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紙の本
先生との優雅な時間
2011/02/28 08:13
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
脳科学の世界で「ミラー・ニューロン」という言葉を最近よく聞く。他人の行動を見て自分の行動のようにする「共感能力」のことらしいが、楽しい人のそばにいるだけで気持ちが弾むのはこの能力から生まれるらしい。
昨年逝去された三浦哲郎氏がそれにに気づいていたかはともかく、三浦氏が「先生」と呼ぶ井伏鱒二との関係を本書で読んでいくと、三浦氏と井伏氏との関係にはこの「ミラー・ニューロン」効果が大いに影響していたと思われる。三浦氏にとって、師・井伏鱒二はまさに鏡のような存在だったのだから。
そのことは本書の解説にあたる文章のなかで、荒川洋治がこう書いている。「人がその人のそばにいること、そこで学びつづけることの意味を、この本からあらためて感じとり、新しい気持ちになることだろう」と。
本書は「井伏鱒二全集」の月報に十六回にわたり連載されたものをまとめたもので、当然三浦哲郎氏からみた井伏鱒二像には違いないのだが、その一方で作家三浦哲郎誕生の自伝的要素も大きい作品である。
三浦氏の三作めの習作『遺書について』(のちに『十五歳の周囲』となった作品である)が井伏の目にとまり、昭和三十年六月まだ学生だった三浦氏は荻窪にある井伏の住居を訪ねることになる。そこで井伏は若い三浦氏に「君、今度いいものを書いたね」と賞賛するのだが、その後井伏の庇護のもと、三浦氏は作家としての道を歩みだすことになった。
もし井伏がいなかったら、三浦哲郎という作家は誕生しなかったかもしれない。あるいは、作家として歩きだしたとしてもその作風はちがったものになった可能性はある。
そばに井伏鱒二がいたことで、三浦哲郎氏のいささか地味ともいえる格調高い文学が作り出されていったのではないだろうか。
いま三浦哲郎氏は天国で師・井伏鱒二と師の大好きだった将棋の盤をはさんで心いくまで酒盃を重ねているのではないか。時間はたっぷりとある。
なんとも羨ましい、優雅な時間だろう。
◆この書評のこぼれ話は「本のブログ ほん☆たす」でお読みいただけます。
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