紙の本
風景や天気が、いかに人の気持ちを変えてくれるか
2018/05/29 22:48
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投稿者:たあまる - この投稿者のレビュー一覧を見る
『雨あがる』は山本周五郎の初期短編集。
暗い話から始まるのだけど、表題作の「雨あがる」と、その続編の「雪の上の霜」がいい。
人柄もいいし才能もあるのになぜかうまくいかない、そんな切ない展開のあとに、ぱっと明るい場面が来る。
「峠の上へ出て、幕でも切って落としたように、眼の下にとつぜん隣国の山野がうちひらけ、爽やかな風が吹きあげて来ると、彼はぱっと顔を輝かして、「やあやあ」と叫びだした。」
風景や天気が、いかに人の気持ちを変えてくれるか、しみじみ感じる話です。
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まるで推理小説の趣を持ったような時代小説。
はぐれ者の優しいさびしさとか、主の子息を想う娘のきよらかさとか、武士なのにいつも人を気遣っているお人好しとか、とにかくほっとするような、穏やかな気持ちになれる短編集です。
途中謎なんかも出てきて、それが気になってぐいぐい引き込まれるので、先が気になって仕方ありませんでした。
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小さい時から優しく、思いやりのある人になれと言われ、それを受け継ぐかのように、自分もまた子供にそのように言ってきた。
互いを優しく、思いやる気持ちは大切な事です。しかし、その優しさや思いやりが相手を重く、切なく、また深く傷つける事もあることを知らなければならない。けれども、求めるのはやはり優しさであり思いやりなのですね。
お互いを信じ合う人間臭い人々の姿が、読後もさわやかな余韻となって楽しませてくれる。
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大好きな藤沢周平の主要作を読み終え、『ながい坂』に引き続き読んだ山本周五郎の短編集。
もぅ、感謝しかない。
特に「雨あがる」の読後感といったら…。
巻末の児玉清さんの解説「山本作品は人間の劣化がますます加速する現代社会であればあるほど新鮮さと輝きを増してくる(p250)」に共感した。
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赤ひげ先生のときも感じたが、山本周五郎の作品は人間味がある。
ドラゴンボールのシェンさんは伊兵衛さんをヒントにしたのだろうか。
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アウトサイダー達を描いた「深川安楽亭」,宮本武蔵への仇討ち(の誤解)を描いた「よじょう」,女中の機転に助けられる「義理なさけ」.気の優しい無敵の剣豪を描いた「雨あがる」と「雪の上の霜」.クロサワの「赤ひげ」にいたく感銘を受けたので山本周五郎を読んでみたのだが,心を揺さぶられる自分と,自分も年を取ったな,と客観的に自分を眺めるもう一人の自分がいる感じである.いや,全く腐すつもりはない.むしろ自分も伊兵衛のようにありたい,と思う.
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20数年ぶりに読んだ。20代の若い頃に周五郎に感銘を受け、久々に読んでみたがやはり心が洗われる思いだ。
普通、小説を先に読んだ後、映画を観ると物足りなさを感じるけどこの作品はどちらも秀逸だと思う。本には本の良さ、映画には映像の良いところがあり捨てがたい。
印象に残っているシーンは、
「何をしたかではなく、なんの為にしたか?・・あなた方のような、でくの坊にはお分かりになるまい・・・」
この場面の凛とした台詞は胸に残った。
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文句無しの5つ星。義理、人情、夫婦愛、親子の情、武士の矜持、優しさ、謙譲の美など。5編の小説が収まっているが、本のタイトルにある「雨あがる」とその続編である「行きの上の霜」は、大切にしたい生き方が描かれていて、特に良かった。格差や対立など不幸なことが多い社会であるが、この本の主人公のように考え行動したいものだ。
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雨が続いたら、どんよりした気持ちや焦燥感が湧いてくる思う。そんな時こそ、まわり人の気持ちも慮り、場をほぐす行動がしたいものだ。
期待してがっかりするよりは、期待しない生き方が賢明だと思っていた。だか、繰り返す日々の中に少しは期待を持ってもいいんじゃないか。
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驚いた。
おそろしく面白い。
「時代劇」という形から、若干敬遠していた所があるのだけれど、
読み進めてみると先が気になり気になりどんどんと読んでしまう。
時代劇ではあるけれど、そこに描かれているのはいつの世も変わらぬ「人間」だった。
人が貫く「意志」だった。
こういう人になりたい、そう思える人間たちが多数登場し、基本的に善意が報われる世界観なのがまた染みる。
『雨あがる』『雪の上の霜』は同じ主人公が登場する。
伊兵衛という最強の侍、しかし恐ろしく人に優しくて損ばかりしている男がそれだ。
優しさゆえにトラブルに巻き込まれ、それをどうにか乗り越えていく清々しい物語。
伊兵衛さんの行動は、それ絶対後で問題になるやつ!
