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3件
巨大投資銀行
著者 黒木亮
旧態依然とした日本の都市銀行を飛び出し、ウォール街の巨大投資銀行モルガン・スペンサーに転職した桂木英一。外資流のビジネスに翻弄されながらも、巨額のM&Aや証券引受で勝機をつかみ、一流のインベストメント・バンカーへと駆け上っていく。一匹狼の日本人起業家に翻弄されながら進めてきた買収案件に調印する寸前、世界を揺るがす金融不安が…。虚々実々の駆け引きから、複雑な取引の仕組みまで、投資銀行業務をガラス張りにした経済小説の金字塔。
巨大投資銀行(下)
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巨大投資銀行 下
2010/02/11 19:16
日本経済の栄光と転落
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yjisan - この投稿者のレビュー一覧を見る
バブル経済、バブル崩壊、金融危機、金融ビックバン……日本と世界の経済が劇的に転変した激動の20年を、外資系投資銀行で活躍した日本人インベストメント・バンカーたちの目を通して圧倒的なリアリティで描く経済小説。史実に基づく企業買収劇や経済犯罪事件の全容は圧巻で、金儲けのためには手段を選ばない「狩猟民族」たるインベストメント・バンカーたちの闘争心が浮かび上がる。日系以上に上司が絶対でゴマすりが横行、手柄の横取り、部門間の激しい対立など、外資系投資銀行の企業文化も垣間見えて興味深い。
ソロモンの敏腕トレーダー、ソルトこと竜神宗一(シュガーこと明神茂がモデル)はバブル崩壊を見越して、金融工学を駆使した大規模なアービトラージ(裁定取引)を敢行、巨額の儲けを出し、ついにはソロモンの副会長にまで上り詰める。
ソロモンの藤崎清治はバブルに踊り財テクにのめり込む無知な日系企業にデリバティブ(金融派生商品)を売りつけてボロ儲けしていたが、バブル崩壊後、大幅な赤字となった日系企業につけ込む損失先送りビジネス(という名の犯罪)に嫌気がさして、独立する。
桂木英一は旧態依然とした日本の都市銀行にあいそをつかして退職し、ウォール街の巨大投資銀行モルガン・スペンサー(モルガン・スタンレーがモデル)に転職した。「結果が全て」である外資流のビジネスに翻弄されながらも、巨額のM&Aや証券引受で勝機をつかみ、昇進を重ねていく。やがて、その運命は日本の金融再生と劇的に絡み合い、桂木は外資での高収入を捨てて、今まで培った手腕を邦銀再生のために捧げようと決意する(りそなをモデルとした「りずむHD」会長、という形で貢献することになる)。実際、世界を股にかける国際派ビジネスマンは、実は愛国心が強いらしく、意外なような納得できるような。
金融工学の暴走が生み出した「リーマン・ショック」で傷を負った世界経済が未だ癒えず、そしてオバマ米大統領による金融規制強化法案が論議を呼ぶ現在、欧米投資銀行の果敢すぎるリスクテイクのあり方について、本書から学ぶべき点は多い。
巨大投資銀行 下
2020/09/10 10:42
壮大な現代史の大河ドラマ
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コアラ - この投稿者のレビュー一覧を見る
バブルの発生から崩壊までを描いた壮大な大河ドラマだ。ちょうど評者の社会人生活と重なっていたので,とても身近に感じられ,「うんうんそうだったよな」と思いながら,どうしてあんなに株式投資で損失を出したのかもよくわかった。裁定取引に特化したファンドの成績がなぜ落ちたのかも理解できた。バブル崩壊について検証したより学術的な書籍もあるが,興味をもたれた読者は,とりあえずこの小説から入るとよいと思う。小説フィクションといいながら,誰が誰だかわかりまくりなのだから,きっとここに描かれたとおりなのだろう。ここで学んだことを教訓に賢く生きたいものだ。それにしても桂木英一かっこよすぎ!
巨大投資銀行 上
2020/09/08 06:47
大学3年生の必読書
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コアラ - この投稿者のレビュー一覧を見る
投資銀行の業務が詳しく書かれている。「トップ・レフト」は出世作であり,まだまだ邦銀(著者の元職場)に対するわだかまりが垣間見られたが,本書では外資の投資銀行勤務者の生活が淡々と描かれている。そして元一流金融マン(だったのだと思う)らしくスワップなどむずかしい金融商品の説明が詳しい。金融の勉強のためにも業界に興味のある学生は読むとよい。就職してからこんなはずではなかったではすまないからだ。評者は,「やっぱ給料に惹かれて銀行に就職しなくてよかった」と思った。邦銀の理不尽,外銀の激務に較べたら評者が勤めていたなんちゃら総研なんて天国だった。
バブルが弾けたときのいきさつも詳しくて興味深い。ソロモンブラザーズがなんかやっととはきいていたが,裁定取引だったのか,ということで納得。10年くらい前まで裁定取引を主流にするファンドはとても成績がよかった。邦銀とかは理解していなかったからなのかと納得。それも今では価格差がなくなり成績が振るわない。投資先がなくて困りますね。とにかく,金融業に興味のある学生は,金融工学のむずかしい本に取り組む前に読むべし。