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「渇水」「海辺のひかり」「千年の通夜」「金棺出現」の4作をまとめた作品集。
30年以上前に発表された作品なので、時代背景は古く、どこか懐かしい印象。
表題作が映画化されるのをきっかけに原作を読みたくなった。
水道局で停水を担当する男の仕事にも人生にも倦んだような空気感。水道を停められる家に住む小学生の姉妹とのささやかな交流。そして衝撃的な結末。この辺りをどう映像化するのかますめす興味がわく。
結末は原作とは違い一筋の希望を描くらしいが、原作の結末はこれはこれで悪くないかな。
他の作品もなかなか味わい深い。
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「死」をテーマにした4編から成る短編集。 表題作は映画になった。市役所の水道部に務め水道料金滞納家庭の「停水」を執行する職員が主人公。滞納を続ける家の娘姉妹との交流が話の軸になる。ライフラインを切断するという仕事についている公務員のストレスや苦悩が思いやられた。
「海辺のひかり」は、実家に帰省中、30歳の若さで急死し実家の墓に埋葬された母の改葬ということで、墓を掘り返す話
「千年の通夜」は、事故死した男の通夜に集まった中学校時代の同級生たちの思い出話
「金棺出現」は、父親の系譜や死に様から「死」や「葬儀」に対し、尋常でない関心を持つようになった男の話
いずれも、すっきりする話ではなく、暗い感じがするが、いかにも純文学という香りのする小説集だ。
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河林満『渇水』角川文庫。
映画原作の表題作を含む3編を収録した短編集。
河林満は1950年に福島県いわき市に生まれ、一家で都内に移住。立川市役所勤務を経て作家として活躍した後、2008年に永眠している。
表題作の『渇水』が生田斗真主演で映画化されるのを機に文庫で復刊されたようだ。未だに角川商法は健在なようだ。
3編共に人間の死を描いているが、いずれも死ぬことに対して異常な恐れを抱いている著者がそれをひた隠すかのように綴られた短編であった。
『渇水』。1990年の文學界新人賞受賞作。著者の経験に基づいた私小説。何ともやるせない思いだけが残る。ライフラインの中でも命に関わる水道代の未払いによる停水は最後の最後と聞く。しかし、水道代の支払いもままならぬ困窮家庭があることも事実だ。市役所の水道部で停水執行を担当する岩切は、3年間も水道代の支払いが滞っている小出秀作の家で、秀作の娘の恵子と久美子姉妹に出会う。姉妹の母親は不在、父親の秀作も長い間、家に戻っていなかった。そんな状況の中、相棒の木田と停水を行った岩切は、罪悪感を感じると共に幼い姉妹のことが気に掛かる。★★★★
『海辺のひかり』。こちらも私小説。懐かしい光景と母親の死をあらためて受け入れる主人公。30年前、30歳という若さで、いわき市の実家に帰省している最中に病死した母親の骨を拾いに行く。立川市に暮らす私と妹は常磐線に乗り、いわき市へと向かう。母親を西多摩に用意した墓地に迎え入れようとしたのだ。車内で私の頭の中を過る母親の思い出。★★★★
『千年の通夜』。これも一人称で描かれた私小説。かつてのクラスメートの通夜に顔を出し、友人たちと思い出話をするという話。主人公は何故か亡くなったクラスメートの妻の姿が見えないことを気にする。中学のクラスメートの田島が急死する。クラスメートからの連絡で、残業を早目に切り上げて、通夜に向かう私。★★★
本体価格680円
★★★★
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渇水 読めて嬉しい。映画も観たいと思っている。楽しみだなぁ。久しぶりに文学という本を読んだ気がする。2023.6.5
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日々の中の死の影が水や夏を媒介に浮かび上がる。光は日差しなのか。切なさとやるせなさとかないまぜになって、体のなかを何かが突き抜ける。形容できないものを突きつけられた気がした、
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映画の予告編を見て、手に取った一冊。
作品が発表されたのがバブルの頃であることと、短編であることを読んでから知った。手を怪我するシーンが痛さが伝わり印象的だった。
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「死」をテーマとした短編集。
1話目の「渇水」が映画化されたのをきっかけに読んでみました。
市役所の水道部に勤め、水道代未納家庭の給水を止める仕事をする岩切さんのお話。
絶望の底に希望の光が見えるのかと思いきや、救いようのない厳しい現実は厳しいまま。
この現実を前に、岩切さんはどうしたらいい?
