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トヨタ 中国の怪物 豊田章男を社長にした男
著者 児玉博
トヨタ最大の秘密を知る男の「告白」
企業人の“業”を描く児玉博さんの今作は、トヨタの中国事務所総代表だった服部悦雄氏が主人公です。服部氏は、「低迷していたトヨタの中国市場を大転換させた立役者」であり、「トヨタを世界一にした社長、奥田碩を誰よりも知る男」であり、何より「豊田家の御曹司、豊田章男を社長にした男」として、自動車業界では知る人ぞ知る人物。トヨタをモデルにしたベストセラー小説『トヨトミの野望』の作中にも、服部氏は「中国の怪人」として仮名で登場します。
服部氏は戦争中に生まれ、27歳まで家族とともに中国にとどまりました。文化大革命では、原生林での強制労働など、日本人ならではの苦難を体験します。 帰国後、トヨタに入社。アジア地域の担当を命じられ、トヨタ中興の祖である豊田英二と上司の奥田碩の目に留まり、服部氏はみるみる頭角を現します。
実はトヨタは、中国への進出が遅れたために中国政府から自動車生産の許可が下りず、90年代に世界の他メーカーに大きく引き離され、ドン底の状態に陥っていました。奥田碩会長は、創業家御曹司の豊田章男を中国本部本部長に据え、中国市場の建て直しを命じるのですが、そこには章男が失敗すれば、豊田家をトヨタの経営から外すことができる、という奥田の深謀遠慮がありました。そこで、豊田章男が頭を下げたのが服部氏でした。奥田の最側近でもあった服部氏は、トヨタ中国事務所総代表としていかなる決断を下したのか……。
服部氏の初のロングインタビューを元に、トヨタの中国進出と、豊田家世襲の内幕を赤裸々に描いた圧巻のノンフィクションです。
トヨタ 中国の怪物 豊田章男を社長にした男
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トヨタ中国の怪物 豊田章男を社長にした男
2024/03/28 00:17
著者の作品はすべて読んでいますが、本書も上々の一作。ただ読むべし。
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投稿者:Haserumio - この投稿者のレビュー一覧を見る
山崎豊子『大地の子』や辺見じゅん『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』、安部公房『けものたちは故郷をめざす』といった作品を彷彿とさせる主人公のトヨタ入社前を描いた暗澹たる前半を過ぎると、一気に視界が拡がり、「トヨタ最大の秘密」(帯より)が語られる後半へとなだれ込む傑作企業ノンフィクションでした。一気読みでした。
「中国人同士で殺し合えばいい。トヨタには無関係なこと」(271頁、天津汽車救済スキームにおいて、第一汽車と広州汽車を手玉に取って競わせる交渉戦術の見事さ!)
「章男ちゃんは章男ちゃんで、複雑なんだよ。奥田さんは章男ちゃんのことを、『章男はコンプレックスの塊だ』と話していたけれど・・・・・・。まあ、章男ちゃんはね・・・・・・複雑な子なんだよ。章一郎の育て方が問題だったんじゃないのかな」(304頁)
それにしても、奥田碩がかの小糸製作所買収防衛事案において最前線で仕事をし、米国流ガバナンス(あるいは資本の論理)について深い経験を積んでいたというのは目うろでした。