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32件
ジャック・フロスト警部シリーズ
著者 R・D・ウィングフィールド , 芹澤恵
【第1位『週刊文春』1994年ミステリーベスト10】クライヴは内心腐っていた。刑事に昇進したのも束の間、栄光のロンドンから七十マイル以上離れたこんな田舎町に配属になるとは。だが、悲嘆にくれている暇はない。じきにクリスマスだというのに、日曜学校からの帰途失踪した八歳の少女、銀行の正面玄関を深夜金梃でこじ開けようとする謎の人物など、市には大小様々な難問が持ちあがる。いや。最大の難問は、不撓不屈の仕事中毒にして、死体と女の話をこよなく愛する、上司のフロスト警部であったかもしれない……。続発する難事件をまえに下品きわまる名物警部が奮闘する、風変わりなデビュー作!
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フロスト気質 上
2008/09/12 00:17
諸君、「感じるんだよ、直感でわかるんだ」 フロスト警部は。
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:拾得 - この投稿者のレビュー一覧を見る
7年ぶりのフロストシリーズの翻訳。多くのファンが待ちこがれていたはずだ。そして、フロスト警部は相変わらずだ。お下劣な発言を連発し、机の上は整理されず、署長の煙草をくすねてみては、デスクワークはあとまわし・・・。休暇の合間に立ち寄ったデントン警察署では、管内で事件が立て続けに発生し、フロスト警部はまたまた怒濤の数日を過ごすことになる。ミステリーというと奇怪な事件が起き、それを名探偵が鮮やかに解いたりするそうだが、本シリーズにはその片鱗もない。華麗な推理とはほど遠く、行き当たりばったりのようなドタバタとした捜査が続く。部下のみならず読者もそれにひきまわされるのも相変わらず。今までの作品とパターンは大して変わらない。それでもいいのである。いや、それがいいのである。
本書がおさめられている「創元推理文庫」の刊行目録には、〈本格〉、〈ハードボイルド〉、・・・といった分類が記されており、読者はこれで好きなジャンルの作品が選べる仕掛けになっているようだ。ちなみにフロストシリーズは〈警察小説〉というラベル付けがなされている。確かに、警察署内の人間模様も本シリーズの楽しみの一つである。上司とのやりとり、同僚との仲間意識、セクションごとの駆け引き、新人刑事とのやりとりとその成長、・・・。従来の「刑事もの」とは一線を画し、警察という組織を上手に舞台装置として仕立て上げたストーリーに、日本国内でもドラマ「踊る大捜査線」や、横山秀夫の一連のD警察署の作品群がある。いずれも「警察もの」なのだが、フロストシリーズはどこかが違う。それをなんと表現したらよいか。我らが愛すべきフロストが主人公なのだからとしかいいようがない。そう、フロストシリーズは、「感じるんだよ、直感でわかるんだ」なのである。
実は、本シリーズで現れる事件もそうそう生やさしいものではない。本作でも、冒頭から少年の誘拐と、別の少年の死体が発見されるなど、忌まわしい出だしである。また、他にも深刻な殺人事件や事故が発生する。そのそれぞれにフロストは嘆き、右往左往もする。しかし、彼はそれを引きずらないし、仕事上からも引きずれない。陽気に部下を叱咤激励して捜査を続けなくてはならないのだから。そのうえ彼は人間だ。実は(時間的には)超人的な働きをしているのだが、煙草も吸えば食事も摂るし、同僚相手にバカ話もする。情にももろいが、自分の欲にも忠実だ。そんな人間臭さを一身に体現したフロストの存在そのものが、事件の深刻さをやわらげているかのようだ。
ところで、「あとがき」で改めて知ったが、原作者ウィングフィールド氏は昨年亡くなられたそうだ。本邦未訳のフロストシリーズもあと2作となった。だから、われわれフロストファンも、人間臭く言おう、
