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紙の本
幼年期に形成された古語
2005/01/28 23:29
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
年末から年始にかけてひたすら読み続けた。各巻に5編ずつ収められた計25の短編に夢中になって読み耽った。気に入った作品は何度も読みかえした。繰り返し見ていたはずなのにすっかり忘れてしまい、忘れていたことさえとうに忘れていた夢の体感が蘇ったかのような懐かしさ。時代設定について、第1巻のあとがきに「鎖国し続けている日本」とか「江戸と明治の間にもうひと時代ある感じ」というイメージだろうかと書かれている。この作品がもたらした懐かしい体感は「世界と直接結びついたままの幼児」とか「子どもと大人の間にもうひとつの生がある感じ」と形容できるだろうか。
「蟲」あるいは「みどりもの」。生命の原生体[そのもの]に近いもの達。「およそ遠しと されしもの 下等で奇怪 見慣れた動植物とは まるで違うと おぼしきモノ達 それら異形の一群を ヒトは古くから 畏れを含み いつしか 総じて「蟲」と呼んだ」。──ここに南方熊楠が「原形体」と呼んだ、流動体としての粘菌のイメージを重ねることはたやすい。なぜ粘菌などに興味をもったのかと尋ねられた熊楠は、動物状の流動体(活物)と茸状の固形物(死物)との間で変身を繰り返す粘菌の生態が「輪廻」そのものを現しているからだと答えた。これは白洲正子の文章で知ったことだが、この文章(「粘菌について」)を収めた書物のタイトルが『両性具有の美』。まさしく「蟲」とは、老若男女、貴賤生死の中間、境界上にあるものなのである。あるいはそれらをつなぐコミュニケーションの媒介。
松岡正剛氏は「蠱術と姫君」(『分母の消息(三)──景色と景気』)で、「古代においては、「ここ」と「むこう」の景色をつなげるにあたっては、ひょっとしたら鳥や虫たちによるコミュニケーション・ルートを活用する方法があったようにおもえてきた」と書いている。そして「蠱」をあやつる者について次のように書いている。《きっと昆虫の行動や変態、あるいは猛毒や啓蟄に異常な関心をもった者がいて、かれらが虫にまつわる神異の力に気がついたのが蠱道蠱術の最初であったろう。ファーブル先生くらいなら、古代中国にはいくらでも出現できたはずである。それがいわゆる「虫遣い」と呼ばれた者だった。あるいは道士や方士などのタオイストが蠱をつかっていたとおもわれるのだが、はっきりしたことはわからない。》
『蟲師』はこうした生死、雌雄分岐以前の生命の根源的な記憶と彼此両界にわたるコミュニケーション・ルートにアクセスしつつ、あまつさえエンターテインメントしての結構を備えた稀にみる傑作。
──この作品を「解読」するうえで、新宮一成氏の『夢分析』はとても参考になる。(解毒、いや解読しようなどとは思わず、ただ蟲の毒にあてられ、味わい尽くせばいいのに。)
新宮氏はそこで、「虫にたかられる」類型夢をめぐって次のように書いている。幼児は「人間はどこから来るのか、どのようにして作るのか」という問いに自ら体験的に答えようとする。《幼児による人間の自然発生説は、培地に微生物が湧くように、母の体から虫が湧き、母の体が虫に覆われるという感覚と結びつくことが推察される。(略)成人の「虫にたかられる夢」が妊娠の観念に対応しているというはっきりした事実は、このように幼児のたてた生命起源理論を我々が記憶のどこかに保存していることから来ているのである。》
これは余談だが、新宮氏によると、フロイトは「幼年期に形成された、人生の重要な部分──性、生、死──についての一つの古語、それが類型夢である」と述べている。(余談をいまひとつ。『蟲師』を読み終えて、村上春樹の「かえるくん、東京を救う」(『神の子どもたちはみな踊る』)で、「かえるくん」の身体にできた瘤がはじけた後の穴からうじゃうじゃと這い出てきた「様々な種類の暗黒の虫」たちのことを思い出した。)
紙の本
配慮すべき静かな隣人
2008/12/14 17:40
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:potman - この投稿者のレビュー一覧を見る
髪型や服装からすると、大正あたりだろうか。まあ、現実世界という訳でもないから、時代を決める意味もないだろうけど。
「人間を筆頭とする物理世界と、自然の理とか集合無意識とでも言うような霊的世界を繋ぐ半精半生物の蟲に関わる蟲師であるギンコの旅の物語」結構壮大だよ、な。
良いなあ、と思ったのは、この文明化に突き進む現代社会に対する警鐘を感じさせる押しつけがましさがほとんど感じられないこと。個人レベルで、踏み込みすぎるとヤバイという話はあるけど、自然をないがしろにするといつかしっぺ返しを食らうぜ、というような説教臭さがない。
