紙の本
<よき記憶>を持つ者は幸いなり
2006/05/05 07:21
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
「黄色い本」(講談社)の迫力に気圧されて、同じ作者の別の作品にも触れてみたいと考えて手にした一冊です。
87年から94年に発表された6作品が収録されています。一言では形容しづらい不可思議な手触りを感じさせる作品がほとんどです。
私が最も気に入ったのは次の二編です。
「奥村さんのお茄子」
1968年6月6日のお昼に何を食べたのか思い出してほしいと若い女性に懇願された奥村さん。突然の奇妙な願い事に戸惑いながらも30年前のお昼ご飯を思い出そうとする。そしてそんな質問を投げかけた女性というのが、そもそも奇妙奇天烈な素性の訪問者だった。
想像力の針が振り切れてしまうほど特異な状況設定が大変魅力的で、バカバカしさと切なさがないまぜになった感覚が心に広がる、味わい深い物語です。
「美しき町」
高度成長期の日本のとある町。新婚のサナエさんとノブオさんがアパートへ越してくる。隣近所の住人がすべて同じ工場に勤める労働者一家というそのアパートで、二人は決して豊かではないけれど濃密な時間を過ごしていく。
長い人生において日々起きる出来事はそのどれもが劇的だったりロマンチックだったりするわけではありません。昨日と変わらぬ今日や明日が続くのが当たり前です。
この物語の最後でサナエさんとノブオさんは思わぬ共同作業の末に朝まで一緒に過ごすことになりますが、それとて二人の人生を大きく変えるような出来事とはいえないようなものです。
ですがそれでも、若い二人は30年後にもこの夜のことを必ずや思い出すことでしょう。二人だけのかけがえのない時間として。そしてそうした時間をともに過ごした<記憶>が、きっと二人をこの先も温かく包み続けるはずです。
<よき記憶>こそが、病める時や貧しき時などギリギリにある人間を支えることができる。そう信じる私にとって、<記憶>をめぐるこの二編はとても心打つ作品なのです。
電子書籍
1987〜.1994年発表作品
2023/10/15 20:42
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
発表はかなり古いのですが、令和の今、読んでもそんなに時代を感じませんでした。個人的にはどれもいいです。中でも奥村さんのお茄子 、1968年6月6日の昼食を思い出してと女性に懇願された奥村さん。30年前のお昼ご飯なんてねえ
投稿元:
レビューを見る
いっそ軽いトラウマとも呼べるほど、日常にチラチラと思い出す漫画がてんこ盛りです。爆弾おにぎりとか、ちぎれたボタンとかがそうです。あと包丁の抜けないカボチャ……!
投稿元:
レビューを見る
ありがとう、北村薫。
この本と、この著者と出合えたのは、あなたのおかげです。
超寡作の著者のわりと新しい作品集。個人的に『美しき町』『奥村さんのお茄子』が双璧。前者は昭和30年代の地方都市が舞台。工場とその従業員家族が住む団地のある町での、夫婦の日常を描いた物語。後者はSF、といってもやはり日常が舞台で、ある日電気屋の主人の前に現れた女(宇宙人が地球の女の子のコスプレをしている)に「昭和43年6月6日に何を召し上がりましたか?」という質問をされ、その日の記憶を引き出す話。どちらの主題も「当たり前と思っている日常が、本当は何にもまして素晴らしいものである」ということです。
読むたびにいろいろな発見ができる漫画は、この本が初めてでした。絵も超ウマいし。
投稿元:
レビューを見る
もし、結婚することが決まったら、この本の「美しき町」を読んでください。あなたのおじいさん、おばあさんも昔は若く、こんな風に「夫婦」の形を作っていったんだと覚えておいてほしい。時代こそ違え、夫婦ってこういう風に成長していくものじゃないかな、と思わせてくれるお話です。
投稿元:
レビューを見る
常人にはない、マッタリと、だがあまりに鋭い視点を見せつけらる短編集。解釈できてない話もあって「深い」と言ってしまいたくなる。
投稿元:
レビューを見る
自分が感じたことって、相手にはなかなか伝わらない。だから「うれしかった」とか、「悲しかった」とか、内容の浅い、出来合いの言葉で語ってしまう。高野氏はその感情を、ひとつの作品で伝えようとする、数少ない漫画家です。
投稿元:
レビューを見る
[嬉しくってご飯なんていらないよって時も悲しくてご飯が喉を通らないときもあの日の続きなんだ」棒がいっぽんから始まる人生。思い出せる忘れられたままの記憶
投稿元:
レビューを見る
絵が上手な人だな、と感じます。普通の人は描かないようなアングルや視点から描かれているところがあり、不思議な気分んになります。
投稿元:
レビューを見る
るきさん、は妹に勧めされて読んだことがある。。あとは挿絵でやけに背筋のすっきりした絵を書く人だなあと思ったくらい。今読むと結構疲れる。。。情報量が多いというか、、緻密。これなんだろう、、と思っていたら本の中に佐藤さとるの名前が見付かって納得。そうだ絵本だ。絵本の緻密さだ。
多分、自分にゃまだ早い。5年、、10年後読んだらまたカンジ変るかも。
投稿元:
レビューを見る
超絶技巧のマンガ家、高野文子の珠玉短中編集です。日常の見慣れた景色の中に素晴らしいファンタジーがあるということ。ここまで見事に描いた作品を、私は他に知りません。
投稿元:
レビューを見る
短編集ですが全ての作品について小一時間は語れそうなほど良い。「東京コロボックル」「奥村さんのお茄子」のような、普通の日常を舞台にしたファンタジーやSF大好き!でも一番好きなのは「美しき町」です。本当に美しい。
投稿元:
レビューを見る
07/01/22
「もうおうちへかえりましょう」に紹介されてたから読んでみた。深い。深すぎてわからん。じっくり読んでみる。
投稿元:
レビューを見る
お気に入りの高野文子作品。
白黒だけなのに、昭和の懐かしい空気がリアルに伝わってくる秀作。
読んでいて魂がゆさぶられまくって、時間など忘れて引き込まれました。
読み終わって数日経っても、あの独特なシビレを感じていたほどです。
高野文子先生は、世間も百年に一人の天才だと認めるほどの方だとか。
読む価値は、ビルゲイツの財産と代えたって足しにもならんほどあります!!(笑
投稿元:
レビューを見る
何度も何度も読み直している。改めて面白さにため息。「美しき町」「バスで4時に」「奥村さんのお茄子」が特に好き。