紙の本
天は我を見放したかに謎あり
2023/06/21 09:05
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:okh - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本陸軍の対露戦を想定した雪中行軍演習にして登山史上最悪と称される遭難事件。新田次郎の小説はベストセラーになり、映画化もされ、なんとテレビドラマも放送された。映画は高倉健に北大路欣也と、やはり俳優の力量は大きいのだなあと、改めて思わされた。
この小説のほうは、歴史的事実と残された謎を題材に、ミステリーに仕上げた巧みさは、思わずうなった。オチの部分は人によって評価は分かれるだろうが、深く考えずに楽しむというスタンスで読めば、問題なし。
手あかのついた歴史を新しくよみがえらせ、後世に伝えるという意味では、フィクションの役割は大きいものだと改めて思う。司馬遼太郎の代表作、「燃えよ剣」で土方を付け狙う剣客も架空の人物だし。
登山者の火山ガスによる死亡事件はいまもあり、山には今も謎が多いが、八甲田山遭難事件も、その責任や、組織と軍政の評価をめぐる問題など、あいもかわらず現代の日本にも引き継がれており、最近のニュースを見ても、デジャブな感覚に襲われることがある。人間の起こす大きな事件・事故のきっかけって、ささいなことからおこるものなのだと、つくづく思わされた。
投稿元:
レビューを見る
世界登山史上有名、かつ最大級の遭難事故、八甲田雪中行軍遭難事件。だが、この大惨事には、白い闇に隠された秘密が!? 長篇ミステリー。〈解説〉長南政義
投稿元:
レビューを見る
八甲田山。
今まで関連の映画も、ドラマも、小説にも触れたことがないのに、店頭で見て、何故か衝動買いしてしまいました。
結果、メチャメチャ面白かったです!
明治の頃、八甲田山での雪中行軍演習中、天候の悪化から隊員約二百名あまりが遭難死した事件。
構成としては、遭難した隊員の視点で描かれる過去パートと、事件を取材する雑誌記者の視点で描かれる現代パートのふたつの視点で物語は進みます。
ミステリ的な部分については、そこまで意外な結末ではなかったですが、遭難場面はリアルで、どうにもならない絶望感に切なくなりました。
投稿元:
レビューを見る
八甲田山の話がこれほど壮絶だったとは。当時の軍部のどうしようなさに怒りがわいてくる。ミステリ仕立てになっているところもめちゃくちゃ面白くて一気読みだった。
投稿元:
レビューを見る
120年前の八甲田山の悲劇を題材にしたミステリー。平社員の立場に不満をつのらせていた編集者、菅原。右肩下りの歴史雑誌の特集号で、八甲田山の悲劇に隠された謎を取り上げたところ企画は成功し、第二弾の取材として当初からの疑問を解明すべく、実際の行軍と同じ日に八甲田山入りした。120年前とシンクロする様に命の危機が迫った時、その謎は明かされる。菅原同様に、自らも八甲田山に囚われたような読書だった。現在と当時の話が交互に展開される構成が良い。限界を遥かに超えた極寒状態が人体に与える影響といったら………
投稿元:
レビューを見る
エピローグの途中までは凄く良かった。
結末にはホントに漫画の様に、頭の先からつま先までゾゾゾっと悪寒が走った。
最後の最後は要らなかったんじゃないかなぁ
投稿元:
レビューを見る
1902年1月23日、青森の駐屯地から陸軍第八師団第五連隊の210名が、豪雪の中、八甲田山への雪中行軍演習に出発した。だが、折からの天候悪化により猛吹雪で先が見通せず、道に迷い、199名の犠牲者を出す世界登山史上最大級の遭難件となった。 歴史雑誌の編集記者である菅原誠一は、特集企画のため、この八甲田雪中行軍遭難事件を調べるうちに、過去の「顛末書」には「遭難死200名」とあり、遭難兵士の人数が一致しないことに気付く。
取り憑かれたように青森で取材する菅原は、豪雪に消えた地元出身のもう一人の兵士・稲田庸三一等卒の存在を発見する。
