サイト内検索

詳細検索

ヘルプ

セーフサーチについて

性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示を調整できる機能です。
ご利用当初は「セーフサーチ」が「ON」に設定されており、性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示が制限されています。
全ての作品を表示するためには「OFF」にしてご覧ください。
※セーフサーチを「OFF」にすると、アダルト認証ページで「はい」を選択した状態になります。
※セーフサーチを「OFF」から「ON」に戻すと、次ページの表示もしくはページ更新後に認証が入ります。

新規会員70%OFFクーポン

  • みんなの評価 5つ星のうち 4.1 28件

電子書籍

刑事ヴァランダー・シリーズ

著者 ヘニング・マンケル(著),柳沢由実子(訳)

雪の予感がする一月八日の早朝、小さな村から異変を告げる急報がもたらされた。駆けつけた刑事たちを待っていたのは、凄惨な光景だった。被害者のうち、無惨な傷を負って男は死亡、虫の息だった女も「外国の」と言い残して息を引き取る。片隅で静かに暮らしていた老夫婦を、誰がかくも残虐に殺害したのか。ヴァランダー刑事を始め、人間味豊かなイースタ署の面々が必死の捜査を展開する。曙光が見えるのは果たしていつ……? マルティン・ベック・シリーズの開始から四半世紀――スウェーデン警察小説に新たな歴史を刻む名シリーズの幕があがる!

殺人者の顔

税込 1,019 9pt

殺人者の顔

ワンステップ購入とは ワンステップ購入とは

ほしい本に追加(値下がりすると通知がきます)

ご利用中のデバイスが対応しているかご確認ください

  • ブラウザ
  • iOS
  • Android
  • Win
  • Mac

対応デバイスごとのコンテンツタイプやファイルサイズヘルプ

オンライン書店e-honとは

e-hon

hontoは「オンライン書店e-hon」との連携を開始しました。
「e-hon」は書籍、雑誌、CD、DVD、雑貨といった多岐に渡る商品を取り扱う総合オンライン書店です。130万点以上の取り扱い点数、100万点以上の在庫により、欲しい商品を買い逃しません。honto会員向けにお得なキャンペーンを定期的に実施しています(キャンペーンに参加するにはMy書店をhontoに設定して頂く必要があります)。
・まだe-honの会員ではない方
下記リンクからe-honへ遷移し会員登録する際に自動でhontoがMy書店に設定されます。
・既にe-honをご利用いただいている方
「マイページ」-「会員情報の変更」-「My書店の変更」に進み、検索窓に「honto」と入力し、検索結果画面で会員登録ボタンを押すことでMy書店がhontoに設定されます。

e-honで紙の本を探す

※外部サイトに移動します。

対応デバイス毎のコンテンツタイプやファイルサイズ

対応デバイス コンテンツタイプ ファイルサイズ
ブラウザ EPUB
iOS EPUB 6.6MB
Android EPUB 6.6MB
Win EPUB 6.6MB
Mac EPUB 6.6MB

続刊の予約購入を申し込む

今後、発売されるシリーズの本を自動的に購入できます。

続刊予約とは続刊予約とは

続刊予約とは

今後、発売されるシリーズの本を自動的に購入できる機能です。

こんな方にオススメ

  • ①お気に入りのシリーズは買い忘れしたくない
  • ②不定期の発売情報を得るのが面倒だ
  • シリーズ購読一覧から、いつでも簡単にキャンセルができます。
  • honto会員とクレジットカードの登録が必要です。未登録でも、ボタンを押せばスムーズにご案内します。

読割50とは?

hontoネットストアおよび、丸善・ジュンク堂・文教堂の提携書店にて対象の紙書籍を購入すると、同一の電子書籍が紙書籍の購入から5年間、50%OFFで購入できるサービスです。
購入時点で電子書籍が未発売でも、紙書籍の購入時期にかかわらず、電子書籍の発売後5年間、50%OFFで購入できます。

または読割50のアイコンがついている商品が対象です。

一部、対象外の出版社・商品があります。商品ページでアイコンの有無をご確認ください。

  • ※ご利用には、honto会員登録が必要です。
  • ※書店店頭でのお買い物の際は、会計時にレジにてhontoカードをご提示ください。
  • ※hontoが提供するサービスで、販売価格の50%OFFを負担しています。

読割50について詳しく見る

予約購入とは

まだ販売されていない電子書籍の予約ができます。予約すると、販売開始日に自動的に決済されて本が読めます。

  • 商品は販売開始日にダウンロード可能となります。
  • 価格と販売開始日は変更となる可能性があります。
  • ポイント・クーポンはご利用いただけません。
  • 間違えて予約購入しても、予約一覧から簡単にキャンセルができます。
  • honto会員とクレジットカードの登録が必要です。未登録でも、ボタンを押せばスムーズにご案内します。

