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月村了衛『白日』角川文庫。
月村了衛としては、かなり異色の企業エンタメ小説。半沢直樹のような爽快感は無いが、心の中に優しい風が吹くようなリアリティ溢れる小説だった。
派閥争い、噂、隠蔽と日本企業では大小少なからず様々なことが起きる。そんな欺瞞に満ちた日本企業の中で正義、正論を貫こうとする難しさ。きっと正義、正論を貫くことを止めて、様々な欺瞞に折り合いを付けられる人間が出世するのだろう。
大手老舗出版社の千日出版で教育事業推進部の課長を務める秋吉孝輔は引きこもりや不登校対策を標榜する新時代の通信制高校を開校するプロジェクトを進めていた。大手学習塾と手を組み、IT企業と提携したこのプロジェクトが完遂すれば、秋吉らは千日出版を離れ、通信制高校運営会社に移籍する予定だった。
そんな中、プロジェクトのトップである梶原局長の中3になる息子の幹夫が、屋上から転落死したことでプロジェクトは一時中止となり、幹夫の転落死は事故ではなく自殺という噂が社内で広まる。しかも、幹夫は引きこもりだったという噂も流れる。
引きこもりや不登校対策のための通信制高校開校という社運を賭けた大きなプロジェクトのトップの息子が引きこもりの上に自殺したと世間に知られれば、そのマイナスイメージによる打撃は計り知れない。秋吉は部下の前島と独自に調査を行うが、会社の上層部は秋吉に隠蔽を働きかける。
本体価格780円
★★★★
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会社という組織に属したことがないので、仕事が出来る出来ないだけでなく、派閥が出世ややりたい仕事に携われるかという事に影響するのだという事が分かった。読めなかったり、初めて聞く言葉も多く、その点は難しかったが、ミステリー調のストーリーは読みやすかった。内通者は誰?とみんなが怪しく見えてこんな中で仕事していたら気が滅入りそうだなと思った。
飴屋はただ嫌な奴ではなかった。
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月村さんの社会派小説に関心があって本作を手に取りました。私も会社員という立場ではありますが、中間管理職の苦悩や派閥争いとは縁遠い人であるので、なかなか感情移入しづらかったかなぁと。ただ、エンタメとしては面白いし、今まで自分が読んできた本とは毛色が違うので少し新鮮味もありました。
物語の主人公は出版社の教育部門で働く課長の秋吉。その出版社では、不登校やいじめの被害児童がノビノビ過ごせるオンライン学校の設立プロジェクトを推進しており、秋吉はその一端を担っていた。そんな時、局長の息子が転落死したという知らせを受け、プロジェクトの中心人物であった局長が休暇すると同時に、プロジェクトの一時休止が決まる。そして、それを不審に思った秋吉は死因や背景を探り始めるという内容。
読んだ感想としては、ミステリーベースなので、比較的読みやすかったように感じました。特に、テッパンの展開ではあると思うのですが、派閥争いが激化する中での内通者の存在は、物語にミステリーのエッセンスを加えているように感じました。個人的には、物語の結末がとても現実味があって、ここは社会派っぽいなぁと思いました。
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規模は違うけど、ちょうど職場でゴタゴタに巻き込まれてた所だったから、色んな人の気持ちがわかって凄く疲れた。
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月村了衛といえば『槐』のアドレナリン全開のイメージが強烈だったので、アクションシーン皆無の本作には乗れそうで乗れないまま、それでもなりゆきが気になって終盤まで引きずり込まれました。
出版社の教育部門局長の息子の死亡は事故か自殺か。それが出版社の新規一大プロジェクトの行方に関わるとはどういうことなのか。
中学生の自殺がほぼ確定となり、その理由が「大人の事情」によって秘匿される。人として恥ずかしくない行動、自分の子どもに誇れる行動をしようと覚悟を決めた主人公。だからこそのこの結果に現実の社会でもなればいいのに。
最終章前までは☆3つだなと思っていましたが、最終章を読めば☆4つ。ゲシュタポ飴屋、グッジョブ。
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※
フリースクールを更に進化させた
理想の学校作りに心血を注ぐ出版社社員が、
社会抗争に巻き込まれる中で自分自身の偏見と
本懐に向き合う物語。
いじめにあった子どもたちが、安心して過ごす
居場所となる学校という名の場所作り。
一人ひとりの尊厳を守り、自主性を育てる
希望に満ちた学園。
期待に溢れる構想に大人も子どもも心を
掴まれるが、そこに会社の利益や体裁が影を
落として足枷を作る。
綺麗事だけでは叶えることのできない
社会の現実に打ちのめされながらも、
子どものため、己の信念のため必死で抗う主人公。
立場を危ぶみ恐る姿、心の芯が揺れる様は
人間そのもので、それでも弱さは受け入れて
乗り越える強さがリアルでした。
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月村さんにしては事件が地味だった。
その分リアルな話とも思った。本音と建前と、実際の思いときれいごとの理想と、身近な人に問われた時に何と答えたらいいのか悩むところ。
実際にそういう問題に直面して悩んだことがあるのかな?と邪推してしまった。
幹夫くんがとても気の毒だったと思う。
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俺は会社員なのか、それとも「人間」なのか!?-。
『土漠の花』、『槐』に続く月村了衛san。3作品となり、カテゴリー追加となりました。
優等生だった出版社幹部の息子の突然の死。調査を進める「千日出版」教育事業推進部第一課の課長・秋吉と部下・沢本、前島。それを警告する人事課の飴屋たち。
前作の2つのイメージ(戦闘モノ様な)で手に取ったのですが、完全な企業の社内派閥抗争でした。。息子の死因も、最後の役員会議での飴屋の発言も、私には刺さりませんでした。。ごめんなさい。
ただ、「天王ゼミナール」の磯川に対する、課長補佐・前島の毅然とした対応は、素敵でした。
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派閥争いの中で苦悩するサラリーマンが主人公だ。
教育事業に取りんでいる出版社で、新規プロジェクトの立ち上げの最中に起こる事件…社長派と専務派の主権争いの中で、人事部がゲシュタポのように監視の目を光らせ探りを入れてくる。部下からもどうするんですか!と突き上げが続き…あらゆる苦難が中間管理職の身に襲いかかる。どうしても僕の好みはこんな感じの小説が多いなあ。
無責任を貫いても平気でいられたらいいのだろうが、真面目な小心者はそうはいかない。トラブルを解決するために、正面から立ち向かい、ボディーブローをまともに受け、荒波の中で呼吸困難になり、精神が蝕まれていく…ところどころサラリーマン第一線で仕事をしていた頃の自分を思い出した。
いま、第一線をリタイアした立場で思うのは、仕事をする上でどうしても譲れないボーダーラインは守るとしても、体を壊しては身も蓋も無い。自分がいなくては回らないと思うのは過信であり、企業には自分の代わりなんて、いくらでもいるものだ。
ラストの展開はいまいち物足りなく、あたかも2時間ドラマで完結する絵面が頭に浮かんでしまった。が、どこの企業にもありそうな派閥人事のシーンには胃にじわじわくるようなザラザラした感覚が何とも言えなかった。