紙の本
IT技術を駆使した企業犯罪の行く末
2006/05/02 16:07
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:hisao - この投稿者のレビュー一覧を見る
2001年12月 米国エネルギー大手企業エンロンが破綻しました。貧困から身を興したIT革命の旗手達が世界にエネルギー革命を巻き起こし、複雑な金融工学と会計操作を駆使、一方では米国政府・ウォール街アナリスト・大手会計事務所との癒着を重ねて巨億の富を手中にしました。そして空前の大破綻。
世界の経済界を震撼させた事件をかって国際金融界で活躍した黒木氏が小説仕立てで語っています。小説とはいえ立派なM&A或いはIT技術の教科書です。先日保釈され法の裁きを待つホリエモン氏の戦術・詐術が僅か4年前に暴かれたこのエンロンの犯罪に余りにも酷似しており興味深く読みました。
小説の中から「エンロンの歴史」を辿ってみます。
1985年 一介の地方ガス会社としてケネス・レイ氏がエンロン設立
1980年代終盤には 時価会計等を悪用してはやくも粉飾会計に手をそめます。
1990年 中頃より
米国の電力規制緩和・自由化政策を契機にエンロンはエネルギー供給企業から石油・ガス・電力などの売買を仲介するトレーディング・ビジネスとして非資産型企業に傾斜します。
1999年
エンロン・オンライン(ITベースの電力市場)設置、
全てのエネルギー商品の売り買いともエンロン自身が取引相手になる事でリアルタイムプライシングを実現。
デリバティブ比率は8割を越え、見かけ上の売上・収益は急拡大
「フォーチュン」誌などに“アメリカで最も革新的な企業」と賞賛されます。
2000年
大統領選でブッシュを金銭支援、10万ドル献金。
カリフォルニア電力危機をも市場のカラクリで蓄財手段とします。
ブッシュ政権の規制緩和政策のもと自己粉飾による信用創出で全米売上第7位に登り詰めます。
粉飾はライブドアが大いに真似たSPE(特別目的事業体)を隠れ蓑にした会計のカラクリで行われました。自ら発行した実体のない有価証券を、自ら保証する事で売りまくり、その資金で更に会社を水膨れさせ見かけの信用を創出する。“偽札”は流通している限り“偽札”とは見なされず、信用を創出します。貨幣の本質を熟知した見事な“偽札つくり”と言えましょう。
2001年
社員数21000名に拡大するが、海外事業の失敗などが一部明るみに出て株価低迷、後継社長のスキリングは早々と辞任、逃げを打ちます。
経営役員会で子会社の赤字が10億ドルと内部告発、一部の赤字を決算発表、ケネス・レイ会長は自社株2400万株を売り抜けます。
業界紙が不正疑惑を報道、SEC(証券取引委員会)の調査が始まり株価急落、ダイナジー(パイプライン企業)との買収交渉も決裂、連邦破産法申請
当時としてアメリカ史上最大の破綻となりました。
2004年
FBIがケネス・レイを不正会計で訴追。
デリバティブやSPEばかりか、現政権への密着、世界有数の会計事務所(アンダーセン)の荷担、球団経営にまで乗り出した広報活動から幹部の”謎の自殺、”知らぬ存ぜぬ”で白を切る最高責任者までライブドアの事件はエンロンの歴史と何と符合している事でしょう。
紙の本
マネーゲームの果てに
2010/01/05 01:58
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yjisan - この投稿者のレビュー一覧を見る
エンロンは、1985年7月、天然ガス輸送パイプライン会社インターノースと天然ガス輸送パイプライン会社ヒューストン・ナチュラルガスの合併によって誕生した。設立当初のエンロンはテキサス州周辺の中小ガス生産業者から天然ガスを買い上げ、それをパイプラインで輸送するという、堅実ではあるが利鞘は薄い商売をやっていた。創業当時の株価は僅か6ドル前後だった。
しかしレーガノミクスによる規制緩和に伴い、エンロンは野心的な事業拡大策に乗り出していく。1989年にジェフリー・スキリングが「ガス銀行」のアイディアを創案し、天然ガスのトレーディングを北米と欧州で開始したのを境に株価は上昇に転じ、1992年には10ドルを突破。アメリカのITバブルの波に乗る形で発展を続け、1999年には37ドルに達した。同年11月にはエンロンオンラインが稼働、12月には『フォーチュン』誌で「働くのに最高の百社」の第24位(エネルギー業界では1位)に選ばれた。
2000年1月21日には株価が71ドル63セントまで上昇、同年2月には『フォーチュン』誌において5年連続で「米国で最も革新的な会社」に選ばれた。アナリストはエンロン株は最高の買い銘柄で、株価は97ドルまで行くと予想した。
