- みんなの評価
9件
あ・うん
著者 向田邦子 (著)
つましい月給暮らしの水田仙吉と、軍需景気で羽振りのいい中小企業の社長、門倉修造との友情は、まるで神社に並んだ一対の狛犬のように親密なものだった。門倉は、水田の妻たみに、長年ひそかな慕情を抱いてもいる。太平洋戦争をひかえた慌しい世相を背景に、男の熱い友情と秘めた思慕が織りなす、市井の家族の情景を鮮やかに描いた、向田邦子・唯一にして絶品の長篇小説。東宝による映画化では、高倉健が門倉、板東英二が水田、富司純子がたみを演じた。
あ・うん
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あ・うん 新装版
2009/06/02 20:13
人々の距離感
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くにたち蟄居日記 - この投稿者のレビュー一覧を見る
向田邦子の本を読むのは初めてだ。登場人物達の間の「距離感」が斬新だった。
戦前の主人公達である二人の男性の距離は21世紀の僕には聊か理解しがたい程の近さである。それは彼らだけではなく 彼らの家族も含めて その「密接」の「度合」には驚く。
但し そんな「密接さ」が 暑苦しくないことが 本書の不思議でもある。各人の「個」が溶け合っているような中にも 妙な涼しさがあり 一人一人の「個性」はきちんと立っており読後は非常に爽やかだ。
言うまでもないが 本作は作者が紡ぎだした ある種のファンタジーである。本作で展開される男同志の友情と勝手と その家族まで交えた複雑な愛憎関係を 女性が書き出したという点は 本書を読むにあたって見逃すことは出来ない。女性から見た男性の友情とはこういうものなのだろうかと 再度考え込んでしまう限りだ。
あ・うん 新装版
2004/01/03 12:59
男の友情と家族と恋心のドラマ
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:RIKA - この投稿者のレビュー一覧を見る
この物語は仙吉とその妻、たみと娘のさと子、門倉の妻と二号という家族を描いたもの。一介の月給取りである仙吉と、左うちわの実業家、門倉は奢り奢られるという関係を持ちながらも、無二の親友である。門倉は仙吉の妻、たみに思いをよせており、たみもまた、門倉に惹かれながらも、その気持ちを秘めたままにする。
向田邦子を読むと当時の家族がどういうものであったかがよくわかる。家族という表の顔を保ちながら、秘めた思いを貫く。現代であれば、それは偽善だとか不倫だという文脈で語られてしまう恋心が、昭和初期という時代、そして向田邦子の手にかかると温かく、真摯な人々のドラマになるから不思議だ。
たみのことを愛しながら、仙吉との友情や娘のさと子への親愛を貫いて行く門倉。父親と門倉という二人の男の生きかたと、その間で揺れ動く母を見ながら育っていくさと子。事業に手を出しては失敗する仙吉の年老いた父親、妾として子供を生む門倉の愛人など、人物が皆生き生きとしていて心地良い。リズミカルに結末まで導く手法はさすがホームドラマの名手といいたい。「あ・うん」で一つの組になる二匹の狛犬に例えられる男の友情と、昭和初期の家族の情景。読んだあともずっと心にしみてくるような名作である。
2024/10/03 15:14
仙吉はつらいよ
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ネタバレ
1980年にNHKで、2000年にはTBSでドラマ化、2008年には映画化もされているというのだが、私は見ていない。NHK版はいまでも「いいドラマだった」という言う人が多いらしい、そりゃ、この本で出来が悪い作品になる訳がない、仙吉が順にフランキー堺、串田和美、板東英二、門倉が杉浦直樹、小林薫、高倉健とやはり男ぶりからいうと仙吉より門倉ということは原作を踏襲している。タイトルのあ・うんというのは狛犬さんの{あ」と「うん」から来ている、仙吉の反りの合わない実父・初太郎が仙吉と門倉を評してつけたらしい。私は内向的で一人がいるのが好きな性格も災いして、彼らのような実の兄弟のような親友なぞというものを60年の人生でもったことがなくこの二人が羨ましくて仕方がない。作者はこの話をさらに続けたかったということだが・・・