投稿元:
レビューを見る
ここ最近で一番の本だった。
民俗学について研究する女学生と大学の先生の話で、何よりこの2人のやり取りがおもしろい。
民俗学って何なのか、まずそれが分からないと思うが、本を読んで思ったのは倫理に近いものだと感じた(正確には違う)。理屈ではない、神に対する信仰心とかそういった類のことである。
正直私は、神とかまったく信じていない。この本に出てくる例えば、樹齢何百年の木とかも新しく道路を作るために伐木するのに何も思わないし、どんどんしろとも思うタイプである。それが経済のためになるし。
ただそれに対してこの本では、そういう自らの幸福を求めている人だけの国は亡びていくとしている。目に映ることだけが全てだと考えるようになれば、すごいシンプルな世の中であるが、そういう世の中になっていくということは、自分より力の弱い者を倒すことは倫理に反するどころか、とても理にかなった生き方になると。
また、「どんな物事でも、金銭に置き換えることでしか判断できないような、品のない人たちばかり幅を利かせている世の中」など心にぐさっとくるセリフが多い。
ぜひみなさん一読してほしい。
投稿元:
レビューを見る
私、この本に出会えてよかった。
民俗学を軸に、日本人の心のあり方を考えさせてくれる1冊。
大学院生藤崎千佳が、何とも個性的で偏屈な准教授古屋神寺郎とともに、日本各地を巡る旅の物語。
まず、古屋先生が濃い笑。
ここまで濃くはないけども、私が師事している教授も濃いなぁと、自分の世界と重なってしまった。
そして、学問に対する、人としての芯の強さ。
古屋先生にあるその強さ、かっこよさが、私の世界の登場人物とも繋がる。
それを受け取る素直さ、柔軟さがあるからこそ、千佳ちゃんは成長していけるんだと思う。
そして度々登場する、民俗学の礎、柳田國男。それこそ度々名前を聞いていながら、まだ読んでいない。これを機に読もうと思う。
心に残ったフレーズをいくつか。
「神も仏もそこらじゅうにいるんだよ。風が流れたときは阿弥陀様が通り過ぎたときだ。小鳥が鳴いた時は、観音様が声をかけてくれたときだ。そんな風に、目に見えないこと、理屈の通らない不思議なことは世の中にたくさんあってな。そういう不思議を感じることができると、人間がいかに小さくて無力な存在かってことがわかってくるんだ。だから昔の日本人ってのは、謙虚で、我慢強くて、美しいと言われていたんだ。」
「大切なのは理屈じゃない。大事なことをしっかり感じ取る心だ。人間なんてちっぽけな存在だってことを素直に感じ取る心なのさ。」
「この国には、この国特有の景色がある。その地に、足を運ばなければわからない、不可思議で理屈の通らぬ、怪しささえ秘めた景色だ。その景色と向き合い、何が起こっているのかをただ見るだけでなく感じ取らなければいけない。」
その道がどこに続くのかもわからぬまま、ただ木は切られ、道は広げられ、東京は巨大化していくことになる。
その流れを止めることはできない。
アスファルトとコンクリートの町の拡大を、押しとどめることはできないし、とどめることに意味はない。
大切なことは、どこに向かって道を切り開いていくべきかをしっかりと見定めることだ。無闇と前に進むことに警鐘を鳴らし、ここに至り来たった道筋を丹念に調べ、どこへ道をつなげていくべきかを考えていくことだ。
多くの人が闇の中を手探りで歩んでいる今、未来を見据え、先々にささやかでも灯火を灯していくことができるのだとすれば、それはずいぶんと愉快な仕事ではないだろうか。
投稿元:
レビューを見る
こちらも皆様の本棚から、評価が高かったので気になっていた一冊。神様のカルテの夏川先生。
大学の文学部で民俗学を学ぶ藤崎千佳は、指導教官の古屋についてフィールドワークへ出かける。
古屋は事故で脚に障碍がある為、千佳が荷物持ちなどをしながら旅をする。
偏屈な先生なのだが、どこか魅力的な存在。
先生との2人旅を通して、たくさんの気付きを得る千佳。
相変わらず夏川先生の作品は、上品で言葉の一つ一つが素敵で、本好きさんにはたまらないだろうなぁ。。。
私みたいな学のない物にはちょっと難しかったのだが、素敵なお話が一冊の中にギュッと詰め込まれていた。
日本の神様っていいな。。。
日本の八百万の神様、私の腰痛を治して下さいな。。。
↑こういう奴には奇跡は起きないな。
四国八十八ヶ所歩いて回るくらいの気合いが無いと。。。
あ゛ーーーーーー
腰痛い。゚(゚´ω`゚)゚。
投稿元:
レビューを見る
多くの方がレビューを書かれているのを見て、昔読んで面白かった「神様のカルテ」の作者さんでもあり、買ってみることにした。
高名だが変わり者の民俗学者とその教え子がフィールドワークで日本各地を旅する物語。
二人は旅先で様々な風景に出会い、その美しさが描かれるとともに、あわせて、民俗学の意義、学問に対する姿勢、古来からある日本人の神や自然との付き合い方などが語られていく。
偏屈な先生と勝気な女子学生という組合せは、まあ、いいコンビだとは思うが、そのやり取りに新味はなく、そこにはあまり惹かれず。先生が自ら「障碍者」を連呼するのもいかがと思う。
民俗学について書かれた内容やそのあり様については知らないことも多くあり興味深かった。
『人生の岐路に立ったとき、その判断を助ける材料は提供してくれる学問だ』というのにはやや煙に巻かれた感じだが、『未来のために過去を調べる。それが民俗学である』には、主人公と同様になかなか惹かれるところがあり。
エリートだった柳田國男がその後半生を民俗学に費やした理由については、まったく無知だったので、ちょっとした驚きがあった。
古来からの日本における神を感じるという信仰のあり方や神の存在についての考察(『この国の人々にとって、神は心を照らす灯台だった』)、自然との付き合い方についての思いは理解できるし、そうした宗教観や倫理観が薄れてきた結果、権力や金の力が跋扈する今の世相に対する批判にも頷けるところは多かった(いささかお勉強臭かったが…)。
お話の中では第二話の鞍馬での出来事や最終話の桜が満開の風景などがとても印象深い。どちらのエピソードも色や絵柄が目に浮かぶよう。
ただ、それを何度も『理屈の通ることだけが真実ではない』などと言わなくても、普通にファンタジーとして描けば十分に伝わったようには思った。
最後の解説がこれまた難しくて、残念ながら十分に読み下せたとは言い難い。
これについて行けるようであれば、この物語の言わんとするところをもっときっちりと理解できたのであろうかと思わされた。
投稿元:
レビューを見る
民俗学の准教授古屋神寺郎と大学院生藤崎千佳の物語。民俗学とは何ぞや、と問いかけながら、日本人としての矜持を問いかける。
二人の五つの旅が五つの短編となる。
偏屈ものの古屋と、彼を尊敬しながら偏屈さに耐える千佳の会話が絶妙で面白い。
「観音様とは特別な仏ではない。心の中にある自然を慈しんだり、他人を尊敬する心の在り方を例えている言葉である」
仏も神も日本人としてのあり様であるという古屋の教えは、とても気持ちよく心に染み込んでくる。
自然を敬い、自然を畏れ、他者を大切にする。それが古来の日本人であり、その事を改めて学ぶのが民俗学である。
ネットで調べたり映像で見るのではなく、自分の足を運んで見たり感じたりすること。心がけなくてはいけない大切な事だと思う。