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5件
深海の使者
著者 吉村昭
インド洋を横切り、アフリカ大陸を回りこんで大西洋を北上する3万キロの隠密行!
第二次大戦中、五回に渡って行われた遣独潜水艦作戦の全貌を描いた著者最後の戦史小説
太平洋戦争勃発後、連合国側に陸路・海路を封鎖され、日本と同盟国ドイツとの連絡は途絶した。この苦境を打破するため、海軍は潜水艦を単独でドイツに派遣する“遣独潜水艦作戦”を敢行した。
マラッカ海峡を抜けてインド洋を横断し、アフリカ大陸を南下、喜望峰を回りドイツ占領下フランスの大西洋岸の港まで、はるか3万キロを連合国側の厳重な対潜哨戒網をかいくぐって往復するという、過酷極まりない作戦。
伊30、伊8、伊34、伊29、伊52。五次に渡る作戦の中で、無事に日本に帰還したのは第二次の伊8一隻に過ぎなかった。
「文藝春秋」連載中から大きな反響を呼び文藝春秋読者賞を受賞。そして本作が著者最後の戦史小説となった。
解説・半藤一利
深海の使者
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深海の使者 新装版
2012/01/23 22:05
冒険と鎮魂と
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:拾得 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、吉村昭による戦史小説のひとつである。「綿密な取材による史実の再構成」というスタイルの小説の読み応えは保証付きといってよいだろう。本書で取り上げるのは、第2次大戦下で日独の往復を図った潜水艦である。あまり広くは知られていない史実だけに、事実を知るだけでも興味深い。その克明な記録をぜひ楽しまれたい。
先の大戦において、日独伊は同盟国であったにもかかわらず、その物理的な遠さから、日独の協力や交流はごくごく限られていた。特にレーダーなどを含む兵器開発においては、技術交流が渇望されていた。ドイツ側も南方資源を欲していた。それゆえの潜水艦による日独往復が企図されたのである。飛行機による往復も試みられたが(本書でも紹介)、(日本にとって)中立国だったソ連上空をまたぐ必要があり、必然的に潜水艦への期待が高まったわけである。
本書は戦史としてはやや異質である。戦時下であるにもかかわらず、その使命は戦闘ではなく、「移動」そのものにあったことにある。しかもその移動は、日本からアフリカ喜望峰を大きく回ってヨーロッパまで、という長距離であった。その記録は戦史というよりも、もはや「海洋冒険小説」ともいえよう。リアル「海底2万マイル」である。「見つからないように」という緊迫感は、読者の関心をより高めてくれる。インド独立運動の闘士ボースが、ドイツの潜水艦から日本の潜水艦へと受け渡され、再度アジア入りしたのも初めて知った。もちろんそこには、移動そのものの困難さも克明に記録されている。長時間の潜航を余儀なくされれば、船内はどうなるか。二酸化炭素は増え、風呂には入れず・・・、そんな乗組員の苦難も再現されている。しかし、それでもやはり戦時下である。少なくない命が、深海に消えていく。「あともう少しで・・・」という思いに何度なったことか。また、撃沈による死だけではない覚悟の死もあった。
この潜水艦による日独往復は、当時から秘密にされてきたために、戦後においても広く知られることなく今に至っている。作家の腕力は、そんな個々人をあらためて浮上させてくれるのである。
ところで、本書のこのレビューを書きながら、「深海の死者」と偶然に変換されたことがある。自身の想いについては常に寡黙な著者だが、そこにはやはり鎮魂の深い思いが込められているのかと、感じてしまった。
深海の使者 新装版
2019/05/29 16:47
生死を賭した濃厚な群像ドラマ
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ニック - この投稿者のレビュー一覧を見る
ドイツとの軍事同盟を全うすべく、戦時下の大洋に生死を賭した者たちを描く戦史小説。海軍士官、技術者、外交官らがそれぞれに課せられた困難なミッションに向き合い、知恵を絞り、忍耐を極める様が、生存者への徹底取材により細部まで描かれ、凄まじい情報量が詰め込まれている。濃厚な群像ドラマのように感じた。
2025/03/29 20:26
良いですね
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:a - この投稿者のレビュー一覧を見る
なぜ日本から遠く離れたドイツとイタリアと同盟を結んだのだろうか。通信は傍受される、飛行機は飛ばせないとすると潜水艦で大回りするしかないのだが。不思議なり。