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2件
五つ数えれば三日月が
著者 李琴峰
日本で働く台湾人の私。
台湾人と結婚し、台湾に移り住んだ友人の実桜。
平成最後の夏、二人は5年ぶりに東京で再会する。
話す言葉、住む国――選び取ってきたその先に、
今だから伝えたい思いがある。
第161回芥川賞候補作。
五つ数えれば三日月が
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五つ数えれば三日月が
2021/12/27 15:28
激震地で巡り合い最後の夏が名残惜しく
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
留学生として台湾中西部の彰化県から日本の名門大学にやって来た林予梅、日本で生まれ育ちごく普通に進学を果たした浅羽実桜。それぞれ名前に「梅」と「桜」を持つふたりの出会いが、未曾有の大震災に見舞われたあの年だというのがドラマチックです。いつもは化粧っ気もなく地味なファッションで講義を受けている実桜の、卒業式でのばっちりメイクに振り袖姿が鮮やかに脳裏に焼き付きます。リップグロスで艶かしく光る実桜のくちびるを見て、林が感じていたのは友だちとしての親しみだけではないでしょう。15歳の時のドキドキのファーストキス、相手は異性ではなく同性、直後に受けたのは厳格な両親からの杖での体罰。それ以来肉体的に男性を受け入れることができない林が、自由な恋愛を求めて日本にやって来たのも運命的。性的マイノリティとしての苦悩を胸のうちに秘めながらも、実桜と築き上げていく友人関係には心温まります。
大手の信託銀行に新卒採用されて日本に残った林、台中に渡って語学力を活かした職を探す実桜。お互いの立ち位置を交換したかのように、卒業後の進路はくっきりと分かれていきます。女性同士の絆のあいだに横たわるのは、文化の壁や2000キロの距離感だけではありません。地下鉄が通っていないという台中市内の交通事情によって、実桜がオートバイ事故に巻き込まれてしまうのも皮肉ですね。入院中に知り合ったのは裕福な台湾人男性、退院後は順調な交際と同棲生活とを経てゴールイン… 林はSNSを通じてその過程を知るしかなく結婚式にも呼ばれていないため、素直に喜べないのも無理はありません。一方の林は連日連夜の激務、目まぐるしく変化する金融業界、外国人として時おり理不尽な扱いを受けることも。日本人男性との結婚や帰化こそが「幸せ」だと押し付けてくる同僚や上司からは、いかにして自分だけの幸せを見つけるのか考えさせられました。林と実桜が再会するのは月日が流れた2018年、平成から令和へと変わる直前の盛夏です。
池袋駅の北口で待ち合わせをして抱き合う林と実桜、その際に些細なすれ違いが生じるのを見逃さないでください。レストランでの食事、お互いの近況報告、込み合う店内を出て荒川沿いの土手へ。道中のスーパーで購入したありったけの花火に火を付けて、月明かりが射し込む下でふたりっきりで踊る場面は涙なしには読めません。いつまでもこの時間が続けばと願ってしまうのは、林だけではないですよね。次の日には林は満員電車に乗って都心のオフィスへ、実桜は成田から飛行機に乗って夫と家族が待つ台中へ。果たして林は友情ではなく愛情を感じていることを、実桜に打ち明けるのでしょうか。その結末と意味深な本書のタイトルが明かされる、ラストシーンもお見事。
2022/02/22 22:01
情景描写が美しい
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:岸谷 - この投稿者のレビュー一覧を見る
台湾にルーツを持つ女性と、台湾に嫁いだ日本人女性のお話がメイン。会話よりも情景描写が豊かな小説で、所々漢文が出てくるのが今までにない小説だと感じました。自分が何者なのかわからなくなり、溶けていくような感覚と焦燥感を覚えるお話でした。