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紙の本
スケールの大きな万人向けの作品
2001/06/11 23:19
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投稿者:こじましゅういち - この投稿者のレビュー一覧を見る
(いい意味で)ベアらしくない作品。雰囲気が今までの作品と違う。何というか、明るい。それに、はっきり面白いといえる。
物語は主人公、キャシーア・マジュムダーの一人称で進んでいくが、まず、この主人公が親しみやすい。今まで読んだ限りでは、ベアの登場人物は、たまに「ほんとにこんな奴おるんかい」というのもいたが、今回のキャシーアは実に自然。自然に感情移入できる。また、話の流れも、今までで一番筋が通って分かりやすいと思う。ナノテクを始めとするガジェットも、これでもかというくらい多数が登場するが、非常に自然に物語りに溶け込んでいる。そして、これらが描き出す火星の環境は生き生きとしていて、それだけでも楽しい。あらすじに限って言うのなら、本の裏のそれがかなりまとめてしまっているが、本編に秘められた内容の濃さは想像以上だ。あとは、もう少しけれん味がほしい(特に終盤、火星がタイトルどおりのことを起こすときに)かな、とも思うが、これは好き好きか。僕にとってベアのベストは「ブラッド・ミュージック」だが、この「火星転移」はそれに次ぐ。万人向けという点では、間違いなく一番だろう。お勧め!
紙の本
驚嘆すべき作品
2001/02/13 23:18
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投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
意識と物質との関係を考える上で、チャールズ・フランクリンが完成させた「ベル連続体理論」は極めて示唆に富んでいる。といっても、これは小説の上での話。グレッグ・ベアの『火星転移』第三部でのチャールズのレクチャーによれば、素粒子は231ビットの情報量をもつ記述子をもっており、そこには「物質、電荷、スピン、量子状態、運動エネルギーおよび位置エネルギーの成分、ほかの素粒子との関係で見た空間的位置、時間的位置といったものを含む情報」が記されている。
そしてすべての素粒子は、関連のある性質のすべての記述子が含まれた情報マトリックスのなかに存在していて、ベル連続体を通じて自分の性質と状態に関する情報をほかの素粒子に伝える。つまりベル連続体とはこの情報マトリックスのことであり、「宇宙のある特質のバランスをとる簿記システムのようなもの」だというのである。(第四部では、「神々の使者が行き交う道」と表現されている。)
チャールズはこのベル連続体にアクセスする方法を発見した。《われわれは共同作業の結果、物質とエネルギーを扱う包括的な理論を打ち立てました。データフロー理論です。素粒子の記述核内部に手をいれてそれを変える方法がわかったのです。》──その結果なにが起こったか、なにが可能となったかは、まさにこの作品のタイトルに示されている。
昔、素人向けの素粒子物理学の本でブーツ・ストラップ理論について読んだことがある。ベル連続体理論とどことなく似たところのあるものだったように記憶しているのだが、それはさておき、ここでちょっと脱線して、チャールズのレクチャーでもっとも感銘を受けた部分のさわりを記録しておく。
《この宇宙は遥か昔に、存在する可能性のあるあらゆる法則の混沌のなかから生まれた……。可能性だけがひしめく、おおもとの基礎というか素地というか、そういうところから生まれたんだ。混沌のなかで何組もの法則が消えていった。なぜなら矛盾があったからだ──矛盾があるものはより厳密な、より意義のある組合せに抗して生き残ることはできなかった。(中略)ぼくらが見ている宇宙は、あるひとつの進化した、自己矛盾のない法則の組合せを使っているわけだ。そして数学の法則は大なり小なりそれに合致するようにつくることができる。》
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