紙の本
紫式部の一代記後編
2024/01/26 15:01
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投稿者:nekodanshaku - この投稿者のレビュー一覧を見る
源氏物語作者・紫式部の一代記後編。主人公小市が越前国司として赴任する父に同行するところから始まる。中央政府は、国司などの地方官が集めた貢税をただ吸い上げる機関に過ぎず、政治そのもは国衙の地方官たちの手でのみなされているという、その時に持ったのかもしれない。源氏物語を楽しみの書として書き始め、その後、道長の手により中宮彰子を飾る女房になるわけだが、権力闘争の宮廷を見続けるうちに、書く物語への想いは変化していった。自分のために、自分の気持ちを物語の中に込めていったのだ。紫式部のひとつの見方であろう。
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三年にも満たぬ結婚生活、華やかな宮仕えでも癒されぬ心の渇き。凄絶な権力抗争を見すえつつ『源氏物語』を完成させた30代から晩年を描く。〈解説〉山本淳子
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うーん長かった‥
現在放映されている「光る君へ」での紫式部の人物造形が驚くほど似ている。この作品も参考にしているのではないだろうか。少し内気で社交下手、自己肯定感がやや低いところがあるが、芯が強く賢い女性。今の人にも理解されやすい様に、作品の中では考え方や思考回路が現代的な面があるが、人の本質は変わらないなので、おそらく紫式部はこの様な女性だったのでしょう。作者の杉本苑子が投影されているのかもしれません。
この作品では紫式部のに一生を描くとともに、平安後期の中流以上の層の人々の生活もよく描かれていますが、医療が発達してない時代の人の生き死にの儚さは現代人には想像できないものがある。この作品の中でも多くの人たちの死が描かれているが、ラストの切なさ悲しさは格別のものがある。
今まで殆ど興味のなかった平安時代ではあるが、関連本をこれからも読んでいきたい。
(星は上下巻を通したもの)
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一月からの大河ドラマに
備えて年内に読み切りたいと始めて2週間ほどでしたね。
書店には紫式部に関連した本が山積みしてありますが、
この方は、新しくリリースされた文庫本ではなく、
古本として手に入れていた単行本でした。
源氏物語は言うまでもなく、枕草子や伊勢物語は読んでましたので、楽しく読めました。
蜻蛉日記や和泉式部日記も読んでみたいと思います。
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上巻を読み始めた先月からずっと、日常生活を送りながらも頭と心の一部は平安時代に行っちゃってたので、読み終えてからしばらくの間放心状態だった。すぐ現実に戻れなくて、戻りたくない気持ちもあって。ラストがあまりにも寂しくて涙が出た。
本作は紫式部の物語ではあるが、紫式部一家の、家族の物語でもある。そして天皇家や中ノ関白家はもちろん、複雑な藤原家一族どうしの関係の中で、それぞれが恋をしたり出仕したり、自分や家族の出世に喜び喜ばれ、妬み妬まれ、持ち上げられ蹴落とされ、多くの人が死に、生まれ、さまざまな人生が交錯してゆく。
〈本質的には現代人と変らぬ生き身の人間として、登場人物を描くことにつとめた〉と著者も「あとがき」に書いているように、読んでいる間ずっと私の目の前で、小市(紫式部)たちが息をし、しゃべり、和歌を詠み、必死に生きていた。みんな、確かにそこにいて、家族のようにいっしょに過ごした。
「全集版あとがき」には、どことどこが史実なのかが示されており、この物語の信憑性がグッと増して感慨深い。〈文芸作品というものは和歌一首にしろ、詠み手の内面と断ちがたく結びついているし、まして長尺の物語を紡ぎ出すとなれば、作者は持っている力のすべてを投入せざるをえず、その作品は作者本人の全人間的なものの投影とな〉るものであるから、これからは小市の人生を重ねながら『源氏物語』を読むことになるだろう。そういう味わい方ができることがうれしい。
こんなに人間的な小市が立体的に立ち上がり、またこの時代を生きた他の人たちも、一人一人を生き生きとイメージできたおかげで、多くを知ることができたし、かなり理解が深まった。本当に読んで良かった。
『散華』というタイトルが、心に深く深く沁み渡った。