紙の本
未知生とは
2023/07/31 02:04
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くみみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
不慮の事故で亡くなった「未知生」の41年の人生を、彼と関わってきた人たちがリレー形式で回想する連作短篇集。
学生時代の級友、元カノ、同期や上司、家族――色んな人の目を通して見る「未知生」の印象の共通点と相違点。存在感も掴み所もない「未知生」に勝手に振り回され、好きから嫌いに、嫌いから好きに、一喜一憂されていく人たちの姿が目に浮かぶような場面描写が秀逸。
好きでも嫌いでも勝手に他人に「期待」をしてしまう、人間の押し付けがましさを指摘しているようにも感じ、ハッとさせられた。
どれが本当の「未知生」なのか?結局、どれも紛れもない本物であり、偽物(表向きの顔)でもあるんだろうな、とぼんやりと思った。自分で感じたままの素直な思いと向き合う、センスが光る心機一転の物語。
投稿元:
レビューを見る
全体的にいい人なんだけど、つかみどころがない不思議な人、未知生さん。
そんな彼に関わってきた高校の同級生や会社の同僚、上司、元カノ、妻、息子など、様々な人の視点で、未知生さんの人生が語られる。
彼らが語っているのは、彼らの人生なのに、そこに未知生さんの人生も透けて見えるから不思議だ。でも、生きることとはそういうものかもしれない。
他人と関わり合って、影響されたり影響を与えたりしながら、それぞれの人生の色を重ねていくのだ。
そんなことを考えさせられた話だった。
投稿元:
レビューを見る
未知生さんの事が頭から離れない。
空気が読めなくて、どんくさい。
でも現実にいそうだなとも思える。
物語は、41歳にして不慮の事故で亡くなった羽野未知生に生前関わった男女七人の視点で綴られる。
未知生に出逢った人達、それぞれの物語も面白い。
皆の語りで、おぼろげだった未知生さんの輪郭が徐々に形成されていったが、終盤で彼の抱えていたものを知り、それまでに抱いた印象は一変。
元カノに向けた言葉も、通勤電車内で繰り返された光景も、肝試しビルで起きた出来事も、全てに理由があったなんて。
読後は未知生さんの苦悩と献身に胸が一杯。
投稿元:
レビューを見る
他人から見た自分なんて人それぞれなんだなー。
いい人のつもりでもそうじゃないと思われる場合もあるし、悩みとか隠してたら悩みない人、とか。
未知生さんってタイトルが全てを物語っているではないか!
人との付き合いはある意味都合のよい思い込みかも‥
投稿元:
レビューを見る
それぞれの、羽野未知生との思い出。
少しずつ繋がっていて、読んでいて面白かった。
みんな苦手だとか嫌いだとか言いつつ、未知生さんのこと好きじゃん!
投稿元:
レビューを見る
不慮の事故で亡くなった羽野未知生41歳。協調性がなくマイペース、人にものを頼めないけど人から頼まれると受け入れる、周りに対してだけじゃなく自分のことにも無頓着、そんな未知生とうっかり関わってしまった同級生、元カノ、会社の同期と上司、そして家族目線で描かれる七つの物語。
設定からして「横道世之介」をなんとなく思い出してしまう。人を庇っての電車のホームからの転落死というのも同じ。だからか、同じような感動を期待して読んだ。
「横道〜」と違うのはあちらが世之介が常に主人公であるのに対し、こっちは未知生さんと関わった人物の“今”により重点が置かれていること。
掴みどころがなく、そばにいてもやり過ごしてしまうか、むしろイラッとしそうな人物だけど、実はとてもピュアで、人を受け入れるという一点において関わった人に大きな影響を与える人物。
それぞれの目線から、未知生の人物像が描き出されるが、そのどれもが捉えどころがない。
鈍臭くてうっかりビルから落ちたと同級生から思われているけど、真実はそうではなかったこと。その時の彼の胸の内が、たまたま跨線橋で会った無関係な高校生に語られたこと。
人は人を自分が見たようにしか理解できないんだなぁとしみじみ思う。
それでも、最後に路斗が感じた思い、
「ぼくはぼくの知らないたくさんの誰かと知らない未知生さんを分かち合って生きている。未知生さんがどんな人だったかなんて、誰にも分からないのだ。もしかしたら本人も分かっていなかったのかもしれない」
というくだりには深く納得。
13年の歳月をかけて、父親の死を乗り越えた路斗の話で締めくくられた希望ある物語で読後も良き。
投稿元:
レビューを見る
異色の作品。未知生さんがすべての鍵なのに、いつまでたっても顔がわからない。装丁画のように顔が見えない。たくさん話している場面があるのに、さっぱりだ。でも、そこがいい。
投稿元:
レビューを見る
もう亡くなってしまっているのだ、未知生さんは。
それも読み始めたと同時に、最初の行の最初の一文で。
そしてそこから始まるのは、未知生さんという男を知るための物語だ。
色々な人によって語られていく未知生さんを知るたびに、とらえどころのない未知生さんにどんどん惹かれていく。
物語が終って、私の中に私だけの未知生さんが出来上がったとき
猛烈に淋しくなるのだ。
あぁ、未知生さんはもう亡くなってしまったのかと。