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こういうような本は、専門書的な空気感も在るのだが、それでも専門的な知見を活かしながら、広く一般向けに難しい問題を少しでも理解し、考える材料をを提供してくれる。なかなかの労作でもあると思った。大変に興味深く、素早く読了した。
ウクライナでの戦争は、“侵攻”という局面に入って激化してしまってからだけでも2年も経ち、戦禍によって非常に多くのモノが損なわれている状況が非常に哀しいと思う。そういう様子が続くからこそ、少しでも多くのことを知り、学びながら考えたいというようにも思っている。故に関連の書籍を眼に留めれば手にして読んでみることも在る。
様々な事情について、断片的に、不規則に色々と伝わり、何が如何なっているのか、全容またはそれに近いあらましも見え悪いのがウクライナの情況ではあると思う。それでもそういうモノを或る程度整理しながら考えることは出来る。
本書は、そういような考察に関して、「軍事行動の歴史」というような背景知識、古今の軍事行動の経過から考察されて受継がれる知見も交えながら「ウクライナで起こっている情況?」を考えようという内容である。
多少漠然とした、個人的な感じ方ではある。ハッキリ言えば、ウクライナでの情況について、「戦争」という話しではありながら、戦場の出来事を総合的に論じることを試行したような論には余り出会えなかったというような気がしている。何か「願望?」に近いかもしれないような話し、少し「イデオロギー?」という雰囲気も薄らと漂うような話題が目立ったかもしれない。そうした中、本書は「軍事史」の知見を背景に織り込みながら、総合的に情況を論じようとしているように思う。
国力が圧倒的に大きいとされるロシアがウクライナに侵攻している。そういう局面の当初は、然程の時日を要さずに制圧されるかとも想像されたが、初期の行動意図が挫かれて戦いが長引き始めた。その辺りが「判らない?」というように感じられるが、それが本書を読むと「判る?」というような感じになる。
侵攻当初の様子に関しては「かなり楽観的な情報」に基いて行動の計画が立てられていて、悉くそれが巧く行かなかったというようなことが伝わっていて、本書にもそういう言及は在る。が、それに限らない。本書で示される「モデリング」というモノが、少し驚くべきことを教えてくれる。
「モデリング」というのは、戦いに投じられる戦力を便宜的に数値化して、両陣営がぶつかる様を考察するというモノだ。単純に人員や装備(車輌や火砲等)等の数を挙げるだけに留まらず、それらが力を発揮し易いか否かの情況分析によって、数字が可変するとして考えるのである。
ロシアとウクライナの両陣営に関して、侵攻当初からの様々な戦いについてその「モデリング」を試みれば、例えば「士気が低いロシア」(力が減少する要素)に対して「士気が高いウクライナ」(力が増加する要素)というような事情も相俟って、その力に「両国の“国力”の差」程の差異は無いかもしれないというのである。「攻める側」と「護る側」との「モデリング」のように数値化した力の差が「3対1」というような程度になると、「攻める側」が「護る側」を圧倒する可能性が高いのだそうだ。「2対1」��「1.5対1」というような次元では、「攻める側」が「護る側」を突き破り切れない場合が酷く増えるそうだ。ロシアとウクライナとの両陣営の関係は、多くの場面で「2対1」以下の差になっていると見受けられるというのだ。
こうした「モデリング」というような手法で考えてみることの他に、伝えられる事象から「“戦い方”に起こった変化?」というようなことも考察している。
ドローンの支援によって、砲撃の精度が高まって威力が絶大になったことから、陣地線というような戦い方が起こった経過が出ている。また、2000年代にソ連時代よりも小さな単位の部隊を機動的に展開する戦い方を志向したロシアで、その方式を巧く実行出来ずに損失を重ねて取返しが利き難くなってしまった経過が出ている。正しく、戦いの「正体」という話しが本書では説かれているのだ。
こういうようなことに加えて、権威主義的なロシアの政治体制のもたらしているモノ等、様々な話題が在る本書だ。そして、よく観れば「何を目指して来た?」がブレているようにも見えるロシアに対し、「奪われた領土の奪還を図りながら侵攻を跳ね除け、追い出した勢力が再侵攻に及び悪いようにする」という辺りがブレないウクライナという図式にも本書では注目している。
本書の末尾近くに言及が在る。2年程度で収束しない戦争の多くは、10年というような次元で続いてしまう場合も多いのだそうだ。気持が曇る話しである。ウクライナでの戦争が、直ぐに終わりそうな要素は確かに無い。が、流血を重ねるばかりでは社会が破壊されて不幸になるばかりであるというのも真実であるようにも思う。少しでも早い収束を願うばかりだ。
既に世界の国々が巻き込まれてしまっている戦争でもあるかもしれない。関心を寄せ続け、色々な知識を得るようにはし続けるべきであるように思う。そうした関心に本書は応えてくれる。