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下巻はマッカーシズムの恐怖に陥るアメリカで、ついにオッペンハイマーが告発され聴聞委員会に呼ばれる。
オッペンハイマーの水爆開発の拒否や、共産主義に傾倒した女性との恋愛など、それ自体は今でこそ決して批判されるようなものではない。だが、当事のアメリカの共産主義への集団パラノイアの前では、全てが罪である。水爆開発の拒否はアメリカとソ連の核開発競争を遅らせる目的であり、たまたま共産主義に傾倒する女性と付き合ったなんてことはありえない。それは、ソ連との繋がりがあったのでは、と見られるのだ。
何年もFBIの違法盗聴にさらされていながら、共産主義との繋がりなどほとんど掴むことが出来なかったのにもかかわらず、半ば罪をでっち上げるような形で共産主義への繋がりを作られる。
そのようなオッペンハイマーへの追及は、AEC(原子力委員会)委員長のルイス・ストローズの私怨が大分混じってるように見えた。
このノンフィクションは中巻がピークなのかと思っていたのだが、下巻が一番面白かった。
オッペンハイマーを擁護する友人たちとのやり取りも美しく、こんな友人たちがいたというだけでも随分助けになっただろうな、と。
またアルコール中毒で、気分の浮き沈みが激しいが支え続けてくれた妻キティの関係も感慨深かった。読んでいると2人は傷付けあってるだけにも見えるのだが、ちゃんと愛で繋がっていたのだな、と。
ただこんな両親を持った子どもたちには同情するが……笑
第96回アカデミー賞でオッペンハイマーを演じ主演男優賞を獲得したキリアン・マーフィーが「私たちは、原爆を作った男についての映画を作りました。そして、良くも悪くも、私たちは皆、オッペンハイマーの世界に生きています。だからこの賞を、平和を築く世界中の人々にささげます」とスピーチした。
冷戦は終わり、米ソの全面核戦争の可能性は低くなった。冷戦時代には米ソだけで7万発もあった核弾頭も2023年には12520発まで減少し、今も減り続けている。
だがアメリカとロシア以外で核配備する国は増えており、核が使われるリスクは上がってるらしい。
核兵器を使わないという選択が、より危ういバランスで成り立つ世界。そんな世界に生きる我々は今一度、よく考えないといけないと、このスピーチを聞いて思った。
映画自体への楽しみももちろんあるのだが、この原作を読んで唯一の被爆国に住む日本人として、核兵器について、原子力について、もう一度よく考える必要があるよなと思った。