紙の本
吉屋信子さん素敵です
2023/11/30 10:23
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本作を読むにつれ、田辺聖子さんは吉屋信子さんの正当な後継者ではないかと感じました。同じ作者の「欲しがりません勝つまでは」も是非読んでほしいですね。
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大正、昭和と絶大な人気をほこった小説家・吉屋信子。少女時代から敬愛してやまない著者がその真の姿を描き尽くす本格評伝。上巻は『花物語』執筆と青春時代。
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田辺聖子さんのフィルターを通して、吉屋信子さんの実像を思う。
スクールカーストという言葉がない頃でしたが、私にとって女子高は、そんなとこ行ったらなじめなくて、いじめられる・・・ってイメージでした。吉屋信子さん描く女子高の世界は縁遠いものでした。
だけど、吉屋さんの少女時代、男尊女卑で武ばったものばかりが幅をきかす風潮を思うと、それとは正反対の価値観を育むことができる、期間限定、地域限定のシェルターだったのかもと感じました。そこで出会う美しい上級生に憧れ、同級生とともに美しい物を美しいと感じ、相手と少し違うことさえ愛しく感じる、そんな少女の日々があったのでしょうか。
信子の同級生として描かれる少女の中には、美人だけどわがままで驕慢な人も出てきて、私なんぞはこんな人に近寄りたくないと思ってしまうのですが、信子(=田辺聖子さん)は仲間にそんな人がいることまでもが愛しく、優しいまなざしで見てるようでした。
同性への恋愛感情についても、この時代の風潮を思えば、お互いの真の姿を知り愛し合いたいという魂の叫びがあったからなのかもと思いました。この時代、男性が女性の真の姿・思い・考えを知り、尊重しようとすることなど、基本なかったでしょうから。もちろん、同性への恋愛感情を短絡的に一般化してはならないんでしょうけど、なんかわかる気がしました。
だけど、屋根裏の二處女のモデルになった恋愛からは、苦しみ、痛みを感じました。相手に煌めく才能を感じれば感じるほど、何者でもない平凡な自分を感じ、相手を独占することはできず、将来も見えない日々は悲痛だったことでしょう。しかも、その悲痛な思いは、どうしても相手に伝わってしまう。これを美しい小説に昇華したのはすごいことなのでしょうけど。
それから、信子の子ども時代を描くのに、足尾銅山鉱毒事件に触れられていました。権力者と自分の富を築くために何でもするという人物が共同すると、平凡だけど穏やかに暮らしている人たちにどれだけ惨いことをするかを突きつけられました。そして、これに類することは形を変えて繰り返されているのでしょうか。吉屋さんの人生との関係は薄いのかも知れませんが、この事件にページを割いた田辺さんの思いもしっかり受け止めなくてはと思いました。
ともあれ、中編、後編も楽しみです。