紙の本
アミニズム的思考の復権が幸せにつながる?
2024/03/28 23:26
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投稿者:まいみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
別の昔話でも話の流れや約束事が同じなものがいくつもあることが印象的で、どんどん派生していったのだなということが感じられた。
海外のものも含め人ならざる者との婚姻譚がたくさん載っていて面白い。
おおまかに異類の嫁は人間社会で共に生活し幸福ないし富となるものを与えるが、異類の聟は娘の親と結んだ婚姻契約に従い異界に娘を連れ去ろうとするため殺される事が多い事がわかった。
どちらも人間が短期間の異類の者との生活後、別れて元の状態へと回帰するものが多いが、異類の嫁との別れは「雪女」のようにあわれやうらみの入り混じった日本人好みの別れの美学が込められているものがある。
別れの際、異類の聟の子は半分異形ながらも人の母を人の世界に帰すために助力してくれるが、「鬼の子小綱」のように無事共に逃げおおせても人間の世界に馴染めず自死してしまう。
そういう半分異形の子「片側人間」が生きられる新しいファンタジーが、我々現代を生きる人間の生きやすさにも繋がるのではないか、そしてそれには「アミニズム的思考」の復活が有効的なのではないかと著者は述べている。
差別意識や社会構造が昔話に反映されているのがよく分かり、我々の社会の在り方についても考えさせられる温故知新な良書でした。
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鶴の恩返し、雪女、かえるの王さま、崖の上のポニョ…世界各地の人ではないもの(異類)との婚姻譚を解説付きで紹介。非常に多くの事例が紹介されており私たちと異類との関係性を考えずにはいられません。
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日本を含めた世界の異類婚姻譚を豊富な事例で系統立てて紹介。
日本の異類婚姻譚は話の終わりに元の状態に戻る(貧乏→裕福→貧乏)ものが多いというのが興味深かった。
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題名どおり、相手が”人間”ではない(嫁だろうが婿だろうが)結婚の話をわかりやすく分類し、分析した本。相手を「動物」「異界(異郷)の者」「異形の者」の三種類に分け、例となる民話を挙げて解説していますが、想像していたよりも非常に読みやすく、どの説明もわかりやすく、例も多くて異類婚姻譚を知るには最適の一冊だと思いました。
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異類婚姻譚とは、異類の者と出会ったものの決定的な別れにより主人公の状態が出会い前に戻る「行きて帰りし物語」の一種だと思ってたけど、それは日本本土の現象でしかないってのが衝撃だった。奄美でも韓国でも人は人外と案外ハッピーに暮らしていたという
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「鶴の恩返し」「美女と野獣」などなど、
昔話や童話など、今一度読み直した感じで楽しかった。
そして、必ず、美男美女が主人公で、
貧乏が裕福になって、というお決まりの話。
日本だけでなく、似たような話が台湾や中国にもあるのは興味深い。
河合隼雄さんや北山修さんなど、
心理学的にコメントがあるのが面白い。
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昔話、おとぎ話、国内外問わずお話を全文、または一部引用した上で動物婚、異界婚で大別し、さらにパターン分類、分析と考察した体裁となっている。興味深かった。
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異類婚姻譚に関する書物。
事例がとても多く、7〜8割は事例の紹介で、
最後の章でまとめて考察する形式。
結構難しめと感じた。
特に面白いと思ったのは日本の異類婚姻譚が女性に求める役割について。
異類が女性の場合は中国や韓国は日本と似たような形の話でも人間の男からのプロポーズが多く、日本は基本的に動物女から迫られるのが多いらしい。
「昔から美少女に迫られるのが好きなんだな日本の男たちは」と思った。
