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6件
天平の甍(新潮文庫)
著者 井上靖 (著)
天平の昔、荒れ狂う大海を越えて唐に留学した若い僧たちがあった。故国の便りもなく、無事な生還も期しがたい彼ら――在唐二十年、放浪の果て、高僧鑒真を伴って普照はただひとり故国の土を踏んだ……。鑒真来朝という日本古代史上の大きな事実をもとに、極限に挑み、木の葉のように翻弄される僧たちの運命を、永遠の相の下に鮮明なイメージとして定着させた画期的な歴史小説。
天平の甍(新潮文庫)
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天平の甍 改版
2008/07/11 21:01
先人の苦労を偲ぶ(しのぶ)
15人中、13人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kumataro - この投稿者のレビュー一覧を見る
天平の甍(てんぴょうのいらか) 井上靖 新潮文庫
10年ほど前、仕事でむしゃくしゃしていた早朝にテレビで「そうだ、奈良へ行こう」というコマーシャルを聞いて、数日後に奈良を訪れました。それ以来毎年、年に数回奈良県を訪れるようになりました。奈良は京都と違って、広々としていているところが気に入っています。
高松塚古墳がある明日香村の畑を見ると小学生だった頃の想い出がよみがえります。畑にはキャベツ、キャベツの上には青虫、青虫はさなぎになってやがて綺麗なチョウチョになる。天高くひばりが舞い上がり空中でさえずる。
天平の甍とは中国の高僧鑑真がつくった唐招提寺の瓦をさすのだと思います。本の中に書かれているお寺さんには行ったことがあるところがたくさんあります。時代は奈良時代です。西暦700年代。日本の僧侶たちが遣唐使で中国へ行き鑑真を日本へ連れ帰るための苦労辛苦が記述されています。今でこそ飛行機で簡単に行き来できますが、私もこの本を読んで初めて知ったのですが、遣唐使は命がけの船旅であり、中国へ行くと15年ぐらい帰って来ることができなかったり、その行程で亡くなる者、帰国できず中国で生涯を終える者が出てくる。私は先人の苦労に感謝したのでした。
サラリーマンの出世争いのようでもあります。歴史教科書のように事実経過が並べられていきます。しいて言えばドラマがありません。鑑真を日本へ送り届けるために努力した興福寺の栄叡(ようえい)の死は悲しい。
諸外国と日本の交流が途絶えてしまったのは、江戸時代の鎖国制度の影響であったことがよくわかります。
人が死亡した記述がピンときません。「物故する(ぶっこする)」「葬る(ほうむる)」「薨る(こうじる)」
わたしはこれからも何度も奈良へ足を運ぶでしょう。
天平の甍 改版
2008/12/24 20:03
井上靖の最高傑作のひとつ
10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ベストビジネス書評 - この投稿者のレビュー一覧を見る
井上靖の最高傑作のひとつ。歴史版だ。井上靖の著作は全部読んでいるが、この本にも井上靖の哲学がありありと出ている。永遠と瞬間そして独特の厭世観だろう。この世に生まれていったいなにをすればいいのか。いったいなにが価値のある行為なのだろう。悠久なる時のながれにおいて個々人の行為はどういった意味をもつのだろう。ちっぽけな人間の存在、けれどもなにか時を越える行為があるのではないか。数名の留学層の生き方を通じて読者にじっくり考えさせてくれる。
天平の甍 改版
2021/07/26 22:15
入唐僧:普照を中心に描いた歴史書
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:岩波文庫愛好家 - この投稿者のレビュー一覧を見る
遣唐使と言えば、遣隋使の時代の後にあった使い・・。第10回といった程、頻度高く渡唐します。本書はその遣唐使に於ける主人公:普照を中心として描かれた歴史小説です。
本書を書き上げるに於いて井上靖氏が参考にしたであろう学者への投げ掛けや、膨大な文献資料をバックボーンにしたであろう事は容易に想像がつきます。
本書では鑑真が登場人物として出てきますが、決して主人公ではなく、あくまで普照が中心です。その普照の心の葛藤や心理描写が秀逸です。普照を取り巻く他の入唐僧との絡みを含め、歴史小説として深入り出来る良書です。