紙の本
「戦争には三階層、戦略・作戦・戦術の三次元があるといわれる。」(200頁)
2022/07/18 02:03
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投稿者:Haserumio - この投稿者のレビュー一覧を見る
たまたま映画『ミッドウェイ』(エメリッヒのやつ)を観て、南雲忠一のことが気にかかり、本書を一読。いろいろと参考になりました。但し、採り上げられた指揮官たちの寸描のうち、もっとも印象に残ったのは、ゲオルグ・トーマス歩兵大将(ドイツ陸軍)をスケッチした第七章。これに関連して、終章の一部を備忘までに引用しておきたい。「第二次世界大戦において、こうした戦略的逸材は、連合国側にしか現れなかった観がある。それも当然で、枢軸側は、日独伊ほかの「持たざる」国々から成っていた。かような国家にあっては、リソースの合理的な運用を追求し、敵に対して戦略的優位に立つという正攻法を取ろうとしても、不可能という結論に至らざるを得なかったのである。・・・ このような戦略的劣位に置かれた枢軸国、とくに日独の指揮官たちは、戦争目的を達成するために、「戦役」(campaign)、すなわち、一定の時間的・空間的領域で行われる軍事行動を計画立案し、実施する「作戦」の次元でのアクロバットに頼るしかなかった。それは、下位階層である作戦次元の勝利を積み重ねることによって、戦略次元の窮境を打開するという、九割九分は失敗を運命づけられた試みだったのだ」(199~200頁)。ここは、まったくその通りだよなぁと慨嘆しつつ読んだ次第です。
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元々知らない人の部分は飛ばして、日本の海将三将(南雲忠一、水上徳蔵、山口多聞)と、ドゴールの章だけ読んだ。
ハンモックナンバー(海軍兵学校卒業時の席次)がその後もものを言い続け、実力による抜擢人事がなかったことが、よく戦訓として語られるが、まあその通りなんだろう。名将と言われる山口多聞中将も色んな評価があるようだ。
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第二次世界大戦の指揮官、俗説を否定し新たな視点から再評価する紀伝体の戦史。
南雲忠一、カール・デニッツ、ジョージ・パットン、水上源蔵、トム・フィリップス、シャルル・ド・ゴール、ゲオルク・、トーマス、ハンス・ラングスドルフ、ゲオルギー・ジューコフ、エルンスト・ローデンヴァルト、山口多聞、ウィリアム・スミス
ビルマ戦線の水上源蔵はこの方だけで評伝が作れそう。マレー沖海戦のトム・フィリップスの戦死は、実はイギリスでは知られていなく、英軍捕虜の作り話らしい。しかし艦と運命を共にした大将、その後の日本海軍の有能な人材を失う遠因となったとの指摘。
戦史研究の進展により変わる指揮官の評価。実に興味深い内容の一冊。
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将帥列伝とあるが、短く一筆書きという感じ。
アメリカやイギリスは総合力があるので国家のリソースをいかに配分するかというマネージャー的将帥が重視されたが、独日は戦略作戦の劣勢を覆すため戦術レベルの名将が持ち上げられたと言うのが著者の持論だが、本当か?
