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甲賀忍法帖 山田風太郎ベストコレクション
著者 著者:山田 風太郎
400年来の宿敵として対立してきた伊賀と甲賀の忍者たちが、秘術の限りを尽くして繰り広げる地獄絵巻。壮絶な死闘の果てに漂う哀しい慕情とは……風太郎忍法帖の記念碑的作品!
甲賀忍法帖 山田風太郎ベストコレクション
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甲賀忍法帖
2023/02/09 19:32
奇想・スーパースター編
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
伊賀と甲賀はライバルで仲が悪いみたいなイメージも一つあるけど、雇われて働くのが忍者なので、特に戦ったりする理由はないわけです。それが江戸幕府内の権力争いのために、双方10人ずつの忍者で勝ち負けを決めるという、天海僧正のしょうもないアイデアに柳生宗矩も服部半蔵も了としなければならない。
寛永御前試合のようなおもむきもあるが、忍者の戦いなので、お白洲で正々堂々ってなことにはならず、駿府城で双方の代表が10人の名前を巻物にしるした瞬間から暗闘が始まる。代表者が伊賀甲賀に帰るまでにも斃れる者があり、相手側の選手を知れば容赦なく襲う。最後に駿府に辿り着いた者が勝利者ということになろう。
驚きなのは、選ばれた忍者たちの忍術だ。身体能力が優れているとか、鍛錬によって技術が磨かれているといったレベルではない。言ってみれば、人体に対して幾何学的な空想を自由に働かせて可能となった忍術であり、そこはやはり当時「マゲモノのSF」と呼ばれただけの奔放さだ。なんというかもう怪人軍団同士の戦い。
そして伊賀甲賀それぞれの頭目の息子、娘が恋仲で祝言間近かというタイミングで、この対戦が行われたのが悲劇で、若い世代のリーダー同士は無意味な対立の解消の気運を作ろうとしていたところに、この対決が決まって両陣営とも闘志に火がついてしまった。むろんこの二人も戦わなくてはならない運命なのだが、果たして二人は恋する相手と本当に戦うことができるのか、という悲悲しい物語でもある。
忍者たちの群像の中から、最強であるこの二人がクローズアップされていくにつれて、もう読者は彼らがどのように戦って最期を迎えるのか、あるいは生き延びて新しい景色を見るのかばかりが気になってくる。奇態な忍者たちの姿さえ、もう背後の風景でしかなくなる。やはり陳腐なメロドラマには弱かったりするのだが、それも作者が空想のかぎりを尽くして練り上げた奇々怪々な戦いとの対比で浮き出てくること。その二人もまた魔的な忍術の使い手であるわけだから、驚異とロマンスが相乗効果をあげているのが、この作品の魅力なのかもしれない。