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小説というよりはエッセイのような、著者の思いがふんだんに詰め込めれた作品でした。
登場人物は皆よく考える人たちで、自分の思いを言葉にする能力が高い。私は自分の頭の中の思いを、分かりやすく言葉に変換することが苦手だし、考えるより先に動き出してしまう性格なので、羨ましいと思う反面、理屈っぽくて嫌だなとも思う。
人生のある時点で立ち止まり、しばし休み、また歩き出す過程で、道標となってくれるような本を読みたいし、そんな本を扱ってくれる、こじんまりとした本屋さんに出会えたらいいなーと思う。
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架空の地・ヒュナム洞に書店を開いたヨンジュ。勢い込んで開店したわりにやる気は皆無で、大丈夫なんだろうかと心配になる。すぐに杞憂だったと安堵したが、なにやら鬱屈したものを抱えているようだ。そんな彼女を中心に、書店に集まる人々の姿を描いたちょっと珍しいタイプの小説だ。あまり作り物感がないのだ。ファン・ボルムさんはエッセイストで、本書が初の小説だという記述を読んで納得した。
韓国の社会情勢を背景に、登場人物たちはそれぞれ問題を抱えている。だが、仕事に誇りをもち、飽くなき探究を続ける。
穏やかな気持ちで読了した。
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心に残った言葉
本を読むと、他者に共感するようになるじゃないですか。成功に向かって無限に走りつづけるよう仕向けるこの世の中で、走るのをやめて、周りの人に目を向けるようになるわけです。だから、本を読む人が増えれば世の中が少しでも良くなるんじゃないかと、私は思っています。
幸せって、そう遠くにあるわけではないんですね
幸せはそう遠くにあるわけじゃないって思ったら、ちょっと生きやすくなるような気がしたんです
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新米女性書店主・ヨンジュは、書店を開いた当初、力なく座ってぼんやりし、時には涙までこぼして客を当惑させていた。
バリスタ募集をし、ミンジュンが来てから徐々に書店の雰囲気も変化していく。
ヨンジュの性格も掴みきれないままだったが、話が進むにつれて彼女の過去が明らかになり、かつては燃え尽き症候群だったこと。
そして、ミンジュンは就活が上手くいかずに将来の不安もあったこと。
書店に来る人たちのそれぞれの悩み…仕事や家族との関係などさまざまだが、互いに付かず離れずの程よい距離感を保ちながら関心は持ちつつも押し付けがましくないところが心地よく感じた。
何も話さなくても察してくれて、わざとらしい心配とか慰めのことはをかけてくれる人はいなくて、ありのままの自分を受け入れてくれる感じがよくて、今の自分を否定しないでいられるようになったんだと言ったミンジュンの言葉が心に残った。
書店に集う人々の交流のなかで、不安定な非正規雇用、劣悪な労働環境、就職難など社会問題が見え隠れする。読んでいるうちに自然と、多様な働き方や生き方、働くことの意味についても考えさせられる。
人との関わりを通して気づきを得たり、慰められたりしつつ、最終的には自分の足で再び立ち上がる勇気を手にする。
10代の男子高校生から自営業の50代女性まで、さまざまな個性を持った男女が登場するのも書店ならではだろうか。
書店ならではの醍醐味にいくつかの本も出てくるので、それも楽しめる。
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あと少しだけ、もうひと頑張りと頑張り続けるのはどこの国でも同じなんだね。そう刷り込まれてるものね私たち。
懸命に生き、悩み、何かしらの痛みや生きづらさを抱えた人たちがお互いに近づき過ぎず相手の意志を尊重し、距離を縮めていく様がとても好ましかった。
ゆったりした時の流れの中で人との関わりや1杯のコーヒーに少しずつ自分を取り戻していく様に
自分も励まされた気がする。
