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寄港地のない船
その船はどこから来て、どこへ向かうのか。もはや知る者は誰もいない。巨大な宇宙船の内部で、いまや人間たちは原始的な生活を営んでいた。かつて船を支配していたという巨人族、猛烈な勢いで繁茂する植物、奇怪な生物たち、そして〈前部人〉と呼ばれる未知の部族を恐れながら……。世界が宇宙船であることも、わずかに伝承に残っているのみだった。 ある時、狩人のロイは司祭マラッパーから、この船を支配するために世界の〈前部〉へ向かおうと誘われる。だが、仲間たちと〈死道〉へ旅立ったロイを待っていたのは思いもよらない出来事の連続だった。そして、彼が旅路の果てに見たものは――。 幻の傑作SF、待望の邦訳。
寄港地のない船
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寄港地のない船
2016/06/20 23:18
退廃の船に非凡の人、なのか
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
世代間宇宙船というのは、たしかに魅力的なフレームワークと言える。地球から太陽系外の惑星に向かう旅が何百年もかかるため、乗組員は宇宙船の中で世代を重ねて目的地に到達するというものだ。そのアイデアに惹きつけられるのは、時間的な、そして空間的な、つまり人間の繁殖が持続できるほどの巨大な宇宙船というスケールの大きさの持つロマンティックさであり、同時に計画の大きさゆえにうまくいかないだろうという悲観的な見通しの、二つの背反的とも言える感情を呼び起こすからだ。
このテーマには先行する作品もいくつかあったということであり、本作が書かれた20世紀中頃にはどうだったか知れないが、現代的見地からすると、実現されそうもないプロジェクトで、それはこのようなロケットが出発して何十年後かに開発される性能の改良されたロケットの方が、先に目的地に着いてしまうだろうから、そしてまたこのような冒険旅行になら人間よりも人工知能を送り込んだ方がずっと高い成功確率を見込めそうに思えるためである。
その不可能さゆえに、また想像される様々な困難に満ちた混沌ゆえに、この物語は魅力的と言えるだろう。予想通り、船内で何世代もの時間が経ち、人々は宇宙船の中の世界しか知らずに一生を終わる繰り返しの中で、宇宙船の目的は忘れさられ、自分たちの居場所の本当の姿さえ信じられなくなっていく。一方で設備は荒廃し、資源は尽きようとして、人々は自分たちの置かれる環境の理不尽さに、生きる意味を再び見出そうという欲求に目覚めるという、皮肉な一回りが訪れる。
住人たちのうちの幾人かは、突発的な行動の果てに、真実に再び近付いていく。人間の制御を離れた植物のジャングルをかき分けて、彼らは巨大宇宙船の中を、未知の驚異をくぐり抜けて旅する。そして徐々に目的に近づいて行きながら、同時にこの世界の危機も予感し始める。
そんな状況を果たして人は受け入れることができるだろうか。まして世界を救うなど。
すでに支配層にも、下層の人々にも、危機にあたって組織を先導し、リスクを読み取り、テクノロジーを最大限に操るような人間は存在しない。権力や破壊の衝動に憑かれた者、官僚的行動に嵌ったままの者、そのせめぎ合いをすり抜けるのは、知能や精神力では説明できない生命力を持つ人間、ちょどA.E.ヴァン・ヴォークトの登場人物のような者が現れて、混沌の中を一直線に駆け抜けるのだ。
世界の探求につれて、世界は、何度もどんでん返しを繰り返して真の姿を現して来る。その混乱を生き延びるには、確かに何か必要かもしれないが、生まれ持ったものでなくとも、その状況が人に産みつけていくものとも読める。もしかすると過去に大きな災厄があったらしいとする船内で、異様に知能の発達したネズミたちの存在のように、この当時の放射能に大して抱かれていた恐怖感の現れなのかもしれない。とはいえ、一人の英雄的な活躍があったとしても、この閉ざされた世界を救うことができるのか、その無常感がこのノンストップ活劇の裏に潜んでいる。
寄港地のない船
2017/03/13 21:30
久々の古典的SF
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Hyperion64 - この投稿者のレビュー一覧を見る
故人となったブライアン・オールディスの代表作が半世紀以上たって、ようやく手頃な文庫で入手できるとは嬉しい。
巨大な宇宙船で幾世代も経つうちに乗員の子孫たちが退化した、そんな状況下でのアンビバレントなストーリーだ。イギリス作家らしく安易なハッピー・エンディングは期待しないほうがいい。
陰うつで暗い人類の未来の話。それは今の人類の置かれた状況にも似ている。
寄港地のない船
2015/10/20 06:20
昔は好きだったんだが
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukiちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
オールディスといえば「地球の長い午後」。私のオールタイムベストの中でもかなり上位に食い込んでくる作品だ。
その作家の処女長編となれば、これは読まずにはおられまいて。
ハインラインの「宇宙の孤児」や、梶尾真治「怨讐星域」にも通じる宇宙船内の閉塞感が感じられて、それよりもヒュー・ハウイー「ウール三部作」のようあスリルとサスペンス(のかけら)もあり、これが60年も前の作品なのかと、びくりしてしまった。
物語としてはこなれていないが、実は宇宙船が今いる場所が…という設定には「そうきたか」とうならされた。
ジュブナイルとして読んだ方が良いのかも知れない。