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ジーキル博士とハイド氏
著者 スティーヴンスン (著) , 村上博基 (訳)
街中で少女を踏みつけ、平然としている凶悪な男ハイド。彼は高潔な紳士として名高いジーキル博士の家に出入りするようになった。二人にどんな関係が? 弁護士アタスンは好奇心から調査を開始する。そんな折、ついにハイドによる殺人事件が引き起こされる! 高潔温厚な紳士と、邪悪な冷血漢――善と悪に分離する人間の二面性を追求した怪奇小説の傑作であり、「悪になることの心の解放」をも描いた画期的心理小説、待望の新訳!
ジーキル博士とハイド氏
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ジーキル博士とハイド氏
2010/01/12 17:32
ホラー、ミステリーの古典。人物関係の謎解きと、人格崩壊の恐怖。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
映画になったり児童文学に翻訳され、よく知ってはいるけれど原作は翻訳も読んでいない「ジーキル博士とハイド氏」。新訳が出たのを機会に読んでみると、やはりいろいろな発見があった。解説は東雅夫氏。
おおむねは予想通り、ジーキルとハイドという人物の関係についての謎を書いたミステリーであり、殺人や薬による変容の恐怖を描いたホラーであった。
予想外に短い。だが、一番予想外だったのはハイド氏が小柄で、外見もまったくジーキル氏と違う、というところである。舞台や映画では一人二役で演ずるイメージがある。ジーキルとハイドが「一人の人物」であることを強調する演出としてはそれが最適だったのだろう。そしてそのイメージが定着したのだ。(このあたりは、東雅夫氏の解説に詳しい。)しかし、考えてみれば一人二役で外見に共通性が残っているよりも、外見も変わってしまう方が「根源的な改変」の怖さが強い気がする。小柄なハイド氏が背の高いジーキル博士の服の袖や裾を捲り上げてきている姿は滑稽でもあるが。
短いが、細かな描写がとても丁寧である。明るい表玄関と、窓もない裏口側という建物は、解剖医ジョン・ハンターの家がモデルなのだそうだが、確かに実在した家屋の構造を知らないと描けないようなところもたくみに利用されている。ジーキルとハイドの行動が無理なく説明できるのである。
後半、謎解きとなるジーキル博士の手紙の部分がかなり長いが、ここの描写も丁寧で、前半の不可解な人物の与える怖さとはまた違う怖さである。薬で自分の「快楽を追求する」部分を分離して楽しむうち、薬の量を増やさないと聞かなくなる、無意識に人格が変わっていることがおき始める。どこやら「麻薬」の症状を描いているような怖さでもある。著者は薬もかなりよく知っていたのだろう。
上質な恐怖推理小説として、やはり一読の価値はあると思った。短いので是非読んでみていただきたい。もっとも「謎解き」の部分については、ジキルとハイドの関係はあまりにも知られてしまったので、出版当時の読者のように楽しむというわけにはいかないのが残念かもしれない。
ちなみに、翻訳者の解説によると最近は「ジキル」ではなく、日本語では「ジーキル」と表記されることが一般的だそうである。