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秋田県能代市で、老人施設入居者85歳の死体が近隣の水路から発見された。雪荒ぶ現場、容疑者として浮上したのは、施設で働くベトナム人アインである。
外国人技能実習生のアインは、神戸の縫製工場で働きながら、僅かな収入を母国の家族へ送金する日々を送っていた。劣悪な労働条件に耐えかね失踪。列島を転々として東北にたどり着いた。重篤なガンを患っていた入居者に請われて、自殺を幇助したとの自供を始める。
これで解決か……。捜査官らは安堵したが、ひょんなことから捜査に加わった警視庁継続捜査班の田川信一は、死体の「手」に疑いを抱いた。捜査線上にあがったのは、流通業界の覇者として君臨する世界的IT企業サバンナだった――。
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田川刑事シリーズ第三作目。従来の作品通り、非常に定石的な筋運びだが、分かっていても終盤の盛り上がりには毎度惹き込まれる。単行本の刊行は二年前だが、今日現在では日本人の若者が外国人労働者として海外に出稼ぎするニュースが頻繁に報道される時代だ。AmazonとZOZOをモデルにした企業を登場させ、利益至上の外資と社会貢献の内資という構図を描くのは些か偽悪的であるが、利便性の裏には多大なる犠牲があることを的確に表現しているとも言える。今回、終盤のお約束を裏切った筋道こそが、著者の望む正しい司法の在り方なのだろう。
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秋田県能代市、2月、真冬の水路で、老人介護施設に入居していた85歳の女性の水死体が発見される。
容疑者として、介護職員であるベトナム人・アインが逮捕され、『殺してくれと頼まれて、水路に落とした』と供述する…
自殺幇助なのか⁇
警視庁捜査1課継続捜査班・田川は、被害者の手が『殺しの手』であることを見抜く…
地道な捜査が始まる…
秋田・能代、神戸…
事件の裏には、劣悪な労働環境の外国人労働者問題、IT大手企業による優越的地位の濫用…
さまざまな問題が事件につながってくる。
田川の執念の捜査が実る…
上層でいるために。
娘を幸せにするために。
娘を下層にさせないために。
アンダークラス、下層…
中層、上層。
これからはAI、ロボットに仕事を奪われ、下層に転落する人が増え、ますます格差が拡大、となるのだろう。
AIに取って代わられない、技術、知識、技能を持たなければと、考えさせられる。
これが教育格差につながるんだろう。
下層に生まれると、下層から這い上がることは並大抵のことではどんどんなっていくんだろう。
神戸は、山側、海側で方角がわかるのは確か。
そこまで山側が、っていうのは、東の方で。
阪急、JR、阪神…
西の方はそこまではなく、地域ですね。
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休業日の日中に紐解き始め、夕刻から夜にも読み、夜中に目を開けて更に読み進めた。頁を繰る手が全く停められない。そして翌朝に時間を設けて読了し、何やら余韻に浸る感じだ。
基本的には、刑事達が出くわす事件に関して、懸命の捜査で謎を解明するという物語である。が、取組む事件の背景には、歪になってしまっている現代社会の縮図が在り、劇中人物達の様々な想いが丹念に描き込まれている。作品に魅せられた。
秋田県内の高齢者施設で、老女と介護職員の女性とがやり取りをしているプロローグの後、物語が動き始める。
霞ヶ関のコンビニで田川刑事が買物をしているような場面から物語は始まっている。
田川刑事は成人した娘と孫が居るベテラン捜査員だ。警視庁捜査一課で追跡捜査の担当となっている。捜査が膠着してしまっている殺人事件を、実質的に単独で捜査するという担当だ。深酒で肝臓を患った経過等も在って、この追跡捜査の担当ということになっていた。
この田川刑事がコンビニから自席へ戻ってみると、警察庁キャリアの女性である樫山警視が現れた。そして樫山警視は田川刑事に協力を依頼したいと言い出す。
田川刑事が話しを聴けば、樫山警視は或るベトナム人女性を探し出したいのだという。キャリアの警視というのは、警察庁内部、各地の県警、警視庁の様々な役を務める他、在外公館へ出向という場合も在るものだ。樫山警視は在ベトナム大使館に出向していた経過が在る。その時代に知り合ったベトナムの女性が、技能実習ということで来日していたが、何時の間にか連絡がつかない“失踪”という状態になってしまっているというのだ。
そんな話しをしているとニュースが飛び込む。秋田県警がベトナム人女性を逮捕していて、その女性が樫山警視が探し出そうとしていた人物であったというのだ。
事態に接した樫山警視は方々と調整して、田川刑事を伴って秋田県能代市に向かい、事情を聴くこととした。
ベトナム人女性の逮捕容疑は「自殺幇助」ということだった。高齢者施設で介護員として働いていた女性は、入所している85歳の老女が車椅子で散策に出たのに付き添ったという。そして、病気を苦に自殺すると言い出す老女の車椅子を押して、冷たい用水路に落としてしまった。我に返って施設に駆け戻り、通報して救急隊を呼ぶ等の救助を試みたが老女は助からず、死亡してしまったというのだ。