稲田は歴史の闇に消された兵士なのかを調べようと、菅原は遭難事件発生と同じ1月23日、猛吹雪の中、地元のガイド小山田を伴い、当時の露営地を経由して同じルートを辿る。
物語は、1902年の遭難事件現場での凄絶なシーンと、菅原が取材する現在の様子が交互に描かれる形式で進んでいく。 次第に真相が浮かび上がるミステリアスな展開、そして菅原がまさかの相手に命を狙われるラスト。サスペンスやエンターテイメント性も盛り込まれている。
しかし、なんといっても、この作品が圧巻なのは、史実を忠実にまた迫力満点に再現したドキュメンタリードラマであること。 極限状態にあった当時の実在人物の言動がリアリティー豊かに描かれ、雪中行軍が出発前から「計画」、「装備(防寒対策)」、「組織」の三点で大きな欠陥を抱えていたこと、「服装規定」から来るべき極寒の地ロシアでの戦いに耐えるための“人体実験”の位置付けだったという分析にも突っ込みを入れている。
尋常でない吹雪の中、道に迷い、物資を積んだ橇を失い、進むも地獄、止まるも地獄。挙げ句、露営と称して、永遠と足踏みを繰り返す。また、体力の落ちた者を別途、偵察に行かせ、犠牲にして、命の選別で生き残ろうとしたり、組織としての隊律な威厳が崩壊しつつある修羅場の描写がすごい。
因みにタイトルにある「囚われ」は直線的には、兵士たちが八甲田山に囚われたことを意味するものだが、菅原が妻との離婚折衝や桐野編集長の身勝手さに翻弄されることをダブらせているものである。
投稿元:
レビューを見る
日本人は「空気を読んで忖度する」事に関してどの民族よりも秀でている。その塊のような八甲田山雪中行軍遭難事件を伊藤潤先生が現代と当時を行き来しつつ物語りにしてて面白い。
投稿元:
レビューを見る
色々な作品に親しんでいる作者による作品で興味を覚えたのだが、漠然と思った以上に興味深い内容だったと思う。
作中でも話題にしている出来事から「120年」ということを踏まえて登場した作品というようである。
極個人的なことになるが、自身は積雪寒冷地に住んでいる。冬季の氷点下気温、凍結、降雪、吹雪という様子には多少馴染んでいる。降雪や地吹雪が入り混じった「ホワイトアウト」も知らないではない。
そういうような、冬季の風雪が激しい状態に出くわすと、頭の中で「“八甲田山”…」という語句を思い浮かべる場合が在る。現在となっては少し古い映画―主要な役を演じた皆さんは、惜しまれながら他界した有名な俳優ばかりだと思う…―で、リアルタイムで映画館に足を運んだでもなく、何かで映像を観ているのだが、あの映画のイメージが何時までも頭の中に残っているということかもしれない。「激しい風雪の中で酷い目に遭う」ということを“八甲田山”と呼んでしまうような感じだ。
その“八甲田山”と「激しい風雪の中で酷い目に遭う」ということに代名詞のようにしてしまいたくなるような事件が発生したのが1902年だという。陸軍の演習で八甲田山を越える道を行進することになったが、風雪が激しくなって進路を見失って遭難したという出来事であった。
本作は八甲田山での出来事を題材にしている。1902年の出来事だが、往時の様子を、往時の視点人物の目線で綴った部分も在るが、寧ろ「“1902年”を見詰める現代の目線」で綴っている部分が多く、内容の主軸を成している。
歴史雑誌の編集者である菅原が在る。菅原には社内の人事上の色々な事柄や、私生活での事情も在るのだが、雑誌の売れ行きが伸び悩み、伸び悩むどころか減少という状況さえ在って何とかしなければならない状況下であった。そんな中、1902年の八甲田山での出来事に纏わる特集記事を出すという計画が持ち上がった。そして菅原はこの事案の主担当ということになる。
199人の犠牲者が生じてしまった八甲田山での出来事を巡り、菅原は国会図書館で資料を逍遥して、青森へ飛んだ。自衛隊の駐屯地内の資料館を訪ね、更に八甲田山の地元に所縁が深い、高校教師が本職であるというガイドの案内で現地を巡ることになる。