予約購入について詳しく見る

ワンステップ購入とは

ワンステップ購入とは、ボタンを1回押すだけでカートを通らずに電子書籍を購入できる機能です。

こんな方にオススメ

  • とにかくすぐ読みたい
  • 購入までの手間を省きたい
  • ポイント・クーポンはご利用いただけません。
  • 間違えて購入しても、完了ページもしくは購入履歴詳細から簡単にキャンセルができます。
  • 初めてのご利用でボタンを押すと会員登録(無料)をご案内します。購入する場合はクレジットカード登録までご案内します。

キャンセルについて詳しく見る

あわせて読みたい本

この商品に興味のある人は、こんな商品にも興味があります。

前へ戻る

  • 対象はありません

次に進む

この著者・アーティストの他の商品

前へ戻る

  • 対象はありません

次に進む

みんなのレビュー28件

みんなの評価4.1

評価内訳

紙の本目くらましの道 上

2008/06/22 13:57

シリーズ最高傑作

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:佐吉 - この投稿者のレビュー一覧を見る

背骨や頭部を斧で叩き割り、さらに被害者の頭皮を剥ぎ取るという、常軌を逸した連続殺人事件。その犯人がわずか14歳の少年だとしたら、それはかなりショッキングな結末と云えるだろう。しかしこの作品では、そのことがはじめから読者に明かされている。物語の冒頭、最初の殺害の場面が、犯人と被害者の視点で描かれるのである。舞台はスウェーデン南部の小都市イースタ。少年は自宅の地下室で、神聖な儀式と入念な化粧によってアメリカ先住民に「変身」すると、フルフェイスのヘルメットに顔を包み、モペットで現場に向かう。そして周到に準備された「任務」を、淡々と「遂行」するのである。

このように最初に犯人の側から犯行の様子を描き、その後、捜査陣が真相を究明する過程を綴ってゆく推理小説の形式は、一般に「倒叙(とうじょ)」と呼ばれ、マンケルの得意とする手法の一つである。マンケルは、サイコスリラーさながらの身の毛もよだつ殺害シーンの描写によって、読者をいきなり物語世界に引きずり込み、同時に犯人の異常な性格を強烈に印象づける。少年はなぜそんな犯行を重ねるのか、捜査陣はどうやってこの思いも寄らない結論に辿り着くのか。そう思った瞬間、読者はマンケルの術中にはまっている。あとは彼の巧みなストーリーテリングに導かれるまま、最後まで一気にページを繰り続けるしかない。

本書は、風采の上がらない中年刑事クルト・ヴァランダーを主人公にした、マンケルの警察小説シリーズの5作目にあたる。CWA(英国推理作家協会)ゴールドダガー賞を受賞し、スウェーデン人作家マンケルの名を、一躍ヨーロッパ全土に知らしめた作品でもある。ヴァランダー・シリーズは、1991年から1999年にかけて9作が発表され、うち本作までの5作が邦訳されているが、この『目くらましの道』をもってシリーズの最高傑作とする声が高い。

美しい初夏の訪れに、夏の休暇を心待ちにしているイースタ署の面々。と、そこに、ある老農夫から自宅の畑に不審な人物がいるとの通報が入る。どうせ思い過ごしだろうと高を括っていたヴァランダーだったが、現場に着いてみると、確かに菜の花畑に一人の少女が立っている。何かにおびえている様子のその少女に、ヴァランダーは声をかけながら近づいてゆく。すると少女は、やおら頭からガソリンをかぶり、手にしたライターで自らに火をつけ、焼身自殺を遂げてしまう。

そうして平和な夏が一瞬にして悪夢に変わる。署員たちはすぐさま少女の身元を調べはじめるが、目の前で事件を目撃したヴァランダーはショックを隠せない。するとそこへ、署員たちの動揺に追い討ちをかけるように、殺人事件の一報が入る。政界を引退し、今は隠遁生活を送っている元法務大臣が、何者かによって惨殺されたというのである。イースタ署に戦慄が走る。しかしそれは、さらなる惨劇の序章にすぎなかった……。

犯人が最初からわかっている倒叙小説においては、多くの場合、いわゆる神の目線で見た主人公の推理の冴えと、追う側と追われる側の心理的駆け引きが大きな見どころになる。本書はもちろん、その点において一級品である。加えて本書には、すべての手がかりを読者にフェアに提示し、読者が主人公と平行して推理を進めてゆくことのできる本格ミステリの興趣がある。決して、犯人の些細なミスから足がつくなどといったチャチな捕り物ではない。自身到底信じられない結論にヴァランダーが辿り着くとき、読者は、そこに仕掛けられた伏線の巧妙さに思わず唸らされるに違いない。

マンケルは、あくまで警察小説のプロットにおいて、普遍的な人間の懊悩と現代スウェーデン社会の暗部とを鮮明に提示してみせる作家である。身辺にさまざまな悩みを抱え、捜査の過程においても、凶悪犯罪に我がことのように心を痛めるヴァランダーの姿は、シリーズを通じて読者の共感を誘ってきた。本書ではさらに、殺人者たる少年の背負った十字架も激しく胸を打つ。二人の息詰まる対決は、最後まで読者を惹きつけつつ、哀しい余韻を残してゆく。本書は、警察小説というジャンルを超えて、永く記憶されるべき一冊である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本殺人者の顔