配慮すべき隣人という感じで、そのおかげで、蟲たちに俗っぽさが出ずに神秘を湛えていさせられたのではないかと思う。
気分良く心を遊ばせることの出来る、良い物語でございました。
電子書籍
今更ながら
2023/02/15 14:55
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぽんぽん岩 - この投稿者のレビュー一覧を見る
アニメは何度も試聴するくらい好きな作品ですが漫画は未読でした。
漫画では静かな雰囲気はもちろん「枕小路」での後味の悪さは漫画の方がしみる感じで余韻を楽しめました。結果どちらも好きです。
「ちょっと昔の咄」はコミックの楽しみです。
電子書籍
心に染みる
2021/03/11 17:18
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:まぐろ - この投稿者のレビュー一覧を見る
いろいろと考えさせられるお話でした。
読み終わると心に染みるものがあります。
ギンコの過去が気になりました。
一話完結で読みやすかったです。
電子書籍
蟲
2020/01/17 15:31
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:とりのひよこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
虫がいっぱい。
この作品の、いい意味での異形は、主人公の蟲氏...
不思議や怪奇をもたらす蟲を追っている主人公が普通すぎるって事かなw。
電子書籍
蟲師
2017/08/06 11:38
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:とりのひよこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
虫が3つ集まった漢字のタイトルですが、虫だらけwwwというマンガではありませんw。が、もっとおどろおどろしい、蟲が登場するかと思いきや、蟲退治より、退治するためのストーリー重視で面白かったです。
電子書籍
不思議感漂う蟲たち
2016/03/22 18:00
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みなとかずあき - この投稿者のレビュー一覧を見る
不思議な雰囲気のマンガだというのが第一印象です。
何が不思議なのかと問われるても、うまく言葉にすることができないのですが、ともかくそんな印象です。
その理由を敢えて探せば、いくつか見つかる気もします。
まずタイトルでしょう。
ムシを虫ではなくて蟲とするところに意味があることを端的に表しているものの、やっぱり蟲という字には何かゾワゾワさせるものがあります。しかもタイトルは「蟲師」です。言いにくいよなあと思うのは私だけでしょうか。でも、その言いにくさが不思議さを増しているように思います。
ペンタッチも、一見シャープなところがあるように見えて、ゴツゴツというかザラザラとした感じで、特に風景を描いているところは不思議感が強くなっているように見えます。
そして、ストーリーです。
言ってしまえば、異類譚と言えるのでしょうが、ここに登場する異類には「意思」があるようでないようなところがあり、それ故不思議感を増しているように思います。
この第1巻には5つ話が収められていますが、どれもそんな不思議感が漂っています。個人的には「柔らかい角」で描かれた静寂(というより、もっとストレートに音のない世界ということでしょうか)、「枕小路」に出てくる夢うつつの世界、「旅をする沼」の水が印象的でした。
紙の本
白昼夢を飛んでみたくは無いか?
2001/07/30 15:19
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:葉山 - この投稿者のレビュー一覧を見る
私は昔から怖がりで、幽霊やら人間やら動物やら大抵のものが恐怖の対象であったが、何故か妖怪は恐ろしくなかった。人に仇成すものもいるとは知っていたが、人と相容れないくせをしていつも人の生きる片隅に息づいているようで、彼等は何処か鷹揚で哀しく、懐かしいような気がした。
この漫画にある『蟲』にそれを思い出した.『蟲』は孤狸妖怪の類よりも文字どうり虫に近い、意思の通わせることのできない生命にではあるが(たまに例外もいる)、けして手が届かないようでいてふと足元を見るとそこにいるような、その曖昧な距離感が似ている。
気づいてみるとこの捕らえどころの無い曖昧さは漫画全体に漂っている。頼りになるのかならないのかのらりくらりとしている狂言回しの蟲師といい、生活風物は江戸そのものなのにGパン穿いてるのがいたりするし、絵の線も下手なのか巧いのか判断がつきにくい。なんだか夢でこの漫画を読んだんじゃないかと疑ってしまうような心もとなさがある.悪い気分ではない.むしろ心地良い.私は好きだ。
こう云う夢中浮遊を味わってみたい人にはお勧め。