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空白の天気図
著者 柳田邦男
昭和20年9月17日。敗戦直後に日本を襲った枕崎台風は、死者不明者3000人超の被害をもたらしたが、そのうち2000人強は広島県だった――。なぜ、広島で被害が膨らんだのか。原爆によって通信も組織も壊滅した状況下、自らも放射線障害に苦しみながら、観測と調査を続けた広島気象台台員たちの闘いを描いた傑作ノンフィクション。「(自分の著作の中で)自分自身で一番好きな作品はどれかと尋ねられれば、迷うことなく『空白の天気図』を挙げるだろう」(柳田邦男)
空白の天気図
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空白の天気図 核と災害1945・8・6/9・17
2022/05/27 14:09
気象観測に賭けた職員と原爆被害を描いたノンフィクション作家”柳田邦男”氏の代表作
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:YK - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和20年8月6日の広島での原爆の被害は、今も多くの被害者の方の証言などで紹介されています。一方、昭和20年9月17日に中国地方を襲った枕崎台風の被害については、それほど多くの証言が残されていません。枕崎台風では2000人を超える死傷者が出たのですが、その半分が広島県の被災者でした。これは、原爆被害によって広島地方の気象予報を十分に市民に伝えることが出来ず、台風の襲来を大多数の人が知らないままに被害が増大したためであることが本書で述べられています。
日頃当たり前のようにマスメディアから流れてくる天気予報ですが、戦時中は気象情報は軍事機密とされ天気予報は一切ありませんでした。しかし、気象観測に携わる気象台職員は長年継続してきた観測を途切れさせないように、空襲被害があっても何とか観測を継続してきました。8月15日の玉音放送を聞いた気象台職員が真っ先に考えたことが、戦前から途切れくことなく記録してきた気象観測のデータである「気象原簿」をGHQに接収されないように、いかに隠し通すか、ということであったということが紹介されていますが、気象観測に対する気象台職員の心意気をよく表しているエピソードだと思います。
本書は広島での原爆被害に遭遇した広島地方の気象観測に携わる人々が、どのように観測を継続し続けたかを詳細に伝えています。
枕崎台風被害では、広島地方が原爆による被害で十分な観測、予報が出来なかったことが原因となって被害を増大させたという意味で、原爆と自然災害の複合災害としてとらえられています。枕崎台風の犠牲者には、原爆被害の調査に赴いていた京都大学の医学部、理学部を中心とした観測班のエピソードも詳しく紹介されています。
また、本書後半では原爆投下直後に発生した強力な上昇気流によって生起された積乱雲による放射性物質を多量に含んだいわゆる”黒い雨”の被害についても触れています。”黒い雨”の降雨域を市民の証言から再現、調査するには気象台職員の丁寧な聞き込みと、的確な情報解析があったことも紹介されています。
かなり硬派なノンフィクションで読み応え十分です。初版からは40年以上経過していますが、ノンフィクション作家として著名な柳田氏の代表作であるとともに、ノンフィクションの名作として挙げられるのが納得できました。
空白の天気図 核と災害1945・8・6/9・17
2011/11/09 09:29
今年ほど、本書を読み継ぐのに相応しい年はないだろう
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:k-kana - この投稿者のレビュー一覧を見る
1945年8月6日、広島に原子爆弾が投下された。直後の9月17日には、その広島を大型台風(枕崎台風)が襲い未曾有の暴風雨と洪水をもたらす。原子爆弾による死者および行方不明は二十数万人に上った。枕崎台風による広島県下の死者及び行方不明は2千人を越えた。原爆被害の巨大な影に枕崎台風の悲劇が隠されているが、いったいなぜ広島で台風で多くの――それも上陸地の九州の犠牲者数(442人)をはるかに越える――人命が奪われたのだろうか。
著者は、単なる事件の発掘だけでなく、原爆による殺戮と台風による災害という二重の苦難の中で、人々がどのように生きあるいは死んでいったのかを知りたかったという。とりわけ著者の心をひきつけたのは、死傷者や病人が続出し、食うや食わずやという状況に置かれながらも、職業的な任務を守り抜いた人々が実に多かったという事実であった。官公庁の職員、大学の研究者、医師、軍人、……。
2011年3月11に発生した東日本大震災は、巨大津波による大被害をもたらしただけでなく、東京電力福島第一原子力発電所を壊滅的な状態に追い込んだ。放射能の危機にさらされた地域の住民は家をすてだ状態で避難を強いられることになった。
まさに昭和20年9月の広島の状況と重なる。原爆被災と1カ月余り後の枕崎台風災害という二重の災厄だった。いま直面しているのは、巨大地震・大津波による災害と原発事故という二重の災厄だ。
2つの災厄の態様は違うように見えるけれど、そこから読み取るべき問題の本質に変わりはないと著者はいう。人間が手をつけた核の危険性に自然界の脅威が重なることによって、人類史上前例のない巨大災害を引き起こした私たちの、便利さと効率優先のライフスタイルと価値観、経済と国策のあり方、ひいては文明のあり方が問われているということだ。
著者は、本書『空白の天気図』が作品のなかで一番好きだという。NHK退職直後の執筆でもあり愛着があるのだろう。綿密かつ膨大な取材に裏付けられた事実に圧倒される。ノンフィクションとして一気に読み進ませる迫力がある。今年ほど、本書が新たに読み継がれるのに相応しい年はないだろう。
空白の天気図 核と災害1945・8・6/9・17
2023/08/01 05:31
原爆台風被害
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:七無齋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
知られざる広島の原爆投下直後の昭和20年9月17日に起きた台風被害についてわかる限りの報告。諸説風に書いているため実態の研究成果としてはわかり難いことも阿ある事ながら、その手法の理由は後書きにするされている。