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クリスマスに少女は還る
著者 キャロル・オコンネル , 務台夏子
クリスマスも近いある日、二人の少女が町から姿を消した。州副知事の娘と、その親友でホラーマニアの問題児だ。誘拐か? 刑事ルージュにとって、これは悪夢の再開だった。十五年前のこの季節に誘拐され殺されたもう一人の少女――双子の妹。だが、あのときの犯人はいまも刑務所の中だ。まさか……。そんなとき、顔に傷痕のある女が彼の前に現れて言う。「わたしはあなたの過去を知っている」。一方、何者かに監禁された少女たちは、奇妙な地下室に潜み、力を合わせて脱出のチャンスをうかがっていた……。一読するや衝撃と感動が走り、再読しては巧緻をきわめたプロットに唸る。では、新鋭が放つ超絶の問題作をどうぞ!/解説=萩原香※紙書籍版とはカバー画像が異なります。
クリスマスに少女は還る
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クリスマスに少女は還る
2016/01/24 11:30
原題:Judas Child とは「囮の子供」の意味だけど、邦題のほうがいい。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
全体の2/3弱まで読んだところで本を行方不明にしてしまい(未読本の山にまぎれてしまった)、一年以上が経過・・・やっと見つかって、最後まで一気に読みました。 そういう放置本、結構あるのですが・・・読み始めれば内容がすんなり思い出せるのだからそれでいいかな!
クリスマスを間近に控えたアメリカのある田舎町で10歳の二人の少女が失踪した。
実はこの町では15年前にも少女たちが誘拐されて殺害されている。 刑事ルージュ・ケンダルにとって忘れられない事件、殺された少女はルージュの双子の妹だったのだ。
しかしあの時の犯人は今は刑務所の中である。 まったく別の犯人なのか、それとも、過去の事件と同じ犯人なのか。
と、あらすじだけ読めば、よくある「地方を舞台にした年少者対象のシリアルキラー物」という印象ですが、これが他の作品と明らかに違うのは、今回行方不明となった(つまり犯人に誘拐された)二人の少女、サディー・グリーンとグウェン・ハブルのキャラクターによるところが大きい。 ルージュを中心にして大人のパートが二人と犯人を探しているのだけれど、その合間にはどうにかして犯人を出し抜いて脱出しようとするサディーとグウェンの姿が描かれるのである。
グウェンはニューヨーク州副知事の娘で(だからこそ警察側には早期解決のための政治的圧力もかかる)評判のよい生徒。 一方サディーはホラー映画マニアで、賢いが故に大人からは素直じゃないと評されるタイプ。 しかしサディーとグウェンは親友なのだ。
この二人が手を取り合って犯人に立ち向かおうという場面には、彼女たちを応援せずにはいられようか。
そんなわけで、こんなにも「犯人が誰でもいい」小説は珍しい。
いや、ミステリ的にフェアですし、この町の中に犯人が!、というおぞましさも描かれてはいるのですが、サディーとグウェンを助けてやって!、という読者の心の叫びほど強くないといいましょうか・・・だから犯人がわかっても意外性がないというすごさ。
でも読みどころはサディーとグウェンだけではなくて、困った子供と見られがちのサディーをありのままに愛しているサディーの母親、はじめは頼りなさそうに見えたFBI捜査官のアーニー・パイルが終盤に向けて急速に存在感を発揮してきたり、さりげなく描かれていた町の人々の輪郭が次第に浮かび上がってくるところ。 群像劇好きにはたまらない感じです。
そして迎えるエピローグ・・・もう、どうしてくれるんですか。
絶対唯一神への信仰を持たない身としてはわかりにくい部分もあるのですが、でも少女たちの気持ちはわかるからのめりこんでしまうのでしょう。
なんか、キャロル・オコンネルの他の本を読みたいような読みたくないような・・・。
ちょっとこの物語から脱出するのに時間がかかりそうです。 (2012年3月読了)
クリスマスに少女は還る
2001/06/03 23:06
ページ数も関係なし
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:松内ききょう - この投稿者のレビュー一覧を見る
こんなラストを迎える小説はないと思っていた。これほど驚くラストを、ごく自然に涙して受け止めさせるような小説なんてないと。緻密な構成と浮き立ったキャラクター描写によって、一見混ざり合うはずのない連続殺人の話とクリスマスのタイトルが、ギリギリのところでなおかつ重厚な安定感を保っている。サスペンス小説にも、サスペンス以上のものを求める方にはぜひ。
クリスマスに少女は還る
2020/02/03 00:29
「還る」に隠された意味
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゲイリーゲイリー - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は警察小説であり、友情の物語でもある。
また、贖罪と救済の物語でもある。
本書の何より凄い部分は、それらの要素を完璧に混同させていることだ。
誘拐犯を追う警察パートでは、天性の知能を持つルージュを筆頭に物語が進んでいく。
彼と関わる法心理学者のアリ・クレイやコステロ警部、FBIのアーニー・パイル、警察職員のマージ・ジョナスなどの多くの人物が登場する。
しかし本作では1人1人の人物造形が非常にしっかりしているため、キャラクター同士を混同する恐れは全くない。
本作はルージュの過去とアリ・クレイが物語の鍵となっている。
アリ・クレイが持つ傷の謎や15年前の事件に隠された真相なども徐々に交差していく。
本作の上手い部分は、その謎を物語の序盤で呈示しておき読者に十分推測させる余地を与えているところだ。
真相が明らかになった時、その完膚なきまでの整合性に舌を巻くに違いない。
警察パートと並行して、誘拐された少女たちの物語も展開されていく。
監禁場所から脱走しようと懸命に知恵を絞るグウェンとサディ―。
とても悲惨な状況ながらも決して暗澹たる気持ちにならないのは、2人の友情をうまく描いているためであろう。
と同時に、2人の友情をうまく描いているが故に悲しい気持ちになる描写もある。
また、サディ―のキャラクターがとても素晴らしい。
決して脱走を諦めようとせず、誰よりも親友のグウェンを思う姿は愛せずにはいられない。
本作は誰が誘拐犯なのかといったフーダニット的要素ともう一つのサプライズがある。
それらだけでも十分良質なミステリー小説なのだが、個人的には登場人物が抱える悲しみの描き方がとても素晴らしいと思った。
誘拐された少女たちの家族や、虚無感を抱えるルージュやその母親。
一つの事件が与える影響力の大きさをまざまざと見せつけられた。
本作を読了後、題名の「還る」の意味が腑に落ちるだろう。
その時に抱く感情を是非味わってほしい。