きっとまだできることがある。
この短い物語を、映画はどのように描くのか。
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猛暑日が増えてきました。6月12日、私は「渇水」という映画を観て帰った。生田斗真主演の水道局員のお話。門脇麦、磯村勇斗、山崎七海(子役)、柚穂(子役)、尾野真千子出演。その日私は以下の様に映画ノートに記入した。
プロデュースが白石和彌なので、いつ姉妹に悲劇が訪れるのか、いつ岩切さんはブチギレて奈落に堕ちるのか、そんなことばかり考えていた。
水道局職員が水道停止しても、その家族の生死与奪権を持っているわけじゃない。前橋市に節水注意報が出ていて、一時期育児放棄された姉妹に危ない局面もあったかもしれないけど、お姉さんはなかなか知恵が回るので(万引きには手を染めたけど)、なんとか生き延びる。それ以外のところで、岩切さんも姉妹も生存権の揺らぎがあったのである。
渇水時期の話なので、この1ヶ月の話だと最初からわかっている。何処に落ちるのか、鉄と山の匂いのする男の元に走った母親、プールの匂いのする遊び場を好んだ姉妹、水の匂いのする男はやっと流れをやっと変えた。
甘いかもしれない。でも現実は甘くない。
(以上引用終わり)
もちろん、現実は甘くない。
映画の中でも、それは十二分にわかる。私は2人の姉妹が出てきたとき、そして姉の方が何もかもわかっていて、聡明な女の子だと知った時に、この姉妹は事故か何かで死んでしまうのではないか?とずっとヤキモキしていた。映画を見ればわかるが、岩切さんが変な方向で「ブチ切れた」おかげで、そのせいで、姉妹は「望まぬ」命拾いをする。
小説を読んだ。なんだこれ。
映画と小説は、小さな点どころか、大きな点で、全然違った。しかも、少しだけ光が見えた映画的ラストとは違い、短編小説的悲劇に終わっている。このラストのせいで、選者の不興を買い、河林満は芥川賞を逃したのだというのが、大方の評価だった。
小説は今は流行らない私小説風で、しかも社会派とも言えるものだった。舞台は前橋市ではなく、一貫して基地の街「立川」にこだわっている。映画の門脇麦が演じる夫に逃げられ私娼をしている母親は、小説では遂に顔を出さずに、代わりに人生に疲れ切った父親が出てくる。
河林満。1950年生まれ、90年芥川賞を逃した後に98年から役所を辞めて物書きに専念したと、Wikiにある。2008年脳出血のため死去。57歳。若い。なんかもう、典型的な純文学の小説家である。
監督の高橋正弥の執念なのか、プロデュースの白石和彌の執念なのか、わからない。どちらにせよ、原作からかなりかけ離れた作品である以上、何度も何度も改稿を重ねた末の「水の匂いVS鉄の匂い」「おせっかい隣人の存在」「万引きや公園の水道の存在」などの描写だったのだろう。この映画を作ろうとした人は、河林満の若死を聞いて、「改葬」を試みたのかもしれない(短編集の中では「海辺のひかり」において、母親の改葬話が語られている)。私は河林満が映画のあのラストを観て、成仏するような気がしてならない。映画と小説、セットで体験することで、ちょっと記憶に残る映画・小説となった。
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原作が短編小説であることを知ったのは映画の鑑賞後。160頁という薄さにも惹かれて買いましたが、映画とは違うラストが衝撃的。
映画を観たとき、幼い姉妹は結局取り残されたまんまなのだから、光が射しているとも思えず、少し甘い最後のように感じていました。ところがこのラストは甘いどころか絶望しかない。
表題作とあとの2編にもこの絶望感があって、読みながら佐藤泰志のようだと思っていたら、この著者もすでに亡くなっているというではないですか。自ら命を絶ったわけではないけれど、死を見つめていたように思える3編に言葉を失います。
映画の感想はこちら→https://blog.goo.ne.jp/minoes3128/e/abc63fc5a2e929b484221529fea061dc
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映画化されると知り、読みました!