2002/03/25 20:46

スウェーデンの社会派ミステリー

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ケルレン - この投稿者のレビュー一覧を見る

 冬の嵐が近づく夜、片田舎の村で老夫婦が襲われた。男は惨殺され、女の方は最期に「外国の」という言葉を残して息絶える。ヴァランダー刑事らイースタ署の面々は、犯人が外国人である可能性も含めて捜査を進めるが、手がかりはほとんどなく、犯人の動機さえつかめない。迷宮入りの様相を見せる中、外国人容疑者の線がマスコミに漏れ、外国人排斥運動に関わる人々を刺激してしまう。そして、移民逗留所でさらなる殺人が起こる。

 スウェーデンのミステリーは初めて読んだ。天候や風景の描写からは、荒涼として半端じゃない寒さがよく伝わってくるが、何よりも興味深かったのは、その社会状況だ。スウェーデンが移民を積極的に受け入れてきたとは知らなかったし、あんな寒そうな国に東南アジアやアフリカから渡ってきた人々までいるとは意外だった。移民をめぐる記述には、生活を脅かされるのではないかという不安と人種差別を否定する良識との葛藤がうかがえる。
 一方で、やはりと感じる馴染の問題も出てくる。老人問題、熟年離婚、世代につれた価値観の変化などだ。これらのスウェーデン版が、ヴァランダー刑事の私生活に踏み込んでじっくりと描かれている。
 本書を読んだ後、スウェーデンの映画監督ベルイマンに触れた新聞記事で、思いがけず著者の名前を見つけた。なんと彼はベルイマンの娘婿で、隣人でもあるという。ほとんど人づきあいをしないベルイマンだが、著者とは日常的に話をする間柄だとあり、ベルイマンとの交流を可能にした著者の魅力の一端が、この小説にも表れているのではないかと思う。
 刑事ヴァランダー・シリーズは、本書を皮切りに九作出ている。是非とも二作目以降を早く翻訳して出版して欲しい。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本目くらましの道 下

2016/06/30 19:31

私を北欧ミステリブームに引きずり込んだ記念すべき作品

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る

よさげなタイトルと表紙の装丁に、思わず手に取った。
なんと舞台はスウェーデンである。 ヴァランダー警部が電話で呼び出された先で、少女が謎の焼身自殺をとげる。 その後、斧で割られ、頭皮をはぎとられた死体が連続して発見される事件が起き・・・そんな警察小説。

上下巻だし、長いなぁと思ってしばらくほうっておいたのだが、読み始めたらえらく面白くてやめられない。
スウェーデンの警察といえばマルティン・ベックだが(以前ドラマで見た)、ヴァランダー警部シリーズはそれよりも少し時代は後になるらしい。 そう、シリーズ物の5作目だったのである。
うわっ、こりゃ1作目から読まねば!

スウェーデンというよく知らない国に対する理解が深まる、という意味でも面白いのです。
油断して日焼けしすぎて病院に行く人がいたり(緯度が高いんだな)、一週間の休暇ぐらい普通にとれる環境だったり、福祉が手厚いイメージだけどそれなりに貧困層が存在したり、通貨単位がクローネだったり(マルティン・ベックのときも思ったな、そういえば)。 ただ人の名前がなじみのない音のため、どれが誰のことだがいまいちわからない・・・。 登場人物一覧とにらめっこ。
シリーズ物だからか、キャラクターがそれぞれ魅力的。 スウェーデン人、という日本人からは身近じゃない人々の日常が示される分、親しみがわきます。
で、スウェーデンの警察組織についても詳しくなるぞ。 人物造形だけでなく、勿論、事件についてもしっかり書きこまれているので、ただの目新しさだけでは終われない。 壮絶な事件を前にもがき苦しむ警察官の、日常生活もしっかりと。

このタイトルが気になったのは、もしかしたら以前のこのミス海外部門の上位にランクされてたからかな? そう思えるほどに、硬派で骨太。
舞台は1994年なのでスウェーデンにはまだ科学捜査を本格導入していない模様、FBI的プロファイリングもあまり信憑性は見出されてない(触れられてはいるが)。 思わず、「それはきっとそういう意味だよ!」と伝えたくなってしまうのであった。 でも14年以上前なんだよね・・・。

ミステリとしては結構早い段階で犯人がわかってしまうのであるが、読ませどころはそればかりではないのでそんなに気にならない(あまりに早いのでミスリードだと思った。 裏を読みすぎるのが私の悪い癖だ)。
ヴァランダー警部はヒーローとはほど遠い人物であるが、「それが自分の仕事だから」という仕事人としての姿勢は、誰にでも起こりうること(事件に遭遇するということではなく、そのような気持ちになったり決断を下さなければならなかったり、という意味で)だと思わせてくれるのだ。
世界は広い。 文化も様々だ。 でも、まっとうな人は本質的な部分できっとわかりあえる。(2008年12月読了)