それと同時に「この日常から抜け出させてくれる誰かと出会いたい」という希望が強いのではないか?とも思う。
ある人物との出会いで今までとは違った世界に踏み出す物語は今でも人気なので、繋がりを感じた。
また、異類が男であり、女が人間の異類聟の場合は女が異類を殺害・排除する物語も多い。
どちらにせよ物語の中で男性は消極的で、出会いや別れ、排除といった物語を動かす役割は女性にある。
未だに男尊女卑の思考が根強い割に、能動的・積極的であることを女に求めるなんて、昔も今も変わってないんだなあ、と思った。
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フィギュアスケートの吉田陽菜が鶴をテーマにしたプログラムを演じていましたが、そもそも海外で鶴ってどこまで知られているのだろう(吉田陽菜の衣装は白と黒、赤のポイントというタンチョウヅルのイメージ)、『鶴の恩返し』ってめちゃくちゃ日本的な話だけどこういう異類婚姻譚って海外にもあるのかなと調べたところちょうどいい本がありました。
日本の昔話を中心に「動物との婚姻」、「異界の者との婚姻」、「異形の者との婚姻」の類型を紹介、ヨーロッパや中国・韓国、アイヌなどの伝承と比較しながら日本の異類婚姻譚の特徴を分析しています。
・動物との婚姻
動物の女房『鶴女房』
動物の夫『猿聟』『オシラサマ』『蛙の王さま』
・異界の者との婚姻
『浦島太郎』『天人女房』
・異形の者との婚姻
異形の女房『雪女』『食わず女房』『鉢かづき』『人魚姫』
異形の夫『一寸法師』『美女と野獣』『鬼聟』『片側人間』
日本の異類婚姻譚(特に異類女房譚)では、「動物救済→押しかけ女房→報恩」という形で話が展開し、「見るなの禁止」というタブーを破ったことで女性の本性が露呈すると例外なく離婚。
ヨーロッパの伝承はこれと逆で異類が人間の女性と結婚することによって人間の姿に戻る。
『蛙の王さま』や『美女と野獣』に見られるように、ヨーロッパの伝承では本来は人間である存在が魔法によって異類の姿になっているので実際には異類婚姻ではなく人間どうしの婚姻です。
日本の異類が男性の場合、婚姻が成立する前に人間に殺されたりして異類が排除されるパターンが多い。
『一寸法師』はハッピーエンドですが、最終的に打ち出の小槌により一寸法師は成人男性になるのでヨーロッパ伝承に近い。
鬼と結婚する話では「体の右半分は鬼、左半分は人間」という「片側人間」の子供が生まれるというホラーな展開に。これ、なんのモチーフなのか考えると非常に怖い。
「片側人間」の民話はヨーロッパにもあり、カルヴィーノはこれをもとに『まっぷたつの子爵』という話を書いている。
ルッキズムの問題
蛙も野獣も最終的には美しい男性へと戻りますが、これが醜い姿だったらどうなるのか。
イヌイットの『かにと結婚した女』ではカニが醜いまま幸せな結婚が成就していて、これは「人間か動物か」ではなく「婿としての役割をはたすかどうか」(イヌイットでは漁をして獲物を捕ることが婿の役割)が問題とされている。
「美しく悲しい別れ」という日本昔話の特徴は、ケルトの伝承とも共通する。
などなど、いろいろとおもしろい分析がされているのですが、タイトルに『異類婚姻譚案内』とあるように、類型と先行する研究が広く紹介されているにとどまりまり、もう少し深いツッコミがほしかったところ。ただ異類婚姻譚入門としては十分なので、河合隼雄をはじめ紹介されているほかの書籍も読んでみたいです。
装丁はHON DESIGN。表紙だけでなく、章ごとに異なるページの飾りもかわいいです。
研究書らしくない軽めのタイトルも読者の間口が広くていい��と思います。
以下、引用。
15
このタイプの異類女房譚は日本列島以外にはほとんどみられないことに注意する必要があります。つまり、日本人の好みにあった話だと考えられるわけです。そして、このような話をくり返し聞くことが、日本人のパーソナリティ形成に影響を与えたと考えられます。
まず「動物救済→押しかけ女房→報恩(機織り)」という形で話が展開します。そして、後半の話の枠組みとなっているのが、決して見てはならないと禁じられたにもかかわらず、そのタブーを破ってしまう「見るなの禁止」と呼ばれるモチーフです。「禁止→違反」という形で話が進み、動物女房の正体が露見して別れにいたります。別れは女房のほうから切り出され、男は呆然として立ちつくすという展開になります。
47
我が国の異類婚姻譚をヨーロッパの同種の昔話と比較すると、我が国の伝承はほとんど人間の形態をとって婚姻関係を結ぶが、ほとんど人間によって両者の間で守られねばならない規範が破られ、破局に終わる。異類の姿に還って去って行く。ヨーロッパの伝承はほぼこれと逆の形式をとっている。田螺聟は最初動物として人間の女性と結婚するが、結婚することによって人間の姿に還る。ヨーロッパの伝承と共通する例である。(関敬吾『日本昔話大成3』)