「お帰りなさい、フロスト警部。さようなら、ウィングフィールドさん。」
フロスト日和
2009/12/20 23:34
フロスト警部シリーズ、第二作
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:読み人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
私、フロスト・シリーズ、初読みです。
各方面で面白いって聞いていましたが、マジで、面白かったです。
デントンというイギリスの中規模の街が舞台で、
どこにでも居そうで、どこにも居ないフロストという名物警部が活躍します。
この傲岸不遜にして、成り行き任せのいきあたりばったり、
下ネタ大好き、反省は表面だけという、このダメダメ警部なのに、
なぜか憎めないし、どういうわけか活躍してしまうこの男。
本書のキーは、やっぱりこのフロスト警部のキャラが一番だと思います。
で、けっこうひどいキャラのようで、優しいんですよね。
が、それだけじゃありません。
本書、一応というか、一級の警察小説でもありまして、
最初のトイレでの浮浪者の殺人事件から始まり、休む暇なくというか、
正に事件は五月雨式に起こっていきます。
で、しかも、どの事件も、微妙に繋がっていて、無駄なエピソードが一つもない!!。
これらがえもいわれぬ緊張感で読者を引っ張っていきます。
なんだ、このストーリーテリングは、、と。
一応、捜査のスタイルも中年の警部と左遷された若手のコンビと
警察物の定番の定番ではあるんですが、やっぱり作家の力量でしょうね、、。
組み立て、時折挟まれるユーモアとさりげない優しさ、上手いです。
みんなが褒めるので、どんなもんじゃい?と
二作目からエントリーしたわけですが、
感服いたしました。
ちゃんと追いかけたいと思います。
フロスト気質 上
2008/12/25 19:16
もう新作を読むことはできません。でも未訳がまだ残っている、それが救いです。ともかくこんなに面白い本を読まない手はありません、読まない人は指カンチョー!
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
毎年、年末近くなると「そろそろ出る頃かな」と私をして東京創元社のHPを覗かせるのが、R・D・ウィングフィールドも『フロスト』シリーズです。炬燵に入って、とは行きませんが、暖房の効いた部屋(我が家では燃料費節約のため、窓辺の日当たりのいいところに座って)で読むフロストの活躍は、まさにサンタが運んでくれるクリスマスプレゼントと言っていいでしょう。
とはいえ、前回、第三作が訳出されてから今回の本がでるまで7年が過ぎたというのですから、待たされたものです。おまけに今回の本の原作は1995年に出ている。評価も定まらない無名の作家の新作を出版するくらいなら、こんなに面白いシリーズを先に出してほしい、本当にそう思います。佐々木小次郎ならずとも「待ちかねたぞ、東京創元社!」といいたくもなります。
とはいえ、文句を言っている暇があったら、読みたい、というのが偽らざる思い。お馴染み村上かつみのイラストが載った、矢島高光デザインのカバーを愛でながら、早速、内容チェック。それにはカバー後の言葉を見るのが一番。二冊まとめて引用してしまいましょう。まずは上巻です。
ハロウィーンの夜、ゴミの山から少年の死体が発見され
たのを手始めに、デントン市内で続発する難事件。連続
幼児刺傷犯が罪を重ね、15歳の少女は誘拐され、謎の腐乱
死体が見つかる・・・・・・。これら事件の陣頭指揮に精を出
すのは、ご存じ天下御免の仕事中毒、ジャック・フロス
ト警部。勝ち気な女性部長刑事を従えて、休暇返上で働
く警部の雄姿をとくと見よ! 大人気シリーズ第4弾。
次が下巻。下
カーヴィ少年の失踪は誘拐事件に変貌した。身代金受け
渡しの場へと急行するフロスト警部だが、その鼻先で事
態は思わぬ展開を見せる。はたして少年の安否は・・・・・・?