という感がハンパない。もう、物語の型として水戸黄門くらい確立された感のある、
旅→仕事獲得→トラブル→旅
というプロットが美しい。
もっと色々、伊兵衛さんの活躍を見てみたい気持ちになる。
暖かい、人間の物語。
その一言に尽きる。
ハマっちゃうかもしれない、山本周五郎。
【ネタバレあらすじメモ】
『深川安楽亭』
抜け荷を請け負うあぶれものの集まる安楽亭。
いつからか常連になった飲んだくれの客。
売られた想い人を追って借金を貯めた男。
拾った小雀。
安楽亭に集まる、どこにも行けない人たちが織りなす、人生の機微。
『よじょう』
料理係の武士である父が、滞在中の宮本武蔵の腕試しをしようと不意討ちをして斬られた。
息子はやぶれかぶれで乞食になったが、
それを世間は「仇討ちのため」と勘違いし、贈り物を沢山よこし…。
宮本武蔵という剣豪を裏側から覗いた一作。
『義理なさけ』
縁談が決まった侍・甲子雄の部屋に、女中が一通の文を届ける。
父がそれを見つけ読み上げると、甲子雄に手を出され子供が出来たという。
父はたちまち縁談を破断にし、息子に訳を問うが、甲子雄にはまったく身に覚えのない話だった。
甲子雄は自分で真実を探りにかかるが女中は失踪。
それからしばらくの後、噂に、嫁に貰うはずだった娘の不義が明らかになったと聞こえてきて…。
『雨あがる』
めっぽう強いが良い人すぎて士官先が決まらない浪人・三沢伊兵衛とその妻おたよの旅物語。
泊まった貧乏宿の人々を喜ばせるために伊兵衛は賭け試合をし、その金で人々に贅沢をさせる。
その後士官先が決まりかけるも、賭け試合が明らかになりまた流浪の身へ…。
夫婦の人柄の良さが清々しい。
『雪の上の霜』
伊兵衛とおたよの後日談。
病気になったおたよのために、道で荷物持ちの仕事をする伊兵衛。
街道の馬子たちとのトラブル、馬子たちに絡む武士とのトラブル、道場での働き口の獲得に、思わぬ展開。
そしてまた流浪の旅に出る夫婦。
相変わらず清々しい物語!
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「深川安楽亭」は今ひとつ好きになれない。周五郎らしい登場人物であるようなないような。陰のある凄みがダメなのかもしれない。正太郎が書いていたら「雲霧仁左衛門」みたいで好きになれたかも。
その他は文句なし。梅雨が明け「雨あがる」を無性に読みたくなって読み始めた。続編があることを初めて知った。その続編も切なく、気持ちいい。
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読み終わった時のお腹にずっしりとくる、揺るぎない満足感。コレだ!と思わせられる人物像。
人間味あふれる人柄。主人公は例えばクラスに居たら全く主役では無いタイプではないか?
誰の上にも立たず、自分を過剰評価せず、人を喜ばせ、人に譲る。
そんなタイプがいたとしてそれに気づくのは難しいのではないか?
そんな人間になりたいと思うけれど、なりたいと思ってなれるものでは無い。コレはもう生まれつきの性分なのでは無いだろうか?
実直、直向きさ、辛抱強さ、潔さ。
なりたいと思ってなれるものではない。そういう人物を描くから山本周五郎は魅力なのかもしれないなぁとぼんやり思ってしまった。
「雨あがる」とても良かった。続編も読みたい。
そしてもっともっと山本周五郎の作品を読んで、この生まれつきの性分の人物に近づきたい。