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本殺人者の顔

2001/11/30 10:47

スウェーデン警察小説の傑作

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:Lady - この投稿者のレビュー一覧を見る

 ふだん、英米のミステリばかり読んでいるので、いかにもスウェーデンらしい描写が出てくると、不思議な感じがします。マット・スカダーのシリーズが好きな人にあいそうです。
 訳者あとがきもすばらしくて、あとがきだけでも読む価値がありました。訳者のかたはスウェーデンにも住んでらっしゃるようで、その土地、国のことをよく知っているかたらしい、わかりやすい訳註がつけられています。翻訳もとても読みやすくて、おすすめの一冊です。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本霜の降りる前に 下

2023/05/20 16:53

リンダの今後はいかに?

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る

久しぶりに再会した友人アンナが失踪したことで独自の調査をしていたリンダ。
謎の人物の住所らしきものを見つけたところ、ふいに襲われる。このシーンが何気に戦慄を起こす。昔は先進的な高層住宅だったが、今は裏ぶれ、住人も誰が住んでいるのやらわからない。麻薬の売買も行われている気配があるのに、住人は関りを恐れて放置している。そんななか当初からの住人で、今も自分の住み家の実態に目を光らせているアンデルセン夫人、こういう人がまだいることにほっとさせられること自体が、他人との関係が全くなくなった最近の状況をよく表していると思う。
さらに認知症を発症した老ピアノ教師のアパートに、本人も気づかない誰かが居住しているというのが、この作品全編を通じてもっとも恐怖を覚えた。動物への火を使った虐殺行為や森の小屋でのバラバラ殺人などよりも、静かだがそれゆえに何とも言えない底知れなさを感じさせるシーンだった。

物語はこれらの事件とアンナ失踪という二つのラインが並行して進む。
そのなかで、正体を現しつつあるアンナの父親とその帰還を待ち望んでいたアンナとのいびつな関係と、同じ職業を選んだことでようやく接点を持つに至ったヴァランダーとリンダという二組の親子関係を対比させているのが興味ぶかい。
それぞれの父親が娘の頬をなでるというシーンがあるが、全くちがった印象を与えている。片方は自分に絶対の自信をもち、娘と言えども自分の意思を遂行するための道具としてしか見ていない。一方のヴァランダーはといえば、仕事に信念は持ちながらもすべての状況をコントロールできないという限界を知っており、娘の無謀な行動が不安の種となる。子供は親にどういう存在であってほしいのか?とても考えさせられる問題だ。

ラストでかつての自分を思い出させるような追い詰められた少女に手を差し伸べるリンダが描かれる。このシーンも秀逸だ。ひとは自分の痛みを認識し、そのとき適切な助けを得られたからこそ、他人にも手を差し伸べられる。これこそがこの作品の最大のメッセージではないだろうか。リンダの警官人生もスタートしたがこのことを常に忘れないでいてほしい。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本ファイアーウォール 下

2022/06/30 16:32

壁の先には何が?

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る

下巻で、一気に物語が世界規模の広がりを見せ始める。
スウェーデンの片田舎の町イースタと、アンゴラにいると思われる人物の繋がりが明らかになる。ネットでは、どこでも世界の中心になりうるというが、イースタの人物とアンゴラの人物が意気投合したのは、やはりリアルな接触だったというのが、ちょっと安心する点だった。これだけの陰謀を企む仲間探しには、やはり直接会って、相手の内面を探る必要があるはず・・・と思うのは、自分はまだまだアナログなのか?
現実には、結構な犯罪が闇サイトを通じて仲間を募り、素性も知らない相手と共謀して高齢者の家で強盗を働くという世界が、もう何年も前の事件だったりする現実がある。マンケルがこの状況を知ったら、何と言っただろうか?
さらに言えば、テロ行為だけでなく、一国の政府がネットを使って他国の選挙に介入したり、フェイクニュースを堂々と発信したりと、ネット対策なしには今や政治も成り立たない始末。魅力的だが、ある意味核兵器などより恐ろしい魔法の杖を人類は手に入れてしまったのだろうか。

そして、リアル世界でも、人間の内面や心の在り方が問われる状況になっている。上巻では、隠し撮りされた写真に対する署長の思わぬ反応がヴァランダーを打ちのめすが、下巻では長年苦楽を共にしてきたはずの部下マーティンソンの信じられないような裏切り。でもよく考えてみると、過去の作品でもマーティンソンのそういう傾向は読み取れなくもなかった。ただ、警察に対する住民の不信感から娘に危害が加えられそうになった時には、意気消沈して警察官を辞めたいと本気でもらしていたはずなのに・・・。
さらにとどめの一撃が、勇気を奮って入会した交際相手紹介欄で知り合った相手からの、もうこれは裏切りというレベルではなく、疑似餌に目くらましされたとしか言いようのない展開。
本当に今作では、精も根も尽き果てた感じのヴァランダー。季節の描写もそれに追い打ちをかけるような厳しさだ。かつての友も挨拶もなく去り、同僚は居丈高に自分の座を狙ってくる。父の家では、もはやその痕跡さえも失われており、ヴァランダーの寄る辺のなさに身をつまされる思いだ。

