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8件
レパントの海戦(新潮文庫)
著者 塩野七生
西暦1571年、スペイン王フェリペ二世率いる西欧連合艦隊は、無敵トルコをついに破った。コンスタンティノープルの攻略から118年にして、トルコの地中海世界制覇の野望は潰えたのだ。しかし同時に、この戦いを契機に、海洋国家ヴェネツィアにも、歴史の主要舞台だった地中海にも、落日の陽が差し始めようとしていた――。文明の交代期に生きた男たちを壮大に描く三部作、ここに完結!
レパントの海戦(新潮文庫)
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レパントの海戦 改版
2022/08/20 13:01
前半=やや退屈、後半=迫力とともに一気に盛り上がる
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Haserumio - この投稿者のレビュー一覧を見る
前半の関係国間の調整(ごたごた)の描写は読みが進みませんでしたが、後半の戦闘シーンの描写と緻密さは迫力満点で、映像をみているようでした。三部作の掉尾を飾る傑作。
「若者のいつもの青白い顔は、その少し前からだんだんに赤味をおびはじめていたのだが、立ち上がったときは、燃えるような顔色になっていた。そして、出陣と決めよう、と言った。作戦会議の空気は、この一言でさすがにどよめいた。」(155頁)
「ヴェネツィアの武将は、まず、生きたままで全身の皮膚をはぎ取られた。そして、そのままの身体で、海中に何度となく突き落とされる。それでも息の絶えなかったブラガディンが休息に恵まれたのは、首が切り落とされてからだった。」(180頁)
「海上戦というよりも、もはや陸上での戦闘に近かった。」(203頁)
「敵味方ともガレー船同士が櫂をかみ合わせてしまえば、海上であろうと、そこには固定した戦場が出現する。戦闘も、この戦場でくり広げられる白兵戦しかありえない。」(214頁)
「一千年の歴史を誇るヴェネツィア共和国も、一四五三年のビザンチン帝国の滅亡によって歴史の主人公に踊り出たトルコ帝国も、レパントの海戦を機に、水防の一途をたどることになる。両国の力が衰えただけが、原因ではない。両国の活躍の場であった地中海の重要度が、十六世紀を境にして減少したからである。」(287頁)
「国家の安定と永続は、軍事力によるものばかりではない。他国がわれわれをどう思っているかの評価と、他国に対する毅然とした態度によるところが多いものである。ここ数年、トルコ人は、われわれヴェネツィアが、結局は妥協に逃げるということを察知していた。それは、われわれの彼らへの態度が、礼をつくすという外交上の必要以上に、卑屈であったからである。ヴェネツィアは、トルコの弱点を指摘することをひかえ、ヴェネツィアの有利を明示することを怠った。結果として、トルコ人本来の傲慢と尊大と横柄にとどめをかけることができなくなり、彼らを、不合理な情熱に駆ることになってしまったのである。」(291頁)
本作では、バルバリーゴとフローラの情事も戦争の悲しさや無情さ(非情さ)などを読者に刻印して印象的でしたが、そういえば前二作も同様の女性が登場しています。確認したわけではありませんが、この辺は作者の演出であり、史実ではなかったのでしょうね。
レパントの海戦 改版
2015/06/30 17:06
現代日本のかかえる問題との酷似
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コーチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
作者のあとがきには、ホメロスの『イーリアス』のような戦史を書きたかったことが綴られている。5時間足らずの間に1万6千人の死者を出した戦闘をダイナミックに描いた決戦の場面を読むと、それもうなずかれる。ヴェネツィア、スペインを中心とするヨーロッパ諸国が結成した連合艦隊とオスマン海軍が戦い、ヨーロッパ世界がトルコから地中海の制海権を奪い、それを衰退へと向かわせるきっかけとなった1571年のレパントの海戦の物語がこれである。
塩野作品を読むといつもこうなのだが、本作品も、国の平和を守るために何が必要かについて深い洞察をあたえてくれる。ヴェネツィア領のキプロスに攻撃をはじめたオスマン帝国。それへの対応に、当初ヴェネツィア政府は右往左往をする。30年におよんだトルコとの平和が、彼らの臨機応変な態度を狂わせ、「平和は終わったのだということを人々にさとらせること」はむずかしかったという。今の日本と同じ「平和ボケ」である。だがそのあとがヴェネツィアと日本との違いかもしれない。
ヴェネツィア政府は、法王ピオ10世に働きかけ、トルコとの戦いがキリスト教対イスラム教の戦い、聖戦であると主張した。それに動かされた法王の号令のもと、スペインその他の諸侯が結集した。法王の求めということでしぶしぶつきあったスペイン王フェリペ2世の遅延工作に対しても強硬策と妥協を巧みに使い分けながら、ヴェネツィアは対トルコ戦争の準備をすすめる。
1950年に行われた遠征は、ヴェネツィアとスペインの不協和から失敗に終わるものの、翌年はその反省にもとづいて、フェリペ2世の弟ドン=ホアンを総司令官として新たに連合艦隊が結成された。ヴェネツィア軍がスペイン人の配下につくというヴェネツィアとしては、スペインに妥協した形だが、この総司令官がヴェネツィアにとってはうれしい誤算となるめざましい統率力を見せ、連合艦隊を大勝利にみちびく。
連合艦隊はその後、結局キプロスを取り返すことはできず、この勝利がただちにトルコの衰退に拍車をかけたわけではないが、ヴェネツィアとしては、トルコの侵略を、軍事と外交によりみごとに防いだわけである。
大勝利とはいえ、連合艦隊側の損失も大きかった。小説の形式をとる本書の主人公として登場するヴェネツィア軍参謀のひとりバルバリーゴも、この戦いで死んだ一人であった。気むずかしいヴェネツィア艦隊総司令官ヴェニエルと諸国の調整役としての役割をよく果たした陰の功労者の命も犠牲になったのだ。物語は、彼の愛人とその息子が、祝勝に沸くヴェネツィアの町を歩く場面で終わる。悲しみに打ちひしがれた母を、息子はこうなぐさめる「母上、あの方は勝った戦いの指揮官として亡くなられたのです。」
強大な敵を相手とする場合、外交を通じて他国の協力をとりつけ、ときには妥協もする。いざ戦さとなれば身の危険などかえりみず戦う...国を守るということはこういうことである。そして、国を命がけで守ってくれた者を心から敬い、誇りに思い、彼らにかわってこれからは自分が祖国を守ろうと誓うことが、残された国民の義務である。
安保法制の審議で日々、憲法解釈、安全確保といった低レベルの議論に明け暮れる国会議員はこれを読んで何かを感じ取れ!そして祖国防衛という大義に立って仕事をせよ!と言いたい。
レパントの海戦 改版
2023/05/27 15:24
塩野七生氏の歴史小説は勉強にもなります。
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:トマト - この投稿者のレビュー一覧を見る
イタリア在住の塩野七生氏の描かれる歴史小説はよく読みます。
歴史小説の中には、フィクションが多すぎて全くの別の話になってしまう作家さんのもありますが、塩野七生氏の歴史小説は史実に沿っていてとても読みやすく勉強にもなります。史料を大量に読み込んだうえでの小説だからでしょう。
この本は、二度読んでいます。それぐらい、いい本です。

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