母子四人殺害をはじめ、事件は山積みで、警部の疲労と
マレット署長の不機嫌は募るばかり。キャシディ警部代
行との仲も悪化する一方だ。悪態をつきつつ雨中を駆け
ずりまわる警部に、光明は訪れるのか? 解説=荻原浩
上巻はプロローグ以下タイトル無しの十章構成。下巻は十一章から二十章の本文と、荻原浩の「まったく、もう、しょうがないなぁ。」というタイトルの解説。その中で、現時点でのフロストシリーズは2008年に出た A Killing Frost をいれて六冊しかなく、翻訳はあと二冊を残すのみという衝撃的な情報が・・・
いえいえ、そこにはもっと大切なことが書いてありました。なんと、R・D・ウィングフィールドが79歳で亡くなった、というのです。79歳だから、亡くなってもおかしくはない年齢ではありますが、新聞にそんな記事が出ていたかな、なんて思います。それと、私の中のウィングフィールドは、50代後半から60代前半だったので、79歳には驚きました。
ただ、解説の荻原浩もいい加減で、何年に亡くなったかが全く不明。東京創元社も不親切で、本に訳者紹介はあっても、著者紹介がありません。要するに没年が不明です。ま、解説の中にフロストシリーズ第六作として A Killing Frost 2008 とありますから、今年2008年に亡くなったのか、と思いますが、もしかするとその本は以前に書かれた短篇をまとめた遺作かもしれない。
未訳の第五作 Winter Frost の出版が1999年ですから、可能性であれば、7年前に出た第三作の解説に、病気という記述もないので、それ以降なら何時が没年であっても矛盾しません。こんな基本データを曖昧にしておくなんて、荻原も東京創元社も無期懲役もんじゃないでしょうか。それに、1995年に本国で出版されている今回の訳出の遅さ、無期懲役では甘い!死刑。裁判員制度が始る前ですが判決を言い渡したくなります。
内容ですが、読んでいるこっちが疲れてくるようなフロストの疲労ぶりです。しかも天候はイギリスらしく雨が多い。事件の解決の見通しがたたないままに、発見される遺体の数ばかり増えていきます。上部からの圧力には無神経なフロストですが、でも目途の立たない事件に一番頭を悩ませているのもフロストです。思わず「頑張って」って言いたくなります。
ともかく面白いので、未読の方は炬燵を引っ張り出して年末の休みにお読みください。いい年を迎えること請け合いです。最後に、登場人物紹介で終わりにしましょう。
ジャック・フロスト:デントン警察の警部。下品な話が大好きで、知り合いが何気なくお尻を突き出していれば、指浣腸をせずにはいられない。セクハラ発言など気にしたことも泣く、上司のミスを見つければ皮肉を言わずにはいられない。上昇志向とは無縁のおじさん。
リズ・モード:上昇志向の強い女性部長刑事。今回の事件では、自分が警部代行に任命され、昇進することを夢見て、マレットに働きかけるなど積極的。あだ名は、ワンダー・ウーマン、小生意気なちびすけ女とも言われる。実に乱暴な運転をする。この作品では、フロストから嬢ちゃん、と呼ばれる。
ジョー・バートン:刑事。フロストから、坊や、と呼ばれる。坊やと嬢ちゃん、引率するフロスト先生、っていう図式?下巻で意外な姿を見せる坊やではあります。
アーサー・ハンロン:フロストの友人といってもいい部長刑事で、フロストに指浣腸された時の様子がなんともいえません。興味のある方は上巻の155頁をお読みください。
スタンレー・マレット:警視。デントン警察署長。ともかく、出費を抑え、事件の早急な解決を望む、よく世にいる管理職タイプ。破天荒なフロストとは合わず、いつも馬鹿にされている。
アイダ:マレット警視の秘書で、フロストのことを毛嫌いする。理由は・・・
ジム・キャシディ:警部代行。事件の犯人に刺された傷が癒えないのを隠しての職務。4年前まではデントン警察の下っ端刑事。上昇志向が強く、残業は申請せず、手柄は独り占め、家庭を顧みないなど、周囲からは嫌われ、娘の事故死で離婚、レクスフォード署に移動したが、今回はデントン署に応援に。娘の事故死の追及があまかったとフロストを目の敵にする。
サミュエル・ドライズデール:内務省登録の病理学者で検死官の博士。現場にロールス・ロイスで乗りつけるクールなプロ。あだ名は、死神博士。
ボビー・カービィ:行方不明の少年。7歳。
エイダ:夫を16年前に亡くし娘と暮らす徘徊癖のある老女。車に乗せると失禁する癖もある。彼女をフロストがどのように上手に家に送り届けるかは見もの。