこんな時代だったのか、と認識させられた。