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16件
塩狩峠
著者 三浦綾子 (著)
結納のため、札幌に向った鉄道職員永野信夫の乗った列車は、塩狩峠の頂上にさしかかった時、突然客車が離れて暴走し始めた。声もなく恐怖に怯える乗客。信夫は飛びつくようにハンドブレーキに手をかけた……。明治末年、北海道旭川の塩狩峠で、自らを犠牲にして大勢の乗客の命を救った一青年の、愛と信仰に貫かれた生涯を描き、生きることの意味を問う長編小説。
塩狩峠
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塩狩峠 改版
2010/05/12 10:33
物事の背景を探り、聖書の意味を三浦綾子の小説から知る。
17人中、17人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:浦辺 登 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この小説は実際に起きた鉄道事故を基に書かれたものだが、めったにこの著者の作品を手にしないのに、この作品を読もうと思ったのは明治時代に起きた「お召し列車事件」という別の列車事故を考えてみたいと思ったからだ。
北海道塩狩峠で明治42年2月28日、暴走する列車がカーブで転覆しそうになる巨大事故を一人の鉄道員が自らの命を捨てて防いだ。片や、「お召し列車事件」は明治44年11月10日に明治天皇が九州巡幸にあたり乗車予定であった列車が脱線事故を起こし、死傷者は居ないにも関わらず、その管理責任を問われて鉄道員が鉄道に飛び込んで自殺をしてしまった。
乗客の生命を守るために自らの命を捨てた鉄道員、管理上の不手際から自責の念に駆られて自殺してしまった鉄道員。ともに鉄道に生きる身でありながら、その二人を取り巻く人々の感情の違いを知りたかったからである。
この作品はキリスト教信仰に生きる鉄道員の自己犠牲の姿を描いている。まさに、キリスト教信仰に目覚めた、三浦綾子にしか書けない内容の小説だった。
「お召し列車事件」では、飛び込み自殺をした鉄道員の顕彰碑建立の意見が出たことに対して、「福岡日日新聞」という地元紙に九州帝国大学総長の山川健次郎が意見記事を出したことから紛糾した。反天皇ともとれる内容であったために問題とされたが、山川健次郎の物理学会における功績の大きさもあってか、不問となり、後に東京帝国大学の総長に再就任までしている。
もしかしたら、山川健次郎は明治42年の事件を知っていて、あえて、バッシング覚悟で意見記事を出したのではないかと思える。それも、山川健次郎の妹でありクリスチャンの大山捨松(薩摩閥の大山巌の夫人)から塩狩峠での鉄道員の自己犠牲を聞いて知っていたのではないかと推察する。明治初年、朝敵となった会津若松の白虎隊生き残りが山川健次郎だが、生命の尊さ、自らの生命を捨てるのは他者のためという信念を持っていたからではと考える。
本来、小説についての評を記さなければならないのだが、山川健次郎が日本全国を敵に回してでも意見を曲げなかった背景を知るには、この小説を読むしかないと思った次第だが、山川健次郎はアメリカ留学時代に聖書を読んでいたのか、などとも。
日常、聖書に触れる機会が皆無に等しいため、山川健次郎の心象風景を洞察するため、三浦綾子のこの小説を選んだ。
塩狩峠 改版
2017/05/31 21:11
絶対最強、愛のうた。
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たけぞう - この投稿者のレビュー一覧を見る
三浦綾子さんは信仰に生きた人で、キリスト教を扱った作品が多い。
この物語も、明治四十二年に北海道の塩狩峠で起きた、
クリスチャンの青年の行動を下敷きにしている。
旭川六条教会のつながりで、三浦さんはある方の信仰の
手記を目にし、長野政雄さんという方の生涯を知って
深く激しい感動を覚えた。
本人の希望で日記などの主だった記録は焼却されており、
周りに残っていた断片情報を聞き取りながら人物像を
作り上げたようだ。だからこの作品は間違いなく小説だし、
創作部分も多いのだが、鬼気迫るとはまさにこのことであった。
少年時代、祖母と父に育てられ、実の母は死んだと
聞かされていた永野信夫。東京の本郷の屋敷住まいだ。
きかん坊で士族のプライドを祖母に植え付けられた少年は、
しかし父を失望させる。父の気持ちが理解できない永野。
祖母が突然の死を迎えたあと、ある日、母と名乗る女性が
現れた。しかも少女を連れ、妹だという。
聞けば、キリスト教の信仰が原因で祖母から絶縁状態に
されていたらしい。しかし永野は納得がいかない。
実の子どもと別れてまで選ぶキリスト教なんてとんでもないと。
永野は、ことあるごとに信仰の不可思議さに戸惑いながら
成長していく。小学校で、無二の親友となる吉川と
足の悪い妹との出会いも、永野の人格形成に
大きな影響を与える。
明治の頃は、キリスト教はヤソと呼ばれ、忌み嫌われた時代。
その中で、真実とは何か、こころとは罪とは死とはなど、
人間の根源に関わる思索を深めていく永野の人間性に、
知らず知らず惹きこまれていくのである。
だから……泣いた。泣いたよ。
泣き系小説とか、恋愛小説とかいろいろ読んできたが、
なんというか、この作品は質が違った。
どっちが上とか書いたら作者から怒られそうだが、でも、
次元の違いを見せつけられた気がするんだよね。
大事な情報を一つ。裏表紙の紹介文は読まないほうがいい。
氷点も同じだったのだが、新潮文庫の古い作品は、
どうも裏表紙の紹介を書き過ぎているきらいがある。
注意されたい。
塩狩峠 改版
2016/12/03 18:30
何となく想像できた
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くまぜみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
結末であった。実話を基にしたフィクションであるが、心に響いた。のめりこめた。