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非行少年と聞くと、オラオラのイキった子というイメージがあったけれど、上手くガス抜きができずに追い詰められてしまう子もいるんだなと思った。
家族について考えさせられるし、かといって重すぎずなんだか心あったまる場面も多くてよかった。
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宮沢賢治は苦手だ。温暖な気候の土地で育ったせいか岩手の厳しさがわからない。銀河鉄道の世界もわからない。
その岩手の風土が感じられる中、少年の成長と自身の親子関係を考え直す作品。強くあるためには、なにがあっても味方でいる人が必要だ。自分もこの人は!という人の味方でいたい、何があったとしても。
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南部鉄器の職人である父は、仕事一筋で家族思いとは到底言えない昔気質の堅物だと思っていた。
その父が突然、補導委託の引き受け先になると言う。
母は亡くなり、妹は結婚して出て行ってから父との二人暮らしで、そこに問題のある少年を受け入れることが納得できない悟に有無を言わさぬまま、少年春斗が来る。
工房で一緒に働く健司は、若い子が来ること事態が嬉しい様子で、手取り足取り面倒をみる。
あまり喋らず、表情も乏しい春斗が、アルバイトの八重樫が来たときに己を爆発させたことがあったが、やがて落ち着きを取り戻す。
春斗と工房で働き、一緒に暮らすことによって見えてきたものは…。
悟にとっては父の存在が大きく影響していたように思う。
自分にとっては、無関心であった父なのに春斗には笑顔を見せ、寄り添っている。
嫉妬ではないが、何がそうさせたのかがわからないと戸惑っているように思えた。
父が昔話をしたことで、悟にはわかったのではないだろうか。
とても不器用な親子だけれど、その間にひとり少年が入ったことで見えてくるものがあった。
家族だからこそ、近くにいすぎたからこそ伝わらなかったものがあったということに気づいた。
幸せな人生とはなんだろう。
恵まれた人生と充実した人生は違う。
与えられたものと自分が望んで生きる道とは得る価値が違ってくるだろう。
自分の目でしっかりと選んでその道を目指してほしいと願う。
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我が家には、数十年前に盛岡で購入した南部鉄器のつりがね型風鈴があり、今も変わらず、高く澄んで残響の長い洗練された音で涼を運んでくれます。さすが「残したい日本の音百選」(これは水沢駅の南部風鈴)です。本作は、この風鈴がますます愛おしくなるような物語でした。
また、先日の柚月さんのエッセイに続いて新作の本書を読むことができ、岩手の風土や柚月さんの作風を中心に、内容の理解が深まった気がします。
南部鉄器工房の親方・孝雄(72歳)は、頑固、寡黙、不器用‥と、絵に描いたような昔気質の男。同じ工房で働く息子の悟(38歳)は、父とぎくしゃくした関係です。
そんな父が、補導委託(試験観察)で非行少年・春斗(16歳)を相談なしで預かることに‥。
本作は、こんな父と息子、そして預かった少年の親子関係の内面に迫る、濃密な物語でした。
2組の親の過去、主人公と少年の心の揺れを丁寧に描き、周囲の支えと未来への希望を温かく見つめる柚月さんの眼差しが伺えました。
親方の孝雄にとって少年を預かることは、亡き妻や息子への「贖罪」というよりは、自分自身の家族との関わり方への「問い直し」だったのかな、と思えました。
結果的に主人公も少年も、親子関係の縛りを乗り越え、分かり合えたことが何よりです。親子関係、幸せについて深く考えさせてくれる秀作でした。
読後の余韻に浸っていると、心の原風景に南部風鈴の涼やかな音が聞こえたように感じました。
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南部鉄器の小さな工房を営んでいる父と息子。ある日父が「補導委託」の受け入れ先となることを決めた。少年犯罪を通し家族の在り方を描いていく。一言一言が否応なく心に沁みこんでくる。親はいつでも子供が心配で子供の生きたいようにと願いながら、自分の気持ちを押し付けてしまうこともあるし、それは生活に余裕がある故かもしれない。日本自体が貧しくて誰もが何かの犠牲になっていた古い時代、生きることで精一杯で子供のことを構う余裕もなかっただろう。時代は変わり、悩みも変わっていくけれど、人の心の根底は変わらずにありたい。
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問題を起こし家裁に送られてきた少年を一定期間預かる制度――補導委託の引受を突然申し出た父・孝雄と戸惑う悟。岩手・盛岡の南部鉄器工房を舞台にした、再生の物語。
ハードボイルド系著者の新たな境地って感じで、とても良かった。
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補導委託についての物語。
舞台は岩手南部地方、非行少年の行動理由や父親の過去などのミステリー部分はありますが、家庭小説と銘打っているように、著者には珍しい不器用な家族たちの人間ドラマでした。
ちょっと三浦しをんテイストな感じもしました。