でも、長らく自分探しの旅を続けてきたらしいリンダの決意を聞かされて、一つの壁を通り抜けたと思うヴァランダー。毎作、彼の深い悩みとそこから逃げ出さないことが自分の使命だと感慨を新たにするヴァランダーを見てきたが、ついにその使命を託す誰かを見つけたのかもしれない。この続きは『霜が降りるまえに』でじっくり読めるだろう。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本ファイアーウォール 上

2022/06/15 15:38

ついにIT犯罪が・・・

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る

年一作のスローペースで読んできたこのシリーズ。8作目で、ついにというか、現代社会と切り離せないIT犯罪の分野に踏み込んでゆく展開となった。
人々の心(特に若者の)や、そこから生じる異常な犯罪がもはや理解できないと嘆くヴァランダーに、さらに不可解なITを通じて広がる人間関係や犯罪が襲いかかる。慢性疲労と無力感に苛まれつつも、ひたすら捜査に邁進する姿をみて、これこそヴァランダーだとほっとする自分を感じる。

しかし、このシリーズを読んでいていつも思うのだが、ヴァンランダーに限らず、イースタ署の面々のほぼすべてが、とにかく現場を離れたい、いつ警察官をやめてもおかしくない、今日も何とかしのいで捜査している・・・というスタンスで仕事に臨んでいる。特に鑑識のニーベリは、今作その傾向がかなり顕著だが、彼の発言を聞いたヴァランダーは、どうせすぐに退屈するに決まってると、自分を棚に上げて達観したようなことを言う。
みんな徒労感と人員不足と想像力の先をいくような犯罪の発生に、常にイライラしているのだが、その底にはとにかく目の前の事件をなんとかしなければという使命感、といっては大げさかもしれないが、何らかのエンジンが絶えず稼働しているような心理状態にあるのが、何かとても安心感を与えてくれる。
今目の前にあることが、世の中のすべてに繋がっているという考えは、決して間違っていない。高所から目を配ってくれるはずの本庁の長官たちは、些細な新聞記事に神経を尖らせて内部調査を命じてくる。現場をわかっていない長官はともかくとしても、日々ヴァランダーたちの奮闘を目の当たりにしているはずの署長までもが、取り調べ中の暴行をヴァランダーの精神的な不調の表れと決めつける。
今回は、この二次的な事態がよけいヴァランダーを消耗させる。突発的に職場放棄して、すぐにも辞表をたたきつけてやる、と息巻くヴァランダーだが、ここまでシリーズを読んだ読者なら、先のニーベリと同様、決してそんなことはしないだろうとわかっている。これこそが、このシリーズの隠れた魅力かもしれない。

あと思うのは、ヴァランダーの考えでは(おそらくマンケルも)、個人の心情が表れるのはPCファイルではなく、やはり日誌やアルバムのようなものなのだというのがちょっとほっとさせられる。写真ファイルではなく、丁寧に貼られたアルバムの写真は、その瞬間にタイムスリップできる力をまだ失っていないはず、と感じるのは私だけだろうか。
続く下巻が楽しみだ。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本背後の足音 下

2021/04/30 23:36

混沌の中に見える力強いラストシーン

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る

上巻から引き続き、手探り状態の捜査が続く。糸口は時に思わぬ発見に繋がり、時に行き止まりに誘い込む。作者の最高傑作に違いないという確かな手ごたえを感じつつ読み進めてきた。
各書評にも言われている通り、このシリーズは90年代のスウェーデン社会を如実に映し出したものということだが、とくにスウェーデンに限ったことではなく、当時の世界の広い部分について言える状況だと思う。雇用の不安定化、人間を今現在の効率に当てはめて評価する価値観、しっかりと根を張った生き方を見つけづらい社会システム・・・。
どれをとっても当時から現在に至る日本の状況に当てはまらないものがあるだろうか。
そんな中で、ひとは安住の地を求めて自分だけの世界を構築し、自分だけの秘密をもつ。同僚、友人でも他人の奥底をのぞき込むことはできず、仮にのぞき込めたとしても決して理解することはできない。そんな現代を当然のこととして、生きているものもあれば、ヴァランダーのように長年の同僚の人生や考えにも理解が及ばないことを悩んでいるものもいる。
そしてシリーズ中屈指の不気味さを感じさせる犯人にしても、その素顔はときに性別すら超越してしまうほどの不可解さを見せる。ましてや犯罪の動機など決して分かることはないのだ。
冬を迎えた群島に旅立つヴァランダーは、一時の安らぎを与えてくれた女性にももう寄りかかることはできないと感じる。だが、荒波の中に佇む孤島と、そこで生きたかつてのスウェーデン人の先祖を感じることで、これこそ今のそしてこれからの自分に、この世界に必要なものではないかと直感的に感じ取る。さらに警察官を務め、この世界の崩壊を食い止めるために。群島の描写が真に迫って素晴らしい。ヴァランダーの悩み多い生に幸多かれと願わずにいられない。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本背後の足音 上

