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4件
精神現象学
著者 G.W.F.ヘーゲル , 熊野純彦
感覚的経験という最も身近な段階から、数知れぬ弁証法的過程を経て、最高次の「絶対知」へと至るまで──。精神のこの遍歴を壮大なスケールで描き出し、哲学史上、この上なく難解かつ極めて重要な書物として、不動の地位を築いてきた『精神現象学』。我が国でも数多くの翻訳がなされてきたが、本書は、流麗ながら、かつてない平明な訳文により、ヘーゲルの晦渋な世界へと読者をやさしく誘う。同時に、主要な版すべてを照合しつつ訳出された本書は、それら四つの原典との頁対応も示し、原文を参照する一助となす。今後のヘーゲル読解に必携の画期的翻訳、文庫オリジナルでついに刊行。【※本電子書籍版には、紙書籍版本文の上欄、下欄に付した4つの原典(グロックナー版全集第二巻、ホフマイスター版、ズールカンプ版全集第三巻および大全集版〔アカデミー版〕)とのページ対応は含まれません。】
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2018/12/13 15:31
明晰流麗な邦訳
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ponto - この投稿者のレビュー一覧を見る
カント三批判書、存在と時間などの邦訳を次々に刊行してこられた熊野純彦氏による新訳。きわめて明晰で読みやすい。読みやすさの理由の一つは、アン・ジッヒ、ヒュール・ジッヒ等、文脈に応じてきめ細かく含意を変える用語について、単調に即自、対自等の訳語を割り当てるのではなく、その都度柔軟に訳し分けるとともに、ていねいに原語を指示するルビを振っていることにある。また訳注は原文を引用して訳者の読解を簡潔に示したものが多く、大いに参考になる(原文はウェブから無料でDLできるので、それと照らしあわしながら読む上でもこうした訳注は役立つ)。訳注は各節末尾に置かれており、本文を読み進める上で巻末に目を通す手間に煩わされることもない。そして何と言っても流麗な訳文が見事だ。原文を精確にたどり、安易な意訳に流れていないにもかかわらず、一読して著者が何を述べているか明確にわかるレベルの邦訳が、ようやくこの書物に登場したという感動を覚える。ぜひ手にとって見られることをお薦めする。初めて本書を読まれるかたは何と幸運なことだろう。しかし、すでに他の邦訳で本書を読まれたかた、原書を参照して読んでこられたかたにも多くの発見があるに違いない。間違いなく日本の今後のヘーゲル研究に甚大な影響をもたらす訳業だ。
精神現象学 下
2018/12/18 13:17
原文の明晰さを甦らせる翻訳
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ponto - この投稿者のレビュー一覧を見る
本下巻に収められた最後の2章(「宗教」「絶対知」)は、従来の邦訳で読んでも十分におもしろい。いっぽうこれまでとりわけ難解に感じられたのは「精神」章だった。しかし、熊野訳であらためて同章を読み、霧が晴れるようにその議論の全体像を見通すことができた。頻出するタームがコンテクストに応じてていねいに訳しわけられていること(むしろこれが原文を精確に再現する効果を高めている)、練り上げられた訳文、いくつかのパラグラフごとに置かれた端的な小見出しのおかげで、一気に読むことができたおかげだと思う。この新訳には訳者による本文解説は含まれておらず、読解に関してはこれを読者に委ねる方針を取っている。いっぽう、数パラグラフごとに入る小見出しが、簡単な要約の役割を果たす。巻末には小見出し一覧が索引として置かれているので、後から複数箇所に繰り返し現れる共通論旨(たとえば、カテゴリーやことがらそのものをめぐるそれら)をたどる際などに便利である。この翻訳によって新たに教えられたことがとても多く、今後も長く参照していくことになりそうである。
精神現象学 下
2020/04/16 10:03
ヘーゲル独自の理論を述べた難解で有名な名著です!
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、観念論の立場に立ち、意識から出発しながら、弁証法によって次々と発展を続けることによって現象の背後にある物自体を認識し、主観と客観が統合された絶対的精神になるまでの過程を段階的に記述したヘーゲルの代表的著作です。カントの認識と物自体との不一致という思想を超克し、ドイツ観念論の先行者であるフィヒテ、シェリングも批判した上で、彼独自の理論を打ち立てた初めての作品として知られ、難解ではありますが、多くの哲学者に影響を与えた貴重な名著です。ちくま学芸文庫では、上下巻2巻シリーズで刊行されており、同巻はその下巻です。「死を避け、荒廃から身を清く保つ生命ではなく、死に耐え、死のなかでおのれを維持する生命こそが精神の生命である」という彼自身の言葉の中に彼の思想が詰まっているとされる名著を新訳で読んでみられては如何でしょうか。