紙の本
調査が徹底的
2021/01/02 16:16
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投稿者:コアラ - この投稿者のレビュー一覧を見る
福島の原発事故で一躍有名になった吉田所長の伝記。上巻は小学生時代から東電での中間管理職時代を描く。ほぼ同時代人なので,学生生活の描写などは懐かしかった。ひいきの引き倒しにしても素敵な人物に描かれている。こういう人の下で働いたら気持ちもよかろうと思う。
昔高校生のとき現代国語の先生に「社長になるのは文系」といわれて理系から文転を 薦められたものだが,そのとおり東電の社長も,わけのわからない東大法学部出である。そしてやることなすこと汚い。
この体質が残っている以上,日本経済の復活はむずかしいかも…。合掌。
それにしても著者の徹底した調査には驚かされる。金融業界出身だから銀行業務にはくわしいだろうが,原子力も徹底的に調べてある。脱帽。
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「ザ・原発所長」。妙な、というより、ひどい書名だと思ったが、読み終わって、なぜ著者があえてこんなタイトルにしたのか、わかったような気がした。
例えば、「ザ・教師」という言い方は、「教師としてすべきことを完璧に行っている、これこそ教師」といった意味合いで使われる。では「原発所長」のすべきこととは何か。
まず、営利組織の「所長」という立場から考えると、なすべきこととは、自らが一員である組織の利益を考えることである。本書には、電力会社の不都合な事実、汚職、隠蔽が、現実通りに描かれている。富士(=吉田)が会社の利益を津波対策に優先させたことが大惨事に繋がったことにも触れ、自殺とされているが殺害された可能性が高い、西村成生氏の実際の事件について語る場面もある。そして富士(=吉田)は、喜んでではないにしろ、それらを受け入れ、黙認する。大きな組織の中では仕方がないという意見もあるだろうが、こうした欺瞞に耐えられず、反旗を翻し、会社を告発した人もいる。だが富士は、それらをともかくも仕方がないことと、受け入れていると読める。それはおそらく、それが営利組織に属し、責任ある地位を任された者のとるべき態度であると、富士が判断したからだろう。
次に、原発という特異なものを預かる「所長」として、重大事故が起こってしまったときになすべきこととは何か。それは当然、被害を最小限に抑える努力をすること、従業員の安全を可能な限り、確保することだろう。本書の下巻には、ほとんど制御不能となった原発と命がけで戦う姿が、緊迫感を持って詳細に描かれている。周知のように、所長は、官邸や上層部の指示よりも、今現在、絶対にしなければならないことを優先する。我々は現在、東日本が壊滅を免れたのは僥倖、風向き等、いくつもの偶然が重なったおかげと知っているが、所長をはじめとするスタッフの、必死の責任ある姿は共感を呼び、彼は英雄となり、映画化されるに至った(私は、門田隆将の本を下敷きにしているとわかった時点で興味を失い、未見であるが)。満足な食料も水もなく、流せないトイレにはただ汚物が重なって盛り上がっている状況で、所長は、投げ出すことも、逃げ出すこともなく、力の限り責任を果たそうとした。
つまり、富士(=吉田)は、企業の一員としても、原発に携わる責任者としても、原発所長として己の信ずる本分を全うしようとした、だからこそ本書の題名は「ザ・原発所長」なのだ、私にはそんな風に思えた。
小池百合子の嘘八百を暴く著者の文章を読んで以来、私は著者を信用しているので、この本の記述も正確だろうと思われる。原発に賛成であれ、反対であれ、「ザ・母親」、「ザ・医師」、「ザ・~社記者」「ザ・~社課長」等、現在の自分の立場、関心のある他者の立場に考えを巡らせながら読まれるべき本であると思う。本書を読んで損はない。
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電気工学科のエネルギーのコースを専修していたので、優秀であれば東京電力に入って働いていた可能性を鑑みると、自分もこの大きな組織の中で如何ともしがたいという状況の渦中にいたかもしれないことを考え、ぞっとする。黒木氏の作品は好きだけど、なかなか読み進まない、読むのが辛い作品だ。
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東日本大震災時に、福島第一原発の所長であった吉田氏をモデルとした黒木亮による小説。
上下に分かれており、上巻は吉田所長をモデルとした主人公の生い立ちに関わるため、やや冗長な印象を受けたが、下巻への繋がりとして評価。