2021/04/25 13:04

救いのない楽園

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る

シリーズ順に読み進めてきたヴァランダー刑事もついに第7作目。
とにかく面白い。評価の高い『目くらましの道』よりも、個人的には好きだ。
夜読んでいると、もう一章、あと一章となってしまい、まさしく作中のイースタ署の面々のように、翌朝げっそりするほど読み続けてしまう。いや、お見事というほかない。
今作では、なんと長年の同僚スヴェードベリが殺害されてしまい、ヴァランダーが発見者となってしまう。仕事以外に個人的つきあいのなかったスヴェードベリだが、捜査の過程で、自分をよき友と周りに言っていたことをきき、他人の知られざる内面にこれから踏み込まざるを得ない状況に考え込む。さらに冒頭、あやうく居眠り運転で事故を起こしそうになったことから、自分の体が壊れる寸前であることを知らされるという最悪のタイミングで恐ろしい事件を捜査することになる。
前作以前から、異常に睡眠時間が少ないヴァランダーだが、本作では次々起こる残虐な殺人と、からくも難を逃れた少女が、ヴァランダーのまじかで殺害されるというダメおしまでついてきて、憔悴しきっていたところへ、天使としか思えないような行きずりの女性にあやうく倒れ掛かりそうになる。いままでも、つらいときに身近な女性に寄りかかる癖のある彼だが、今回だけはあまりの苛酷な状況に、それもありかとついうなずいてしまう。
いつも不機嫌なニーベリや何度も退職を考えるマーティンソン、優秀な弟子でもあるフーグルンドなどお馴染みのメンバーの描写も的確に、彼らの個性を際立たせている。
本当にスウェーデンが楽園だなんて、誰が言ったのか?というくらい、その抱える問題は深くそして普遍的だ。後編が楽しみ。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本五番目の女 下

2020/06/30 22:45

やはり重いテーマだった

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る

上巻から読んできて、犯人の背景がかなり見えてくるにつれこれは重たい展開になること必至だと思っていたが、エピローグでやはりそうか・・・と考えさせられた。
声を上げられずに暴力にさらされる女性たち、誰にも気づいてもらえず守ってもらえず、その存在さえ薄れかけている女性たち。そんな状況を打破しようとしたのが今回の犯人なのだが、決して彼女自身も正義の味方ではなく自らの過去に振り払えない悪夢を抱えていた元被害者といってもいい女性なのだ。そして抱え込んできたものが遂に溢れ出る日がやってくる。苦労してきた母が、やっと出かけた海外旅行で何の関わりもないのに現地のテロに巻き込まれ、その事実さえ当局によって隠滅されてしまう。見えない犠牲者、隠されてきた暴力はもうたくさんだと決意する彼女にある種の共感が生まれるのは当然かもしれない。実際、自分もかなり犯人に傾倒している部分があることに気づかされた。
ここからマンケルの問題提起が始まる。法の外に身を置いたものの私刑は正当性があるのか?という何度も繰り返されてきたテーマだ。最近も同じスウェーデンの作家の小説『許されざる者』で同一のテーマに出会ったばかりだ。マンケルはこの作品を読む限りそれは自分には理解できない行為だと明言している。その根拠として、作中に警察の頼りなさを理由に掲げているものの、ただ誰彼構わず暴力で鬱憤を晴らしたいだけの自警団の存在を挙げている。さらにその無分別な行為の結果、仲間の警官の娘が学校で暴力を受けるというおまけまでついている。大人たちの暴走は確実に子供たちも蝕むのだと。しかし一方では声を上げられないものへの威圧や暴力を自分一人ではどうしようもない、もっと大きな社会的問題だとして解答を我々に投げかけているように思える。相手も人間だという、この当然の感覚を全く持ち合わせていない人々が現在世界に増えつつあるようでとても怖い。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本目くらましの道 下

2019/11/06 22:32

天国の裏側

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る

上巻から続くやり切れないスウェーデンの赤裸々な現状が哀しい。
上下巻の表紙写真があまりにも天国のようなスウェーデンの夏の日を表現しているので、この裏側で行われている目を覆うような悲惨さがより際立つ。
先進国でかつては福祉天国とも呼ばれたスウェーデンだが、冒頭に描かれた中米の村に暮らす家族と比べて、どこが天国といえるのだろう。
ヴァランダーでなくとも嫌気がさすというものだ。
やり切れないし、ヴァランダー一人でどうなるものでもないが、やっぱりこのシリーズ読むのを止められないのはひそかに我が身に迫るこの世の地獄を自分も感じているからだろうと思う。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本目くらましの道 上