水道料金を滞納している家の水道を止めるという、なかなかな視点から読める貴重な本でした。終始、トーンの低い文調で進み、そんなトーンの中でも主人公岩切の心情の機微から、うまくいかないもの同士、通ずるものがあるのかないのか、、、読後感もなかなかのトーンです。
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滞納、貧困、ネグレクト
少し前の時代背景なのに現代に通ずるものがある
ひたむきにそして気丈に生きようとする少女の
ぴんと伸ばした背筋に秘められた刹那が浮かぶ
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『渇水』は、生田斗真主演で映画化されているがこちらは見逃してしまった。
手に取ったのは表題作の渇水を含む全3話の短編。
○渇水〜猛暑の夏に水道局員が、料金未納の提水執行に姉妹の家に行く。父は行方不明で母も姿が見えない中、とりあえずある容器に水を入れさせてから水道をとめる。
その後、姉妹は…。
○海辺のひかり〜亡くなった母の墓を改葬するために土葬していた棺を掘り返す。
○千年の通夜〜同級生の通夜で集まった仲間と過ごす夜。
解説で、彼は死を思い、水に囚われた作家だったとある。
確かにこの3編も死がある。
そして風景に川があり、河口を感じ水の流れを想像してしまう。
実体験を小説にしたもの…のようで時代背景も語り口も見えてくるようである。
暗いなかにも引き込まれてしまう圧を感じてしまう。
それは人間らしいということなのかもしれない。
一般に、電気ガス水道の料金を滞納した場合、水道が最後に停止されると言われているのは、水を止めることが直接、命にかかわるという判断だから。
なおさら水と死が繋がっていると感じてしまう。
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2023.12.15〜12.16
う〜ん。
風景が明るいので、余計に・・・
彼の周りだけ、雨雲がある感じ。
「千年の通夜」は、フワフワした夢の中、ちょっと違う世界の出来事のような、でも、醜い現実であることが所々散りばめられていて、面白かった。
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この著者は初めてですが、何かの書評で同書が取り上げられていて、興味を持ち、読み始めました。
主人公は市の水道部で水道料金未納者の家の水を停水する作業を担当する職員。
その主人公が停水した家の小さな女の子二人が自殺と見られる列車事故で下の子が即死、上の子が重体。
主人公は「水なんかただでいい」と呟く人物。継母の環境で育ち、登校拒否の不良だった主人公が転職の末、今の職に就き、アルバイトに来ていた妻と結婚、家を持つのを厭がる主人公、ちょっと用足しにと子供を連れ、実家に行き、2週間あまり帰って来ない妻。
物語りが淡々と描かれ、そこから醸し出される生活感や読者に想像させる登場人物の心情など個人的には上手いなあと思いました。
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表題作の他2編を収録した作品集です。
どれも、美しい解決には至らない、現実を感じさせる作品でした。短編集ではあるのですが、それぞれが妙に読み応えがあり、作中で解明されないちょっとした謎や疑問が残ったままになるところがリアルです。
水と死(または生)をどっしりと描いているような印象でした。
表題作『渇水』は水道局職員の停水執行係の男性の話。水道料金が未納の家庭へ料金の収納、もしくはそれが果たされない場合の最終手段として停水措置を取るという仕事。ある夏、数年未納になっている家庭に停水執行に向かったところ、その家の子どもたちと鉢合わせして、水を止める前に姉妹に水を溜めさせるのだが――。
未納で電気やガスが止まっても、水道はすぐには止められないというのは話に聞いたことがあります。水がなければ、人間は生きていくことができないから、と。
そんなことを思い出させる話でした。
できることなら、この作品の続きを読んでみたかったです。
同時収録の『海辺のひかり』、『千年の通夜』も、どちらも水と死の匂いを感じる作品でした。
社会派の文学作品だと感じます。
しっとりと重く、どこか水気を含んだ匂いが作品全体に流れているようで、暗いテーマのはずのお話も存外するりと読み進めていくことができました。
『渇水』は映画化もされているとのことなので、機会があれば観てみたいと思います。