国力の問題でなく、国の置かれた状況や政治家また軍人間の役割分担ではないのか。
いづれにしてもエピソード集に留まり、期待はずれの本。
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●=引用
●そのなかでも特に重要なのは、おそらく、戦闘や戦役ではなく、戦争に勝つ策を定める戦略の次元において卓越していることであろう。事実、第二次世界大戦中、さらに戦後にあっても、切実に必要とされてきたのは、この戦略次元の人材なのである。外交、同盟政策、国家資源(人的・物的資源)の戦力化、戦争目的・軍事目的の設定、戦域(たとえば「太平洋戦域」など、「戦線」や「正面」といったエリアを超える戦争範囲)レベルでの戦争計画といった、きわめて高度の判断と戦略策定の可能な軍人こそ、求められるべき「名将」なのであった。
●このような戦略的劣位に置かれた枢軸国、とくに日独の指揮官たちは、戦争目的を達成するために、「戦役」、すなわち一定の時間的・空間的凌域で行われる軍事行動を計画立案し、実施する「作戦」の次元でのアクロバットに頼るしかなかった。それは、下位階層である作戦次元の勝利を積み重ねることによって、戦略次元の窮境を打開するという、九割九分は失敗を運命付けられた試みだったのだ。
●すでに述べたごとく、戦争目的を定め、国家のリソースを戦力化するのが戦略である。その目的を達成するために、戦線各方面に作戦、あるいは「戦役」を、相互に連関するように配していく。それが作戦術なのだ。作戦術は、独ソ戦後半に大きな威力を発揮した。個別の作戦こそ実行したものの、それらを意識的に協調させることのなかったドイツ軍に対し、ソ連軍は多数の戦役を連動・協同させて、圧倒的な成功を収めたのである。
●ドイツは総力戦を貫徹することが困難な、「持たざる国」でしかなかった。さような国家は、リソースをフル動員し、国民に犠牲を強いながらも、相対的な戦略的優位を獲得するという正道によることができない。だとすれば、ドイツ軍の指揮官は、作戦次元で連勝を続け、戦略次元の劣勢を挽回する以外になすすべがなかったのである。当然のことながら、かかるアクロバットは、何度となく美技を示したとしても、いつかは失敗し、床に叩きつけられる運命にある。(中略)アメリカ軍は、リスクを冒して戦果を上げることよりも、リソースのマネージメントによって勝利を得ることを、作戦次元での指揮官要件としていたのである。
●最後に、作戦実施に際して生起する先頭に勝つための術策、先述の次元について述べる。もっとも、この次元で第二次世界大戦の指揮官に要求されたことは、近代以前とそう変わってはいない。(中略)文字通り、いくさのわざに秀でていることが求められたのである。
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戦争に直面した指揮官の振る舞いを通じて人間理解を深められる本。大木毅さんの本はおもしろい。
取り上げる人物の意外な一面や、敗戦国で報われなかった人物などが取り上げられている。人物を通して各国の置かれた状況を考えてみつつ、入れ替わったらどうなっただろう?と妄想してみた。デーニッツがアメリカ軍にいたら、パットンがドイツ軍にいたら、など。
戦争により社会はある種の興奮状態になり、現実主義的と考えられていた人が周りに祭り上げられて違う方向に行くなんてことも起こりうる。人間の人生はわからない。指揮官になると国のありようにまで影響してくる。いろんな示唆のある本です。
目次
第一章 ラケットを携えた老提督――南雲忠一大将(日本海軍)
第二章 「高潔な武人」だったのか?――カール・デーニッツ元帥(ドイツ海軍)
第三章 多面体の「猛将」――ジョージ・S・パットン大将(アメリカ合衆国陸軍)
第四章 影を負わされた光――水上源蔵中将(日本陸軍)
第五章 死せる提督の呪縛――トム・フィリップス大将(イギリス海軍)
第六章 挫折した機甲師団長――シャルル・ド=ゴール准将(フランス陸軍)
第七章 「経済参謀総長」の憂鬱――ゲオルク・トーマス歩兵大将(ドイツ陸軍)
第八章 消された英雄――ハンス・ラングスドルフ大佐(ドイツ海軍)
第九章 「幸運」だった将軍――ゲオルギー・K・ジューコフ(ソ連邦元帥)
第十章 医学と人種主義――エルンスト・ローデンヴァルト軍医少将(ドイツ陸軍)
第十一章 霜おく髪――山口多聞中将(日本海軍)
第十二章 非エリートの凄み――ウィリアム・スリム元帥(イギリス陸軍)
終章 現代の指揮官要件――第二次世界大戦将帥論