2019/10/31 22:06

ヴァランダーシリーズ最高傑作と名高い本作

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る

シリーズ作品を順番に読んできて、本作品にたどり着いた。
のっけから十代の少女の追い詰められた挙句の焼身自殺というショッキングなシーンで幕を開ける。しかもそれがスウェーデンの遅い春を象徴するような菜の花畑の中。やっと蕾がほころび始めたばかりの少女の人生の儚さと相まってかなり衝撃的だ。
そして有力者ばかりがターゲットとなる異様な連続殺人事件が起こる。
犯人らしき人物のモノローグが所々に挿入されており、犯人の心情も徐々に垣間見えてくる。
結末は下巻に続くのだが、物語のベースにどうにもならない悲しみと栄華の影の陰惨さが垣間見える。北欧警察小説は何冊か読んだが、日本では天国のようにイメージされるスウェーデンのこの暗さ、やりきれなさは一体何なんだろう。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本ピラミッド

2018/05/24 03:09

いかにしてヴァランダーはヴァランダーになったのか

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る

あぁ、もうちょっと読んでいたかったのに、読み終わってしまった・・・。
『殺人者の顔』から始まる<ヴァランダー警部シリーズ>、日本での翻訳時差はありますが、本編は1990年・ヴァランダー42歳の時点からのスタート。本書はファンの声にこたえて作者が「『殺人者の顔』のヴァランダーに至るまでの彼の人生の軌跡」を点描でまとめたもの。なので短編集ではあるものの、ヴァランダーのそれまでの人生を描いた長編と考えることもできるわけで。
それだけのキャラクターへの愛着を読者に持たせるとは・・・やはりすごいなぁ。

5編収録、ヴァランダーの年齢順。
『ナイフの一突き』は1969年6月の出来事。ヴァランダーは22歳でまだ警官、しかもマルメ警察所属。刑事課のエース・ヘムベリに食いついたら離さない気質を見込まれて刑事課の手伝いをし、これが捜査官としてのヴァランダーの将来を決める事件に。のちに結婚し離婚するモナとはまだ恋人時代なれど、「この二人、絶対うまくいかないよ・・・」という空気はくっきり(まぁ後付けですけど、なんで結婚したんだろうね、この二人)。
『裂け目』はこの中でいちばん少ないページ数なれど、ヴァランダーの警察官人生においてのターニングポイント。1975年のクリスマスイヴ。、仕事においては彼は警部補になっているが、モナと結婚して娘のリンダが生まれているがすでに夫婦仲は破綻気味のため次の夏にはイースタ署に転勤することになっている。より田舎に行くことで仕事に費やされる時間を少しでも減らせるように(だからもうマリアガータンのあの家に住んでいる)。「この国はどうなっているのか? どうなっていくのか?」とヴァランダーが心底思った最初の事件かも。
三作目の『海辺の男』からはイースタに完全に舞台が移るので、いつものシリーズの空気感たっぷり。この事件は1987年4月なのでイースタで働き始めてもう10年経っていることに。リードベリに対するヴァランダーの尊敬の念が眩しい(なので体調不良を訴える彼に「早く病院に行って検査を受けて!」と言いたくてたまらない)。
『写真家の死』は1988年4月。この一年でヴァランダーは捜査官としての確かな実績をイースタで示したようで、実質上のリーダーになっている(その割に相変わらず思いつきが先行しての個人プレーが多く、自分でも反省している)。このあたりからイースタ署の懐かしのメンバー勢揃いという感じで、なんだかうれしい。風邪をひきやすくてすぐ休んじゃうマーティンソンとか、せっかちなハンソンに実直なスウェードベリとか!
そしていちばんの長い『ピラミッド』はプロローグとエピローグ付きでもはや短編ではない。スウェーデンの片田舎にいながら犯罪は国境を越え、普通の人と思っていた人たちの意外な裏の顔が存在することが意外でなくなってくる時期に。でもそのことにヴァランダーはまだ慣れないし、慣れたくないと思っている。
この事件は1989年から1990年にかけて、つまり最後は『殺人者の顔』の冒頭とクロスする形で幕を閉じる。なんて素敵なファンサービス!
描かれているのはヴァランダーの捜査官としての成長と、人間としての苦悩、<新しい時代の犯罪>の着実な気配。
それにしてもヴァランダーの父親は困った人だ・・・私だったら絶対縁を切っているけど、ヴァランダーは時に癇癪を爆発させつつも最終的に父親を許している。その関係は正規のシリーズにも続いていくものだけれど、<家族>というのもまたこのシリーズにおけるサブテーマのひとつだからかなぁ。
あぁ、次の作品、読みたい!