補導委託とチャグチャグ馬コを知れたことは勉強になりました。
著者の家族が東日本大震災で亡くなっているそうなので、故郷の岩手を舞台にして希望のある物語にしたかったのではないでしょうか。
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補導委託、知らなかった。ハードル高いだろうなぁ。子どもに苦労させたくないという親の愛情とそれに応えたいけど、縛られず自由に生きたい子どものすれ違い。永遠のテーマ。「物事には風というものがある。人生にはいろんな風が吹く。いい風に乗ったと思ったら一転して嵐のような風に見舞われ転落したりする。それが世の理だから致し方ない。それに立ち向かうにはどんな風にも動じない強さが必要」「人なんてどんなに話し合ったって百パーセントわかりあえることなんてない。何が善で何が悪かを決められないように、人もこいつはこんなやつだなんて決めつけられない。いろんな価値観、感情、事情で生きてるから」「一方から見て丸いもんでも、別なとこから見れば四角いもんだ。相手をこうだと決めつけないで仲良くやろうや」「幸せな人生ってなんだろ。恵まれた人生と充実した人生って同じじゃないかも」含蓄ある言葉の数々。柚月さんだから最初はミステリー展開だと、用心して読んでいたが、ナント心温まるお話だった。
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もっと波瀾万丈あるかと思ったが、少年がいい奴すぎてハッピーエンド。法廷での一人語りはうまくできすぎ。でもラストはそれなりに感動もあり
、もしかすると続編も?という期待すら。
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南部鉄器の職人である父孝雄と息子である悟の物語。無愛想で偏屈の孝雄が補導委託で家裁送致された少年春斗を引き受ける。ぶつかり合いやふれあいの中で登場人物それぞれのこれまでの人生が明らかになり....。親の思い、子の心を考えさせられる。親は子の応援団ではなく味方であり続けたい。
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何かとんでもないことが起こるのではと警戒しながら読んだ、そういう話ではなかった。
補導委託、なかなかできることではない。
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南部鉄器を作る工房で保護観察の少年を預かることにした。
いい話なのだけれど、「いい話をしようとしてる感じ」がずっとチラつく。それが「いい話風」になってる気がする。そう感じる私が歪んでいるのか。
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南部鉄器、岩手山、盛岡八幡宮、チャグチャグ馬コ。
読んでいる間、澄んだ空気や風が感じられる、
そんな盛岡で繰り広げられる父と子の物語。
無口な南部鉄器職人の孝雄、72歳。
弟子で息子の悟、38歳。
父親に対するわだかまりを心に抱え
素直に父と話をすることができない。
ただ、古くからの職人、健司は
おしゃべり好きでお人よし。
工房の雰囲気を明るくする。
そんな工房で、孝雄の独断により
問題を起こした少年、春斗を預かることになる。
悟は突然のことに戸惑う。
自分とはまともに口も聞かない父親が
なぜ見ず知らずの少年を預かることにしたのか。
春斗の登場で徐々に変わっていく父と子の関係。
補導委託をすることにした父親の心の内は
父の過去が明らかになる中、あぶり出される。
スナックのママと健司のやり取りが面白い。
ママが言う。
「人なんてさ、どんなに話し合ったって、
100% 分かり合えることなんてないんだよ。
近くにいる人のことは近すぎて見えないこともあるからさ」
「近すぎて見えないって、老眼かよ。
そうそう、話した方が相手のことが分かる」
と、ダジャレを重ねる健司。
もうひとつ、いいなと思ったのは、
悟が春斗の父親に啖呵を切るところ。
「あなたは春斗くんの応援団に過ぎない。
応援することと、味方をすることは違う」
応援団は結果が出ないと怒ることがあるが
味方は寄り添い続ける人だと。
タイトルは、ある高齢会長の言葉に由来するのかな。
「物事には風というものがありましてね。
仕事、人生、時代にいろんな風が吹く。
立ち向かうために必要なものは何だか分かりますか」
回答は、やめておきますね。
とても心温まる物語でした。
でも、柚月ファンとしては、敢えて言いたい。
もう少し読者を信用して
最後の説明は端折ってほしかった。
そして、やはり柚月さんには
エッジの利いたミステリーを書いてほしいな。
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「検事の本懐」「虎狼の血」「盤上の向日葵」「慈雨」「暴虎の牙」など。柚月裕子さん。「風に立つ」、2024.1発行、406頁。読売(夕刊)2022.4.15~2023.4.15連載。「補導委託」がテーマ。
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限りなく不器用な父・孝雄と、その息子にして根は心優しい悟が、最後にわかりあう、、というお約束のエンディングに向かって物語が淡々と進むのだが、とても読みやすく心に響く内容でした。さすがの新聞連載作品、さすがの柚月裕子。