行軍演習に発った兵士達の様子や、事故後の処理の様子に関し、菅原は少なからぬ疑問を抱く。更に、行軍演習参加者の中に、その存在が曖昧になっている者が1名居るのではないかということに気付く。最初の誌面での特集が一定の好評を得て、再度の特集に向けて、菅原は冬季の八甲田山へ赴き、自身の疑問を確かめようとするのである。
本作はこの菅原が取組む調査の顛末が軸となっているのだが、現場での苦闘の様子の章が挟まり、菅原の日常の中での様々な想いという部分も在り、なかなかに夢中になった。
作中、菅原がガイドと共に現地を巡って取材している場面が在るのだが、これを読んでいて「或いは作者もこういう具合に現地を訪ねたのか?」と感じ、何となく興味深いと思った。が、その中で明らかになるのは、八甲田山の出来事の凄絶な有様である。悪い夢でも見そうな程度に凄まじいと思った。
未だ新しい文庫本なので筋書等には��み込まないが、遠い時代の出来事に向き合いながら、自身の手近なことにも区切りをつけて行こうとするような菅原の様子が興味深かった。或いは、別作品で「この後の菅原」が登場するようなことにも期待してしまった。広く御薦めしたい作品だ。
投稿元:
レビューを見る
世界登山史上最大級の遭難と言われる1902年(明治35年)の八甲田雪中行軍遭難事件。
新田次郎氏著の『八甲田山死の彷徨』を原作として、1977年に映画化された『八甲田山』。
軍規を盾に、兵隊に強要する理不とも云える命令、そのために生じた悲惨な事態が描かれていた。
雪中行軍の特集記事を書くにあたって、歴史雑誌編集者の菅原誠一が資料を調べていると、行軍総数210名中、遭難者数は199人とされているのだが、実は200人だったのではとの疑問点を見つける。
この1名の兵隊は、何らかの事情があって軍が隠蔽したのではと推測し、その真相に迫ろうと八甲田に取り憑かれたように資料収集と現場での取材に入り込んで行く。
果たして菅原は、一名の兵隊の存在を軍は消し去ったのか否か、その真相に辿り着けるのか⋯。
国民に対する軍隊の威圧的、且つ隠蔽体質に、菅原が真相解明に挑むミステリー物語だ。
投稿元:
レビューを見る
日露戦争直前の八甲田山雪中行軍演習における大遭難事故、その原因に対する定説の矛盾点を抉るミステリー小説である。
部隊兵員の軽装と指揮官の服装の差、殉難者200人を当局が199人と発表したこと、ここに軍上層部による極寒状況下での兵員の耐寒人体実験への疑惑と消された一人が現地人に殺され隠された事実があったとする。この行軍演習の真の目的を上官から知らされ伝達の密命を帯びた当人がその消された本人であったとする。軍隊組織の統制の問題と現地住民との関係、真相解明のストーリー構成の錯綜で少し釈然としないものが残る。猛吹雪の中で方向を見失い彷徨う部隊の絶望感はリアルである。
主人公が個人の問題を抱えながら雑誌記者としてこの問題を解明していく過程は読者をハラハラさせながら引き込んでいく。現地主義と関連図書探索の基本動作はどの仕事にも共通するプロ根性を感じる。
濡れ場のくだりは読者への惰性的な阿りか。
投稿元:
レビューを見る
「八甲田雪中行軍遭難事件」で吹雪の中に姿を消したある一等卒のまさかの運命に迫る歴史ミステリー。
悲劇の結末が既にわかっている歴史を再びなぞっていくのは覚悟がいるが、生還を予感させるプロローグの稲田一等卒の身に何が起こったのかを紐解いていく過程は非常に興味深く、過去パートの生死をさ迷う緊迫感は目を逸らせず。
なので、謎を追う雑誌記者の菅原のプライベートパートはちょっと煩わしかったかなw
でも読み終えてみれば、菅原のモンスター妻や考えが読めない桐野のような女に「囚われ」るのは雪山並みの非常事態…かもしれない。
投稿元:
レビューを見る
八甲田山の雪中行軍隊に思いをよせる歴史雑誌の記者の話。グイグイ引きつけるが、ラスト少し残念。編集長との恋愛はいらないな。