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本霜の降りる前に 下

2016/02/27 07:20

シリーズ屈指の恐ろしい事件

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る

ヘニング・マンケル現時点での邦訳最新刊。
いくら柳沢由実子さんが他の作品を鋭意翻訳中と言ったって、そうすぐに出るわけじゃない。 読み終わりたくなかったが・・・読み終わってしまった。

帯によると<刑事ヴァランダーシリーズ最新刊>ということになっておりますが、主役はヴァランダーの娘・リンダなので“特別編”という位置づけだろうか。 ヴァランダーをはじめレギュラーメンバーがほとんど登場するし(そもそも30歳になったリンダは新米警官としてイースタ署で働く予定である)、シリーズ“番外編”たる『タンゴステップ』の主役ステファン・リンドマンもイースタ署に転任してくるというサービスぶりについニヤリとしてしまう。

しかし起こる事件はシリーズ屈指の恐ろしさである。
リンダの幼馴染アンナが不意に失踪する。 白鳥に火をつけて焼き殺した者がいる。
まったく関連のないように見えた出来事が実は恐るべき力によってつながっている・・・という話。
事件も恐ろしいのであるが、リンダが改めてアンナのことを思うとき、自分はどれだけ彼女のことを知っているのか?、と自問する場面。 知っているはずの人がまったく知らない人に思える恐怖。 そして従来のヴァランダーシリーズは三人称なので特に気にしていなかったんだけど、その描写はヴァランダーの見方が多分に入っていたこと。
今回、リンダからの視点がいつも以上に強調されて書きこまれてあるので、レギュラーメンバーに対してこちらが抱いていたイメージをことごとくリンダによって破壊された(つまりリンダにはそう見えるということなのだが)。 それもまた、怖かった。
自分が信じているものを、粉々にされる恐怖。
くしくもそれはテーマと繋がっていて・・・ヘニング・マンケル、どんだけ構成うまいんだよと泣きたくなる。

が、リンダも大概である。 不安定な関係の両親の間に育ったことは同情に値するが、もう30歳なんだからいい加減ふっきろうぜ! しかも父への怒りの大半は、せっかちで短気で怒りっぽい父親に自分が似てるから、ということに起因する。 ヴァランダーが怒りの発作を抑えられないように、リンダもまた瞬間的に沸騰する自分の感情を抑えることができないし、他人を気遣う言葉がいえない(そんな自分を肯定する手段として恋人を欲しがるっていうのがなんとも・・・父親とは違う意味で「大丈夫か、リンダ」と思ってしまう)。
家族って、大変。

そして内容や背景について多く割かれるはずの<訳者あとがき>は、ほぼ柳沢由実子さんによる「ヘニング・マンケルへの追悼文」になっており・・・淡々と事実を述べられているのだが読んでいて涙を禁じえない。 死を前にした彼の最後のエッセイ集『流砂』が今秋発売予定とのことなので、今はただそれを待ちたい、と思う。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本笑う男

2006/02/24 00:51

苦しい休暇、気まずい復帰を乗り越えて

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ケルレン - この投稿者のレビュー一覧を見る

 ヴァランダー警部は、前作『白い雌ライオン』の事件から立ち直ることができず、長く苦しい休暇を経て警官を辞めようと心を決めた。そこへ友人の弁護士が訪ねてくる。父親の事故死に不審な点があるので調べて欲しいというのだ。警官としての自信を失ったヴァランダーが、力になれないと伝えた数日後、その友人が殺されてしまう。事故死と他殺。まるで無関係にみえる二つの事件に繋がりを感じ取ったヴァランダーは、辞意を撤回して捜査を開始する。
 辞職すると聞いていた同僚や部下は、ヴァランダーの部屋を使い、捜査での役割も新たにしていたから、皆、戸惑いを隠せない。かなり気まずい上に、休職が長すぎたせいで聞き込みや会議の進め方にも自信が持てない。そんなヴァランダーだったが、事件の核心に迫るにつれて、だんだんと警官としての勘が戻ってくる。いつも衝突している父親を古い人間だと批判していた自分が、古い警官の部類に入るようになったことを感じ、世代間のギャップにも悩むが、新しい警官像の必要性を認めた上で、自分のような警官も悪くないのではないかと思い始める。ヴァランダー再生の物語ともいえるかもしれない。
 本シリーズの魅力のひとつにスウェーデン小説であることが挙げられると思うが、本書でスウェーデンらしさを感じたのは、新しく登場した女性警官フーグルンドの設定だ。若くて美人で優秀な刑事とくれば、たいてい独身だが、彼女は結婚していて子供もいる。子供が病気になれば仕事を休むし、夜間の捜査が必要になれば夫に子供をみてもらい、「先に寝ててね」と言って仕事に出る。彼女は仕事か家庭かという二者択一で悩んだりはせず、家族のことは家族の問題として、仕事のことは仕事の問題として対処するのである。今後、イースタ署におけるフーグルンドの存在はますます大きくなりそうだ。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

×

hontoからおトクな情報をお届けします!

割引きクーポンや人気の特集ページ、ほしい本の値下げ情報などをプッシュ通知でいち早くお届けします。