樫山警視と田川刑事は、秋田県警の許可を得てベトナム人女性と面会して言葉を交わしたが、「自殺幇助」で逮捕されてしまった経過の話しをするばかりだった。
その他方、田川刑事は秋田県警によるここまでの捜査資料に眼を通した。そして老女の遺体を撮った写真に注目する。田川刑事が眼を奪われ、違和感を覚えたのは「手」だった。「自殺」ではなく「殺害」の可能性を感じる。
こうして、逮捕された女性の勾留期限を鑑みて、限られた期間ながらも捜査を行うことになった。樫山警視と田川刑事とが活動を始める。
物語の殆どの部分が田川刑事を視点人物として展開している。田川刑事は、捜査活動中に耳目に触れた事柄を悉く手帳に綴り、随時その手帳を捲って眺めながら考えるというやり方で捜査に臨���。リフィルをドンドン追加する分厚い手帳がトレードマークだ。
このベテラン捜査員の田川刑事に対し、樫山警視が在る。キャリアとして、警視庁部内の様々な部署や他県警、または関係機関との連絡調整というような事柄は鮮やかな手並みだ。他方で現場経験は浅い。田川刑事と共に聴取や推理を重ね、時には田川刑事に叱咤激励を受けながら被疑者の聴取に臨む等する。
「叩き上げの中の叩き上げ」というベテラン捜査員と、「スマートなエリート」であると同時に「少し若く、経験がやや浅い」という捜査員とのコンビで、難解な事態を少しずつ解き明かす。所謂“凸凹コンビ”という感じも在って、少し面白い。
事件に関わったベトナム人女性と老女との来し方を追いながら、樫山警視と田川刑事は文字どおりに東奔西走する。事件関係者の来し方の様々な事柄に、街の人達の善意にも援けられながら辿り着くのだが、樫山警視と田川刑事は、そして物語の読者は衝撃を受ける。そうやって捜査に勤しむ樫山警視と田川刑事は「事件の裏」に突き当たって行く。
因みに、最近読了した同じ作者の『覇王の轍』に“北海道警察本部捜査二課長”として赴任する女性キャリアの樫山警視が登場する。本作の樫山警視と同一人物であるようだ。多分、『覇王の轍』の物語は『アンダークラス』の物語の少し後という感じであろう。
様々な要素が織り交じり、実に興味深い作品だ。現代社会の「何時の間に?」という「歪み」に想いを巡らせる材料にもなるかもしれない。広く御薦めしたい。
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田川警部補シリーズの最新作で3作目。このシリーズは現在の日本の社会問題を鋭く描いており、すごく読み応えがある。事件とは直接的に関係ない部分の犯人の考え方、分からんことはない。困ったことやよね。さて、日本が立ち直る日が来るんだろうか・・・
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覇王の轍のヒロイン、警視庁キャリアの樫山さんが出てくる小説ということで、読んでみました。
樫山さんが成長していく姿も良かったんですが、物語の中身が濃すぎてそれどころではない作品だなと思いました。
特に、人手が足りないから海外から人を呼ぶ技能実習を人件費を切り詰めるために使われる最悪のパターンが出てきて、ああー問題になってるやつやななど、今のコロナ前の社会問題にも切り込んでいて、現実になりつつある日本社会を実感してしまいました。
アンダークラスというのをどういう人たちのことを指すのかおいておいて、一生会社にこき使われるだけ使われて終わる一生というのもアンダークラスといえなくもないし、今の地位を築いている人も犯罪を犯してまでしがみついて生きているという現実をみてもこういう方々も金の奴隷であり「アンダークラス」なのかもしれないなと思いました。
そして、日本は今は決して裕福な国ではないことを実感させられることも多い作品だなと思いつつ、私は今どこの層に属しているのか、上流になったらなったらなったでその地位にしがみつくんだろうか、おそらくしがみつくだろうなぁと思いつつ、今生きてる日本って本当に大変だよなぁと呑気に思いながら本を閉じました。
本当になんとも言えない読後感ではありますが、謎に迫る過程、犯人を追い詰めていくところなど読みすすめるページが止まりませんでした。
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社会派小説第三弾。
外国人技能実習生の過酷な現実にメスを入れた作品。この手の小説にありがちなものではなく、刑事の丹念な捜査から真実を導き出すという展開。
重厚だけども読みごたえのある秀一な作品だった。
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久々400頁を超える本を読んだ
介護施設での風景からの大企業を巻き込む壮大な展開に引き込まれた
格差社会、アンダークラス、考えさせられた
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NHKのドラマガラパゴスを見て、面白いと思い〈震える牛〉〈ガラパゴス〉〈アンダークラス〉3部作を読みました。
世相も反映していて、とても興味深く、どんどん引き込まれていきました。
歩いて歩いてたくさん情報を集めて、少しずつ犯人に近づいていく昔ながらの刑事田川。
キャリアの樫山とのコンビも最高!!
とてもとても面白かったです。