90
「かにと結婚した女」(イヌイット)
かにの夫が醜い姿のままで、幸せな結婚を成就していることが印象的です。この点においては、グリム童話の「蛙の王さま」と対照的と言えます。小澤俊夫は、この話全体の基調として「人間か動物かの区別が問題なのではなく、婿としての役割をはたすかどうか、が問題なのである」という価値観の存在を指摘しています。
99
臨床心理学者の河合隼雄は、キリスト教以前のヨーロッパにも日本と同じように幸福な結婚で終わりにならない展開を持つ話があるのではないか、という関心から、ケルトの伝承に注目しています。そしてケルトの文化が色濃く残るアイルランドにおいては、現世と異なる「異界」が存在するという感覚が身近なところに存在していて、語りにおいても「常若の国」のリアリティが生み出されていることを指摘しています。(河合隼雄『ケルトを巡る旅』)
106
このような「美しく悲しい別れ」を小澤俊夫は日本昔話の特徴として指摘していますが、河合隼雄は、それをケルトと日本の伝承に共通するものとして捉え、アイルランド人の父を持つ(ラフカディオ)ハーンは、それゆえに「悲しみをたたえた」日本の伝承説話に惹きつけられたのだろうと推定しています。
128
「雪女」の話は日本の村落社会で幅広く伝承されていたわけではありません。しかし、次に取りあげる「食わず女房」の話は、日本全国に数多くの類話があります。
160
本来は人間である存在が、魔女に魔法をかけられたために異類の姿になっているという設定は、ヨーロッパの伝承に共通する枠組みです。
178
池上嘉彦は、「鶴女房」、「天人女房」、「浦島太郎」の三つの昔話を分析し、物語の枠組みとして「〈出会い〉と〈別れ〉のサイクル」が共通して存在することを示しています。そして、その〈出会い/別れ〉のサイクルの中でも「人間である主人公と超自然的な女性との〈出会い/別れ〉がもっとも重要であることを指摘しています。
池上は「主人公は、超自然的女性と共にいる間は幸福です。超自然的女性との〈出会い/別れ〉のサイクルを経験するのと平行して、主人公は幸福との〈出会い/別れ〉を経験します」というように、日本の「異類女房譚」の構造を分析しています。
179
そしてまた、池上は小澤と同じく、「主人公は話の結末において、もとの状態に戻る」という物語の構造が存在することを指摘しています。
193
「蛙の王さま」の蛙や「美女と野獣」の野獣は、魔女の魔法で蛙や野獣の姿にさせられていたのであって、本来は人間であり、最後に人間の姿に戻ります。ですので、最後の場面から振り返ると、人間の女と人間の男の結婚という物語の形になります。
196
話が中断されたという印象をヨーロッパの研究者は持つようです。「女房が鶴になって飛び去ったのに、夫はなぜそれを追っていかないのか。日本の夫はなにをしてるんだ」と。
200
日本の異類婚姻譚においては「見るなの禁止」が破られて女性の本性が露呈すると、例外なく離婚がおこなわれるわけですが、その際、「ほとんどの話で、こうなったからには別れるより仕方がないと切り出すのは女性である」と河合は指摘し、「結婚、仕事、離婚、とすべてについて能動的なのは女性であり、男性は常に受身である」と総括しています。(河合隼雄『昔話と日本人の心』)
213
最後に、もう一つ現代におけるジェンダーに関わる日本の昔話の特徴をあげておきましょう。それは、女性の主人公が積極的に活躍するという特徴です。この点は、グリム童話をはじめとするヨーロッパの昔話における女性が受け身的であり、男性主導で物語が展開していくのと対照的です。
多和田葉子『犬婿入り』
小澤俊夫『昔話のコスモロジー─ひとと動物との婚姻譚─』
カルヴィーノ『まっぷたつの子爵』
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日本・アイヌの異類婚姻譚(動物、異界、異形の3つに分類)を中心に、東アジア、ヨーロッパの口承文芸、伝承、民話、昔話、創作文学についても言及されています。
また、現代の純文学やアニメへの考察も一部あり、とても面白く読みました。
個人的には、4章の総括でルッキズムやジェンダーについて述べられた点が興味深く、とても学びがありました。
イヌイットの伝承「かにと結婚した女」が衝撃です。
古今東西の異類婚姻譚とは明らかに異なる文脈で語られているなあと感じました。