エンロンは 2000年度の売り上げベースでは全米第7位に躍進し、アメリカを代表する大企業にまで成長した。だが、この年の12月2日、エンロンは連邦倒産法第11章適用を申請し、事実上倒産した。
アメリカの1地方ガス会社にすぎなかったエンロンは、如何にして世界にエネルギー革命をもたらしたのか。そして何故、突如破綻したのか? エンロンの栄光と転落の軌跡を克明に描き出した迫真のノンフィクション。今またサブプライム問題という「偽装」に揺れる世界経済にとって、「エンロン問題」は決して過去の出来事ではない。
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エンロン事件をベースとしたドキュメント小説。エンロン事件の大枠を知る事が出来る。流石にエンロン程では無いにしろ、結構こんな感じにめちゃくちゃな事をやっている会社もあるはず。
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黒木亮さんの本を久しぶりに読みました。
エンロン事件を小説化したもののようで
実質、初めてエンロン事件について学んだ自分としては
結構興味深いものでした。
すーっと読めば、何も入らないけれど
ちゃんと読めば、色々な仕組みとかが頭に残る本ですかね。
でも、小説タッチじゃないから、初めてだととっつきにくいかもです。
さて、今日は寒そうだから、一日引きこもろう。
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小説でありフィクションも含まれるが、事件の概要と根本原因について詳しく書かれていてためになる。会計の恐ろしさがわかる本
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常識・教養として知っておくべきエンロンの興亡が揺り籠から墓場まで分かる良書。学術的でなく非常にExcitingに読み進められる。Weather Derivativesがエンロン発祥とは知らなかった。
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エンロンについて。
これだけ易しく、かつ詳しくエンロンの創造的会計処理を描いている本は他にはないんじゃないでしょうか。
この事件はエンロンだけじゃなく、投資銀行・監査法人なども含め後々まで大きな影響を与えた事件ですね。
ただ、この本に出てるような会計処理って、うまくやればすごくメリットのあるもので、こういうことが出来るっていうのが魅力の一つだと思います。主役にならざるものというのが本来の立ち位置なんでしょう。
全体的には読みやすいですけどちゃんと理解するにはそれなりにじっくり読む必要があると思います。
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再び黒木氏。
いよいよ黒木氏の著作制覇まであと少しと言えるレベルになってきたか。
本作は、2001年12月に破綻した米国エネルギー会社大手エンロンのお話。
テキサスの地方ガス会社でしかなかったエンロンがどのように急成長し、
その中ではどういったビジネスが行われていたのか。
彼の著作の象徴といえる細かい取材をもとにした忠実なドキュメント。
SPEを使ったオフバランス化と、それによる資産の偽装計上は、
正直結構複雑なスキームで(簡略化されているらしいが)難しい。
しかし、それがあまりわからなくても読める。
会計事務所の会計士や、投資銀行のアナリストが「エンロンの利益はブラック・ボックス」でも報酬をもらえるし、株価が上がっているから気にしないというスタンスの中で、どのようにしてそのブラック・ボックスが作られ・巨大化かがよくわかる。
エンロン事件を再考するにはいい小説。
面白かった。
P.S.結局金融機関も顧客が第一。顧客に言われたらどうしようもないよなぁ。
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筆者は国際金融の第一線で働かれていた経緯もあり
かなり専門的な内容の箇所もあるが、話の内容はあきさせない。
深みにはまって身動きが取れなくなり
破綻してゆく・・・・・・
粉飾というか不正な会計処理、規制の無いグレーなマーケット
私利私欲、利害を優先したために働かなかったチェック機能等々
このエンロンの破綻劇の教訓は生かされないまま、リーマンの破綻を招いてしまった。
それも今回のリーマンの破綻は世界の金融の崩壊につながりかねないとてつもない規模・・・・
また、忘れたころに、同じ過ちをまた繰り返すんでしょうか?
