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6件
散歩のとき何か食べたくなって
著者 池波正太郎 (著)
映画の試写を観終えて、銀座の〔資生堂パーラー〕に立ち寄り、はじめて洋食を口にした40年前を憶い出す。外神田界隈を歩いていて、ふと入った〔花ぶさ〕では、店の人の、長年変らぬ人情に感じ入る。時代小説の取材で三条木屋町を散策中、かねてきいていた〔松鮨〕に出くわす。洋食、鮨、蕎麦、どぜう鍋、馬刺から菓子にいたるまで、折々に見つけた店の味を書き留めた食味エッセイ。
散歩のとき何か食べたくなって
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散歩のとき何か食べたくなって 改版
2003/06/18 14:55
ぶらぶらぶらぶら
10人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:アベイズミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
東京に暮らして、わたしははじめて散歩というモノを知った。
フルサトには散歩というモノがなかった。歩くということは、いつも目的があった。畑に行く。田んぼに行く。誰かの家まで訪ねて行く。ぶらぶら歩いていれば、あの小さな村では、かなり人目を引いただろうし、だいたい大人も子供も年寄りもそんな人は見かけない。どんなに腰が曲がった年寄りだって、畑に行く。田んぼに行く。誰かの家まで訪ねて行く。そうやって目的地に向かって移動していった。それが常だった。だから景色だって、言うほど眺めちゃいなかった。
わたしが立ち止まって顔を上げて、すべてをぐるりと見渡したのは、それからずっと後の話。見渡して、そしていろんな事に気付いたのは、それからまた少し後の話。なくしてはじめて人はいろんな事に気付くというのは、いつものことで、これはまた別の話。またいつか話そう。
だから今でも、少し散歩は苦手かもしれない。ついつい買い物やら本屋やら目的地を作ってしまう。帰り道には、なにがしの戦利品を抱えたくなる。行く先も決めず、当てもなく、ただ、ぶらぶら。ぶらぶら、ぶらぶら。そんな風に、知ってる街も知らない街みたいに歩いてみたいと、思ってはいる。そして散歩の途中でお腹が減って、ふらっとなじみの店やらなじまない店やらにはいれたら。わたしは本当の散歩上手になれるのにと、いつも思う。
だから、散歩のとき何か食べたくなったら、わたしならコロッケ。肉屋のコロッケ。でも肉なんて探すかんじの、いものコロッケ。揚げたてより、むしろ少し冷めたくらいの。もしくは団子。みたらしのあまじょっぱいたれがたっぷしかかってるヤツ。甘い黒ゴマのたれがどろっと団子に絡んでるヤツ。さもなくば甘栗。天津甘栗。千円の袋。じっと見つめるとおじちゃんが一つ二つおまけしてくれるような店で。そしてやっぱり袋を受け取って、それがほんのりでも温かくなくっちゃあ。歩きながら、ぷちんぷちんと爪を入れる。隣で話す人の話もそこそこに、ぷちんぷちんと爪を入れる。おさえに総菜パン。コッペパンに挟まれているのは、コロッケ良し、卵良し、焼きそば良し、ジャムバター良し。もうね、それを幾つになっても歩きながら食べる。「歩きながら食べるのなんか犬だってやりませんよ」と言っていたのは東海林さだおさんだったように思うけど。犬以下で結構。買うなり食べる。人気のない小道で食べる。できれば二人で食べる。
全く、それはそれで楽しいのだけど、わたしはちっとも散歩上手にはなれそうにない。何てったって、格好が良くない。
「散歩のとき何か食べたくなって」
粋なタイトル。粋な本。散歩上手とはこの人をおいて他にない。何てったって格好が良い。銀座から始まって、京都や信州、フランスまでぶらぶらぶらぶら。そして、小腹が空いたらふらっと店を訪ねて、土地土地の美味い物を気取らず食べる。この本にはそんな池波さんが訪ねた店の名が惜しげもなく載っている。今も残っている店は、住所や電話番号までと、さながらグルメマップのようでもある。
それでも、決してそうではない。そういう本にはなり得ない。池波正太郎が食べ物について語るとき、懐かしさや愛おしさや寂しさや憧れやすべてが詰まっているから。その上でさらっと、あの店のあの味がいいよと、こともなげに飾りもせずに言うから。だからわたしは眺めるしかない。その完成された風景を、池波さんごと。だから、この本を何度読み返そうと、あの店にどんなに憧れようと、わたしは店を訪れることはないと思う。おそらくきっと。
それは池波さんがいまなお住む、すべて懐かしい情景だから。
散歩のとき何か食べたくなって 改版
2024/04/30 15:23
読みやすいです
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:a - この投稿者のレビュー一覧を見る
池波正太郎さんの本を片手にさまざまな料理屋を回ったことがあります。これも池波さんの著作故に同じ店が紹介されておりますが、懐かしくなりました。
2022/09/14 21:58
今昔の名料理
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:食べ道楽 - この投稿者のレビュー一覧を見る
池波正太郎氏はエッセイも面白い。この方の描く料理には味の想像までつけることができる。鬼平などにもある通り、料理の知識の豊富さはさすが、自他共に認める食通というだけある。