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ヨンジュは会社を辞めてから書店を開いた。その名前は町の名前から来ている。ヒュナム洞書店(휴남동 서점)だ。開店した最初はお客さんも無く、店主が椅子に座っているだけなので、近所のミンチョルオンマ(엄마)は心配していた。店には大きな本棚があって、並べられた本にはメモが挟んであった。ヨンジュがその本の感想や、本について調べたことなどが書かれてた。営業活動としてその内容をインスタにアップしている。朝のあいさつ、本の紹介、日常の愚痴も少し、そして退勤のあいさつも。そしてコーヒーを入れるバリスタを募集した。ヨンジュもバリスタの資格はもちろん持っていたが、店長自らがバリスタをしていては、それでは書店として機能しないから。その募集の貼り紙を見たミンジュンはすぐ翌日に書店を訪ねた。ミンジュンは高いスペックを取って大学を出たけれど、就職でうまくいかなかった。何度面接をしても最後に断られてしまう。高校から一生懸命頑張って勉強してきたが、これから先が見通せない。それでバリスタ募集の貼り紙を見て心が引かれたようだった。この書店に集まる人々は心温かい。それは心が辛いことを経験して来たからだろうか。書店に来て編み物をする女性のジョンソ。コーヒー豆を焙煎して持ってきてくれる焙煎業者のジミ。読書好きで他のお客からの相談にのるサンス。そして会社員で兼業作家のスンウなどがヨンジュの周りに集まってくる。最初は営業活動もほとんどしていなかったヨンジュだったが、書店を外からの目で見るようになったら、もともとの事業家の才能を使ってだんだんと書店独自のイベントを企画するようになる。そして書店に来る人も増え、この先も書店をやっていけるのではないかと思うヨンジュだった。
韓国の就職状況の厳しさ、高校、大学での競争。会社での男女差別なども伺える。また、面白く感じたのは、韓国語の二人称では気安く年上の相手を呼ぶことができないこと。日本語のように苗字で○○さん(씨)と呼べず、親しみを込めるため親族呼称を使って언니、오빠、누나、형、이모などと呼び方を考えることである。
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韓国の小さな街の小さな書店をめぐる人と人の物語。期待よりずっと良き。書店で好きな本に出会う幸せ。丁寧にコーヒーを淹れること。家で女友達と寝そべってだらだらする飲み会。傷心の元キャリアウーマンが立ち上げた書店になんとはなしに集ってきた人々が、ゆるやかにつながったり、立ち上がる勇気を集めたり。
「本屋のない町は町ではない」冒頭に掲げられたニール•ゲイマンの言葉に胸を突かれる。
こんな書店があったらいいのに。お、自分が営む未来もあるかなあ。
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本当に本当に大好きな本に出会えました。
読む終わりたくなくて仕方がなく、大切に読みました。
本屋さんとコーヒー。
大好きなものであふれてる!
こんな本屋さんが近くにあったらどんなにいいだろう。
お仕事の悩み、人生の悩み、韓国も日本も変わらない悩み、登場人物に共感しまくりでした。
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「完璧な人生なんてないけれど、これでいいと思える今日はある」
本帯のその言葉に惹かれて読みました。これでいいと思える今日の先に、完璧ではないけれど、これでいいと思える未来を積み上げてゆける、そんな希望がもてる本でした。
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何っ、本と書店ですと? それにコーヒー? これは見過ごせませんなぁ。それこそマストで読めってことですよね。はい、という訳で、本書は本好き更には生き方を模索している方に好書です。
ソウルの平凡な住宅街に開業した『ヒュナム洞書店』を舞台に、店主ヨンジュと常連客たちとの交流を描く物語です。(はは〜ん、ありがちな話?)
主人公の新米店主・ヨンジュは、30代後半の心に傷を負う女性。(ふふ〜ん、店主の成長物話?)
40のショートエピソードがつながって全体を構成していくスタイルになっており、とても読みやすいです。
(ほほ〜、隙間時間にもってこい?)
店主のみならず、周囲の人々の過去も徐々に明かされ、韓国の社会事情の厳しさも伝わります。んで、その対象も意外に広く深く、軽いようで結構刺さります。
(ひひ〜ん、馬か! 異国も同じ?)
常連客も個性豊かです。店主も周りも悩みや傷を抱え、そんな人々が書店に集い、緩やかに交流して知らず知らず再び前を向いて歩き出す力を得ているんです。
(へへ〜、やっぱり感動もの? いいね!)
