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7件
薬指の標本
著者 小川洋子 (著)
楽譜に書かれた音、愛鳥の骨、火傷の傷跡……。人々が思い出の品々を持ち込む〔標本室〕で働いているわたしは、ある日標本技術士に素敵な靴をプレゼントされた。「毎日その靴をはいてほしい。とにかくずっとだ。いいね」靴はあまりにも足にぴったりで、そしてわたしは……。奇妙な、そしてあまりにもひそやかな、ふたりの愛。恋愛の痛みと恍惚を透明感漂う文章で描いた珠玉の二篇。表題作ほか「六角形の小部屋」収録。
薬指の標本
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薬指の標本
2021/03/08 16:44
仄暗い愛
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くみみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
小川ワールド炸裂のスローで靄がかかったような薄ぼんやりとした世界で繰り広げられる、歪な想いを紡いだ中編2編。独特な暗い作品が多いフランスで映画化された理由がわかる、とにかく掴み所のない曖昧に流れる感じが堪らない。個人的には表題作より『六角形の小部屋』の方がさらに独特な空気で好き
薬指の標本
2022/01/02 18:28
不思議な余韻に浸れる2つの作品
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
収録されているのは表題の「薬指の標本」と「六角形の小部屋」の中篇2作、どちらも小川洋子氏らしい不思議な余韻が残る作品、「薬指の標本」は標本作成という不思議な仕事を手伝うことになった女性が主人公、勤め先の白衣の男は何でも標本にしてしまう、変質者かとも思ったが、どうもそうではないみたいで主人公も彼のことが嫌いではないみたい、というよりひかれている。そして、ラストは彼女が標本してほしいと頼んだのは前の職場の作業中に欠けてしまった薬指、どうやって標本にするのかというと・・・、「六角形の小部屋」、大学事務員の女性が主人公、彼女がなぜか気になる女性をつけていくと、その先には不思議な六角形の小部屋を持つ家があって。もちろん同じような体験をしたことはないのだが、なぜか気になるという人をつけてみようとしたことはある
薬指の標本
2024/03/18 23:57
京極夏彦の『魍魎の匣』を思い出した
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:まいみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
左手の薬指を事故で切断された若い女性主人公が、標本技術士の弟子丸の元で事務員として働く物語。
弟子丸の元には様々な人物が標本にしてもらうものを持って訪れ、標本にした後は一体なんのために標本にしたのかと思うほど顧みる事もなく、試験管の中で保存液に満たされ弟子丸の元で保管され続ける。
物語は主人公の視点で語られているため弟子丸の内心はあまりよく分からないが、浴場で語った朽ちる事を惜しむ様子から、標本をもっとも必要としている人物は弟子丸なのではないかと感じた。登場人物が持ってきた品々そして付随する想いは、標本にした時点で弟子丸のものになってしまうのだと思う。捨てたいが捨て場がない、大事だったが思い出したくない、そんなものをその感情ごと標本にしてしまって閉じ込めて弟子丸に移譲する。これはそんな物語であると同時に、弟子丸が朽ちることなく保管したいと望んだものを標本に閉じ込める物語なのだと思う。主人公の人物名は出て来ないが、彼女の名はきっと薬指だろう。
もう一つの短編も感情を何かに委ねるという部分は似通っているが、弟子丸と比べるとやり方が良識的に思えた。