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13件
東京都同情塔
著者 九段理江
ザハの国立競技場が完成し、寛容論が浸透したもう一つの日本で、新しい刑務所「シンパシータワートーキョー」が建てられることに。犯罪者に寛容になれない建築家・牧名は、仕事と信条の乖離に苦悩しながら、パワフルに未来を追求する。ゆるふわな言葉と実のない正義の関係を豊かなフロウで暴く、生成AI時代の預言の書。
東京都同情塔
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東京都同情塔
2024/01/24 22:07
わたしの感想がそのまま本書の中に
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゆな - この投稿者のレビュー一覧を見る
ネタバレ。
103ページ
税金を使ってでも社会のお荷物を合法的に閉じ込めて「劣等」な遺伝子を長期的安楽死に追いやるための施設
100ページ
F××××××××××××CK!!!
なーにがシンパシータワーだよと思いながら読み進めていたら、終盤に差し掛かった箇所にちゃーんと共感できる言葉が書いてある。
主役であるマキナサラだって本当はそう思ってる。だけど社会的に、特にサラのような影響力の高い人物はそういうことを口にしてはいけないのだ。なんて息苦しい。
83ページ
「私には分かるの。それについて一度でも口を開いたらきっと、言うべきじゃないことを言ってしまう。だから言わせないで。言うべきことじゃないことを私は言うことができない。誰も傷つけるべきじゃない。」
すべてが完璧ゆえにやや傲慢で傍若無人なマキナサラにまでこんなことを言わせる始末。
仕事でも日常でも、弱者や配慮すべき対象に苦しめられている人にはおすすめ。
序盤は生ぬるい社会の空気感に本を床に投げつけたくなるが、中盤に登場するマックスの言葉やマキナサラ(の心中)に首がもげるほど頷きたくなる。
東京都同情塔
2024/02/29 17:27
この小説の読み方
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第170回芥川賞受賞作。(2024年)
なんといっても、この作品の背景設定が秀逸である。
今ではほとんど記憶にも残っていない2021年に開催された東京オリンピック。その遠い記憶の中に、国立競技場の設計問題で一度は採用されかかったザハ・ハディド案があったことを逆手にとって、この作品では彼女の設計した国立競技場が建っているという設定である。
もうその時点で、作者九段理江さんの勝利といえるだろう。
さらに、「東京都同情塔」というタイトルの、韻のいい言葉の、それでいて不気味さは、実はこの塔が「新宿御苑に新しく立つ刑務所」の名称だというのだか、なんともいいしれない緊張感をもたらす近未来小説でもある。
これらの虚構の建物の間に立つのは、「東京都同情塔」の設計を行った女性建築家であるが、
彼女がこぼし続ける言葉は、これらの建造物に匹敵するような言葉の氾濫である。
溢れる続ける言葉の整理のために、彼女が親しくする美青年が必要だったようにも思えるし、この美青年こそ、今回の受賞作で話題となった生成AIの姿にも見える。
時に難解にも感じるこの作品ですが、芥川賞選考委員の「選評」を読んで、すっきり入ってきたのは川上弘美委員のこんな言葉だった。
「作者は正解をだしてほしいのではないからです。作者はたぶん、ただ、考えてほしいのです。作者と違う考えでもいいし、いっそのことまったく関係のないことを考えるのでもいい。でも、考えてみて、と」。
この言葉をたよりにしてこの小説を読むと、随分たすかるはずだ。
東京都同情塔
2024/03/07 16:11
芥川賞受賞作品として久しぶりに面白いと思った
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:nekodanshaku - この投稿者のレビュー一覧を見る
言葉と現実とが乖離している現代社会、それはそれは昔から、そうであったかもしれない。多様性を認め合いながら共生することは、とても素晴らしいことに違いない。けれど、どのような異論も認められないほどの、圧倒的な破壊である。一市民が破棄に対してできることは、破壊後の新しい世界のルールを誰よりも早く覚えて、適応することしかない。犯罪者を不幸な生い立ち、環境下で過ごして犯罪を起こさざるを得なかった人々、ホモ・ミゼラビリスと呼び、良い移住空間施設「東京都同情塔」に収容する近未来で、頭の中の言葉と外の言葉が交錯する。