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米企業エンロンの成長から崩壊(倒産)までの真実を描いた小説。
膨張するエンロン的経営方法、そして崩壊。
実在の登場人物、世界各地の施設、金融メカニズム、などを詳細に表現。それだけに少し難しい面もあり。
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1986年から2002年、享年16年。企業の年齢をDog Yearに例えることを考えると4倍の64年の生涯。エンロン社の中枢にいたのは、35歳から42,3歳を中心とする、超高学歴な人々。ニューエコノミーの旗手と歌われたように、ロールモデルとなるものが周囲にない、アンファン・テリブル・・・。
あの時代に、もし、私が、エンロンにいたらどのような行動をとるのだろう?
経営者だったら、、、時代の追い風にのり、権力もお金も面白いように集まってくる。株価をあげること、儲けることが、皆の幸福である、という倫理観が行動規範なのだから、多少のリスクなど誤差の範囲。とにかく稼げ!
社員だったら、、、経営者は若くてカリスマがあり、フォーチュンで最も働きたい会社に選ばれる企業。頑張れば高い報酬が得られるし、同僚たちもキラキラした才能に溢れていて、毎日がワクワクドキドキするような興奮の中に身を置く日々。ときどき悪い噂は聞くけど、本当かどうか追求する余裕もない。
・・・と、いうように、この小説は、関係者の人間像をしっかりと描き出し、「ヒト」ありきで事件を追っているので、他人事としてでなく、自分が現場にいるかのような気分になるのが特徴。
月並みながら、企業リーダーの責任の重さ、高度な倫理観の必要性を再認識するのに最適な一冊。
もちろん、金融カラクリを学ぶにもよし。
蛇足:しかし、エンロンの回りのアグレッシブな人々の姿とその顛末をみると、日本の若者たちが、下流思考や草食化に流れるのは、ありかも、と思ってしまった。反面、肉食獣たちに食べられて絶滅しそうでコワイ。
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アメリカの大手エネルギー関連会社エンロンの破綻を描いたドキュメンタリー小説。金融の未整備な法規制の穴を巧みにすり抜け、粉飾会計を行ったエンロンの様子が鮮明に描かれている。ここに書かれていることが事実だったと思うとぞっとする。アメリカはマネーゲームに走りすぎている感はぬぐえない。さらにデリバティブ(金融派生商品)というものが生み出されたのは、良かったのか悪かったのか、考えさせられる。
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あのエンロンの姿を赤裸々に描いたノンフィクションに近い小説。金のために何でもやる男達の物語と言うか史実。エンロン社とは詐欺会社だったのか。ものづくりを地道にやっている人間にとってはるかかなたの世界でしかない。エンロンの次はリーマンショックかあ。米国の金融の力は未だに凄まじい。
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エンロンの破綻までの流れが、内部にいた人間が書いたのではというほど詳細に、しかも分かりやすく書かれている。経理に携わっている自分にとって、今の会計基準の流れがここからきていることを実感した。
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当時、アメリカ史上最大の負債総額で破綻したエンロンの栄華をきわめた時期とチャプターイレブン適用までをほぼドキュメンタリーのような形で小説にしたもの。
正直、特定目的会社を使ったオフバランスの仕組みが難しすぎて理解出来なかったが、上場企業のトップは日々、株価下落懸念と闘いながらなんとか決算をドレッシングしようと躍起になっていることがよくわかる。
それにこのスキーム、ライブドアがやろうとしていたことと同じじゃないか?という疑問も。
そして、わずか10年たらずの間で、この史上最大の負債総額が、ワールドコム、リーマン・ブラザーズによってあっさり塗り替えられたのが興味ぶかい。