そんな人と人のつながりをもたらす場が書店というのが味わい深く、実際ちょっとないよなーと、うらやましくも元気をもらえる読書体験でした。
豊かな人生の評価基準は、他人との比較や他人が決めるのではなく、自分の中にあるのですね。
以上、心の声〔は行〕間投詞による紹介でした。
余談ですが、TVドラマ『深夜食堂』が好きで、『深夜食堂fromソウル』も視聴しました。路地裏に佇む小さな食堂に、その街で生きる様々な人が集い、心を満たしていく設定は同じで、韓国版も文化の違いが見て取れ、興味深かったです。
人を引き寄せる店っていいですよねー。なんか、本書と通じる部分がある気がしました‥。
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良い人生とはなんだろう、自分は幸せに生きられているんだろうか?
どこか哲学めいた、けれど誰しもがぶつかるそんな問いや惑いを秘めつつ、とりあえず毎日つつがなく生きている人々の人間模様を、「ヒュナム洞書店」という町の本屋さんを舞台にして描いた作品です。
韓国の小説ですが、登場人物が置かれている環境は日本にもなじみ深く感じられるものばかりで、彼ら彼女らの感情に寄り添い合うように読めました。さながら、彼らが読書クラブで椅子を囲んでいる、その輪の中に自分もいるかのような、さりげないリアリティを感じさせる作品です。
彼らはそれぞれ思い悩んでいたり、過去や現在の苦しみを抱えたままでいたりする。それを全部他人にひけらかして助けを得るのではなく、あくまで日々の会話や、本からの示唆や、ちょっとした出来事で、自分自身で少しだけ足を進めたり、ささやかな決意をしたりする。そんな(作者の言葉を借りれば)「ゆるやかな連帯」の持ち方が、お仕着せがましさもわざとらしさもなくて、良い人間関係の描きかただなと感じました。
何も決めなくていい、悩んだままでいい。今は過去に泣いているだけでいい。お互いを好きなままでいましょう。おだやかな決意や思いやりが、そうっと心に響くようで、ひたすらにやさしいお話だと思いました。
どんな国の、どんな世代の方にも、響く小説ではないかと思います。読めて良かった、とても好きなお話でした。
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閑静な住宅街に書店を構えた何やら訳ありな主人公、この書店に集まる登場人物たち。
年齢も性別もばらばらだけれど、常に、将来(就職)のために今を我慢して過ごしてきたり、常に準備して生きてきたり、その果てに、これでいいのか?と思うようになった人たちと、現代の町の本屋さん。
登場人物がみんないい人たちで、それぞれがお互いに少しずつ傷を癒していく過程が描かれる。
全てに愛を感じるわ。
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後味の良い本でした。
登場人物の誰かに自分を重ね合わせてみたり
自分を肯定出来る誰かの言葉に出会えたり
ゆっくり流れる時間のなかで
しばし休憩場所に身を寄せるのは無駄なことではないと教えてもらえたり
……
そこに気の合う仲間が見つけられたらなお素敵なことですね。
でも何か続けていたことをやめる決断をするのはやっぱり勇気がいりますね。
自分の心を柔軟に!
40もある短い章に分かれていているので
ゆっくり言葉を味わいながら
一つ一つの章読むことをおすすめします。
この本がこんなにしっくり心に落ちていくのは
まさに訳者の牧野美加さんの力でもあると思います。
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とても好きな物語だった。
分厚い…と最初思ったが、登場人物や語り口調も良く、穏やかな気持ちで読み進めることができた。ほっとする本だった
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―「いい人が周りにたくさんいる人生が、成功した人生なんだって。……」
(p.320)
韓国の架空の町"ヒュナム洞"にある本屋さん・ヒュナム洞書店を舞台に、書店主のヨンジュやカフェコーナーのバリスタ・ミンジュンやそこに集う人々を描いた小説。
登場する人々はさまざまな苦しみ、辛さ、悩みを抱えながらも、お互いに限りない優しさや思いやりをもっている。読んでいてこちらまで穏やかな気持ちになれる。
また、作家の方は元々エッセイストでこれが初の長編小説だそうである。
そのためか、 "小説"というよりかは、登場する人々が、日常の出来事について・本について・人の生き方について・人について・丁寧に丁寧に考えたことを綴ったエッセイや哲学書にもみえる。
だから、読んでいるこちらも丁寧に丁寧にゆったり読みたくなる本だった。